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知られざる数億ションの世界(7)富裕層が購入を見送る「嫌われポイント」はどこ?

櫻井幸雄住宅評論家
数億ションの「嫌われポイント」は何?写真の中にヒントあり……筆者撮影

 数億ションを迷わず購入、ときには複数購入する富裕層の多くが敬遠する「嫌われポイント」がある。立地、広さ、デザインなど基本項目をチェックした上で、「これを外すことはできない」と確認されるポイントだ。それは、どこか?ヒントは上の写真の中にある。

 窓からの日当たり?収納スペースの広さ?寝室まわりの床をカーペット敷きにするような心地よさ?貴重品を安全に保管するセキュリティ?

 いずれも重要なチェックポイントだが、決定要因にはならない。妥協できたり、購入後に改良できたりする要因である。

 答えは、写真中央にある。

 ヒントとなるのは、赤いミニカー。そう、高級車をストレスなく止めることができる駐車場がついているかどうか、それが重要なチェックポイントとなり、ときに決定要因になってしまうのだ。

駐車場で、「じゃ、いいですー」となることも

 分譲価格が数億円、数十億円となる数億ションの場合、販売センターを訪れる購入検討者の決定率(そのマンションを購入する比率)は高い。

 すでに、複数のマンションを購入しており、知識も経験も豊富。そして、買うかどうか分からない物件を見に来るほど暇でもない。立地、広さ、デザインなどをネットで調べ、「これだったら、購入してもよい」と考えているから、わざわざ販売センターや建設地に足を運ぶ。だから、購入に至る可能性が高いわけだ。

 といっても、必ず契約に至るわけではない。最後にいくつかの点を確認することになり、そのチェックが非常に厳しい。

 この最終確認では、販売センターや建設地に行かないとわからないこと、そして購入した後、変更できないことを中心に調べる。たとえば、マンション共用部の内装がどのようになるのか、建物に出入りするルートはいくつあり、どのようなセキュリティが凝らされるか、など。なかでも、多くの購入検討者が熱心に調べるのが、駐車場の使い勝手だ。

 まず、公道からマンションへの道順はスムーズか。マンションの敷地内に入り、駐車場までのルートに障害はないか。さらに、確保できる駐車場はどのあたりになるのか、などを入念に調べる。

 それは、車幅が広く、車高が低くてタイヤが極めて薄い高級車で乗り入れることが多くなるからだ。

マンションの道路が狭いも「嫌われポイント」に

 車幅が広く、車高が低く、タイヤが薄い車を運転しているとき、幅広の道からマンションの敷地までのルートが狭く、見通しのわるい角を曲がらなければならないと、ストレスが生じる。

 「通れないことはないが、注意して運転する必要がある」と分かると、購入検討者のボルテージは一気に下がる。「ちょっと考えて、また連絡する」と言ったきり、音沙汰なしとなりかねない。

 そのような購入検討者が続出したため、販売に苦労した都心の高額マンションが実際にあった。

 東京都心部の一等地、港区の南青山や白金台で幅の広い幹線道路から一歩奥に入った場所では、この「ルート問題」が起きやすい。「交通量の多い道路から一歩入った閑静な場所」がアダになることがあるのだ。

 幹線道路からマンションの敷地までが問題なしであれば、次の項目に入る。

 じつは、入念なチェックが本格的にはじまるのは、ここからなのだ。

駐車スペースまでのルートは運転しやすいか

 都心の高額マンションの場合、地下に駐車場を設けることが多い。その場合、地下駐車場までのスロープが設けられる。このスロープが急勾配だと、車高の低い車は車の底を擦りやすい。

 低い車体をこすることなく走行でき、しかも、駐車場に入る車と出る車が対峙してしまうようなことがないこと……以上が最低限の条件となる。入り口から一方通行になり、出口は別の通路で、そちらも一方通行というのも好まれる。

高額住戸のあるマンションに設置された地下駐車場への通路。写真は大規模マンションのものだが、総戸数100戸程度でも、幅広で緩やかな通路が設けられる。それもマンション価格を押し上げる要因になる。筆者撮影
高額住戸のあるマンションに設置された地下駐車場への通路。写真は大規模マンションのものだが、総戸数100戸程度でも、幅広で緩やかな通路が設けられる。それもマンション価格を押し上げる要因になる。筆者撮影

 さらに、駐車場内で車道と歩道が分けられているとき、車道と歩道の高さの違いもチェックされる。一般的な歩道は車道より5センチ以上高くされることが多い。しかし、タイヤが薄い車の場合、5センチの高低差ではアルミホイールが傷つくことがある。

 そこで、高額マンションでは、歩道の段差を2センチ程度にしたり、段差を設けずに、白線で車道と歩道を分けるケースが多い。「車道と歩道の段差なし」が数億ションにおける最新のトレンドだ。

駐車場に、専用スペースが用意されることも

 最後のチェックポイントは、どのような駐車スペースが用意されるのか、ということ。全戸分の駐車スペースが付いているのは当然として、どんな場所か、が問題になるのだ。

 と、ここで「そんなこと、できるの?」と疑問に思う人もいるだろう。

 マンションの駐車場は共用部となり、どの場所を使うかは抽選や先着順で決まるもの。入居する前に、「この場所」と定められることはない、と。

 たしかに、一般のマンション駐車場は、住戸の購入契約時に場所を定められることはない。しかし、超高額のマンションでは事情が異なる。分譲時点で「この住戸の購入者が使う駐車スペース」が定められることがある。さらに、駐車スペースも借りるのではなく、「分譲」されることがある。

 それは、「どの駐車場を使えるのか、はっきり分からないと購入を決断できない」という人が多いからだ。

 専用駐車場のなかには、地下でありながら、シャッター付きの“個室”になっていることもある。駐車場全体の入り口にシャッターがあるのは当然として、それに加えて、1台分のスペースにもシャッターが付いているわけだ。

実際に、超高額マンションで採用されたシャッター付きの専用駐車場の例。筆者撮影
実際に、超高額マンションで採用されたシャッター付きの専用駐車場の例。筆者撮影

 オークションに出せば、マンション住戸よりも高額で落札される可能性が高い車を所有している人は、そのような専用駐車場を好む。24時間警備員が常駐するマンションで、空調付き・シャッター付きの駐車場があれば、一戸建ての駐車スペースよりも安心感が大きいからだ。

 もちろん、大雨で浸水することがないよう、高台立地も大事な条件となる。

 そのように魅力的な駐車場があれば、「その駐車場が欲しい!」という動機で、マンション購入が前向きに検討される。

 それどころか、地下に設けられた駐車場が気に入り、そのマンション住戸十数戸をすべてまとめ買いした、というウソのような買い方をした人の話も残っている。貴重な車のコレクションを安全に保管するため、「自分だけの地下駐車場」が欲しかったのだろう。

 ちなみに、災害対策や盗難対策を考えると、機械式タワーパーキングの評価も高い。タワーパーキングは車の出し入れが面倒と思われがちだが、高額マンションに採用される機械式駐車場はパレットが大きく、段差もない方式。そして、「前進入庫」で、出庫時も車が前向きに出てくる「前進出庫」だし、待ち時間を減らすために「出庫予約」ができて使いやすい。

 さらに、駐車場に専用係員がいて、駐車スペースへの出し入れを代行するバレーパーキングを採用するところもあるのだが、「他人に運転させたくない」という人もいるので、利用するかどうかは自由だ。

 このように、駐車場に特別の工夫がいくつも凝らされる……じつは、それ、数億ションにとって極めて重要なポイントなのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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