「十二支」の順番がナットクできない。実際の動物のスピードを考えると、どんな順番になるか?
あけましておめでとうございます。柳田理科雄です。
さあ、2022年となりました。今年も、マンガやアニメやゲームや昔話の世界を、空想科学の視点で楽しく考察してまいります。
さて、今年は寅年。十二支でいえば3番目……なんだけど、この十二支、ちょっと順番がおかしくないですか?
聞くところによると、ある年の元日にレースが行われ、この順番になったというのだが、虎や兎や馬など俊足で鳴らす動物たちを抑えて、鼠が1位! それホント!? いったいどういう勝負をしたら、そういうナゾな結果になんの!?
しかも、猫は鼠に「勝負は1月2日だよ」と騙されて参加することさえできず、それゆえ十二支に入っていないという。そんな不正がまかり通っていいのか!
十二支の「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」は、もともとは古代中国の殷王朝で「年」を表す言葉として使われていた文字で、日本には6世紀頃に伝わったという。
なんと1500年も前から使われているのだ。
筆者としては、この十二支をぜひとも科学的にナットクのいく順番に変更していただきたい。
そのためにもここは一つ、気の毒な猫も入れた動物13匹で、十二支のレースをやり直してみよう。
新年早々、これは重要な競争になりますぞ~。
◆それでレースといえるのか!?
そもそも、現在の「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」を生んだ「十二支決定レース」とは、どんなものだったのか。
『十二支のはじまり』(岩崎京子・文 二俣英五郎・画/教育画劇)という本では、こう伝えている。
むかし、ある としの くれ、かみさまは どうぶつたちに おふれを だしたんだと。
「しょうがつの あさ、ごてんに くるように。きたものから 十二ばんまで じゅんばんに 一ねんずつ、その としの たいしょうに する」。
なるほど、神さまがお正月にレースを開催したわけか。
「御殿に来た者、先着12名」というルールは一見フェアそうだが、果たしてそうだろうか。
ゴールは指定されているが、スタート地点についての言及がない。どこからスタートしてもいいのなら、御殿の近くに住む動物が有利になる杜撰なルールだが、それだけではない。
うしは まえの ばんから ごそごそ したくを したんだと。
「あれ、もう でかけるのかよ、うしさん」ねずみ がきいた。
「ああ、わしは のろいからね。いまから いけば ちょうどええ」。
なんとなんと、いつスタートしようと選手の自由!
う~む、昔の話とはいえ、まことにおおらかですなあ。
その結果どんなレースが展開されたかというと、鼠はずっと牛の背中に乗っていき、ゴールの直前に御殿に駆け込んで1着!
空を飛べるはずの竜は、ニョロニョロ仲間(?)の蛇といっしょに行こうとして5位に沈む。
昔から仲の悪かった猿と犬は、レースの最中にケンカして、仲裁に入った鶏ともども9~11位と惨敗。
そして猪は、猪突猛進のあまり御殿の前を通り過ぎてしまい、痛恨の最下位……!
――あのう、この勝負、あまりにグダグダじゃないですか? これで十二支が決まったとは情けない。
◆これが動物たちのスピードだ
では、科学的にナットクのいく順番とはどういうものか。
実際に動物たちを集めてレースを開催したいところだが、動物たちがおとなしく競技してくれるとは思えないので、ここは推測しよう。動物たちはどんな速度で走るのか。
本やネットに速度が出ているものは、それを採用し、それ以外のものは、筆者の経験その他から強引に算出するなどした結果、13匹の動物たちの速度は以下のようになった。
子=鼠:時速10km
丑=牛:時速4km(注1)
寅=虎:時速64km
卯=兎:時速72km
辰=竜:時速360km以上(注2)
巳=蛇:時速16km(注3)
午=馬:時速68km(注4)
未=羊:時速13km(注5)
申=猿:時速30km(注6)
酉=鶏:時速18km(注7)
戌=犬:時速36km(注8)
亥=猪:時速45km
猫:時速48km(注9)
というわけで、空を飛べる竜が圧勝!
以下、兎、馬、虎……と順当な顔ぶれが続く。猫もめでたくランクイン。
これに基づく十二支は、こんな順番になる。
1番:辰=竜
2番:卯=兎
3番:午=馬
4番:寅=虎
5番:猫
6番:亥=猪
7番:戌=犬
8番:申=猿
9番:酉=鶏
10番:巳=蛇
11番:未=羊
12番:子=鼠
落選は牛!
えっ、丑!? わ~っ、筆者は丑年生まれなのに~。
なかなか興味深い結果となったが、冷静に考えるとこれ、メンバーの選定がおかしくないだろうか。
爬虫類が1匹だけで、あとは哺乳類10匹に、鳥類1匹に、空想上の動物1匹(竜)って、たいへんバランスが悪い。
カエルやサンショウウオなどの両生類、コイやタイなどの魚類、トンボやカブトムシなどの昆虫、タコやイカなどの軟体動物……と、参加していない動物がゴマンといる。生物の多様性も考慮していただきたい。
そもそも「真冬に陸地で競走」というルールでは、冬眠する動物も、渡り鳥も、海棲動物も参加不能。サンゴやフジツボなどの動けない動物たちは、もうどうしたらいいんだか。
神さまにはぜひともルールを再考し、全地球150万種の動物のなかから納得できる十二支を選び直してほしい。
――という調子の考察を今年も繰り広げていきます。どうか2022年も、楽しくよろしくおつき合いください。
※動物の走る速度についての注
注1:牛は人間に引かれて荷物を運ぶので、速さは人間と同じとした
注2:竜は自在に空を舞うといわれるが、偏西風より遅いと吹き流されてしまうから、その最速値より速いはず、と考えた
注3:ヘビは、計測値のあるブラックマンバの速度
注4:馬は競走馬のスピード
注5:羊の群れは人が馬に乗って誘導する。馬の走り方には4段階があるが、2番目に遅い「速足(はやあし)の速度=時速13kmとした
注6:ニホンザルの計測値
注7:鶏の速度は、筆者の経験から。小学5年生のとき、走って鶏を捕まえたことがあるのだが、当時の自分の50m走のタイムから計算すると時速18kmとなる
注8:日本犬は50mを5秒で走る
注9:猫の時速48kmは瞬間的なスピード