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奨学金は借りるべきか? 知っておくべき「保証人」のリスクと対処法

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 受験シーズンも来週の国立大学の入学試験で一段落することとなり、すでに進路が決まっている高校生も多いだろう。その中で、奨学金返済問題への関心が高まり、筆者の元へも「借りるべきか」との相談が多く寄せられている。

 実際に、私立大学であれば年間100万円以上に上る学費や入学金をどう賄うかが、受験生の親にとっては大きな悩みの種になっていると思われる。学費や生活費を工面するために、高校で案内された奨学金にすでに申し込んでいたり、これから申し込もうと考えている家庭は多いだろう。

 同時に、自分の子供が奨学金を借りなくとも、甥や姪、孫やいとこが奨学金を借りるので「名前を貸してほしい」、「保証人になってほしい」と頼まれる機会も増える。

 親族の進学のためであれば、できれば保証人を引き受けたいと思うのが人情だろう。ましてそれが、公的機関が関係する「奨学金」であれば、「それほどの危険はないはず・・・」と考えてしまいがちだ。しかし、奨学金の「保証人」の実態はそれほど甘いものではない。多くの保証人が訴えられ、自己破産や離婚などに至るケースも珍しくはないのである。

 そこで今回は、奨学金の保証人が背負うことになるリスクの実態について考えたい。

約4割の学生が奨学金を借りて進学している

 まずは、日本の「奨学金」のほぼすべてを占めている、日本学生支援機構「奨学金」の実情を概観していこう。

 いまや奨学金は経済的に余裕のない一部の学生だけが借りるものではなくなっている。奨学金を借りていた学生は、2006年度は3.7人に1人(27.1%)だったのが、2016年度には2.7人に1人(37.7%)と1.4倍にまで増えていることがその証左だ。

 背景には、家計状況の悪化による仕送りの減少と学費の高騰がある。国税庁の調査(民間給与実態統計調査)によれば、2014年度の平均年間給与は415万円とピークの1997年の467万円から約50万円も減っている。同時に仕送りも減少し、親からの仕送りを1円ももらっていない学生が9.1%もいることが分かっている(全国大学生活協同組合連合会「学生生活実態調査」)。

 大学の学費も年々高騰し続けており、比較的安いと言われている国立大学でも年間約54万円、私立大学では平均年間約86万円も授業料だけでかかる計算だ。この現状で「学費は何とかするから、奨学金とアルバイトで下宿の生活費は負担してくれ」と親が子供に頼むのも無理はない。

 こうして奨学金を借りる学生が増え続けている。

奨学金を借りるには「保証人」が必要

 しかし、奨学金は「教育ローン」であり借金である。確かに今年度から「給付型奨学金」が発足したが、その給付対象者は低所得者層のみが対象で、人数も2万人と全学生の3%にも満たない限定的なものとなっている(給付型奨学金について、詳しくは「「給付型奨学金」の利用方法と注意点」をご覧いただきたい)。

 つまり、「奨学金」は基本的には返済が求められ、通常の借金となんら代わりがない。

 そして、借金である奨学金を借りる際には、自分が返済不能になった時に備えて、「連帯保証人」と「保証人」の2人用意するか、保証機関と契約することが求められる。保証人は両親どちらか及び親族とされており、多くのケースで「連帯保証人」に父親(母親)が、「保証人」に親の兄弟(叔父、叔母)もしくは親の親(祖父、祖母)なっている。

 この保証人制度こそが、日本の奨学金の一大問題である。ここでいう保証人とは、本人が返済不能になった際に代わりに返済する義務が生じるものであり、単に「名前を貸す」というレベルに留まらない法的責任が伴う立場になるのだ。

 繰り返しになるが、その責任は、「奨学金」という福祉制度の手続き上の「名義貸し」などではないことに特段の注意が必要である。本人が返済困難に陥ってしまった場合、後述するように、5年ないし10年後に突然数百万円の借金の支払督促が届くことに繋がってしまうことになる。

返済できないケースが急増している

 奨学金を貸している日本学生支援機構(JASSO)によれば、1件あたりの平均借入額は無利子の第1種で237万円、有利子の第2種で343万円となっている。この金額は、住宅ローンを除けば、奨学金が一生で一番高い借金になる可能性が高いことを意味している。

 ところが現在、返済に行き詰まっている人が急増している。

 奨学金を3か月滞納すると個人信用情報機関(いわゆるブラックリスト)に載せられるが2016年度は21242件が登録されており、これは2010年度の約5倍である。さらに、9か月延滞してしまうと一括返済を求める裁判を起こされるが、2016年度には9106件の裁判が提起されていることが分かっている。

 そしてそれでも返済できずに、財産の差し押さえになる強制執行が387件、破産は少なく見積もって556件(2015年度)、朝日新聞のデータでは3451人(2016年度)と深刻な状況になっている(奨学金破産、過去5年で延べ1万5千人 親子連鎖広がる)。

 大学を卒業しても正社員の仕事を見つけられない若者が増えており、また正社員として就職できても実は「ブラック企業」で2~3年で使い潰されて退職せざるを得ない状況が珍しくなくなっている。奨学金を借りた本人が返済に行き詰まり破産してしまうと、残りの債務が延滞金とともに連帯保証人や保証人に請求されることになるのだ。

連帯保証人の「リスク」

 私が代表を務めるNPO法人POSSEの奨学金相談窓口には、年間200件も奨学金返済に関する相談が寄せられる。実は、6割ほどは借りた本人ではなく、連帯保証人や保証人になった親や親戚からの相談である。

 その多くは「名義を貸しただけ」と返済義務があることを知らなかったり、そもそも親族がいくら分の奨学金を借りたのかが分かっていなかったりと、保証人になったことの重要性を把握せずになってしまったケースだ。

 また、「何かあっても絶対に迷惑はかけない」と頼み込まれて、渋々保証人になった、という人もいる。しかし、奨学金の債権回収を進める側はそんなことはお構いなしに一貫して保証人にも返還を求めてくる

 債権の回収は国の関係機関ではなく、民間の債権回収会社に委託されており、通常の金融商品と基本的に同じように債務者に返済を迫り、返済できない場合には訴訟を提訴されることになるのだ。

 具体的には以下のような状況となる。

相談ケース1 甥の保証人になった30歳代女性

 甥(20歳代)が関西の私立大学に通うために保証人になった。しかし甥は大学を卒業して1年後から奨学金の返済をしておらず、連帯保証人の甥の父は無職で行方がわからなくなってしまった。奨学金はあと300万円以上残っており、これからどんどん延滞金も加算で増え続ける一方になってしまう。自分にも余裕がなくどうすればいいか。

相談ケース2 姪の保証人になった50歳代の女性

 姉の子供(30歳代)が私立大学に通う際に借りた奨学金の保証人になった50歳代の女性のところに、ある日突然、JASSOから奨学金の返済を求める手紙が届いた。奨学金を借りた姪が何年も返済をしておらず、連帯保証人となっている姪の父親が請求を無視しているとのことだった。女性は奨学金関連の書類にサインしたことは記憶しているが、書類をよく確認しておらず自分が保証人なっていたことを手紙が届いて初めて確認した。借りていた奨学金の金額は全て合わせて800万円で到底返せるものではない。

(これら以外にもブラック企業に入社して返済に行き詰まってしまったり、連鎖的な破産に追い込まれたりした事例・対処法に関しては、拙著『ブラック奨学金』(文春新書)で詳細に紹介している)

 これらの事例からも分かるように、奨学金は単に「返せない若者」の問題ではなく、親や兄弟、親戚までを巻き込む可能性のある深刻な問題である。奨学金破産は、家族である保証人を巻き込むのだ。

 冒頭にも述べたように、孫や甥・姪の奨学金返済が滞ったために、彼らの両親と共に連鎖的に自己破産に陥いるケースや、自分の配偶者を巻き込まないために離婚に至るケースのあるなど、容赦のない取り立ては保証人の人生を狂わせている。

解決策=「断って機関保証を進める」

 では「保証人になってほしい」と言われたらどうすればよいか。一番分かりやすい解決法は「断って機関保証をすすめる」ことだ。「機関保証」とは、保証会社に保証料を支払うことで、保証人の代理を務めてもらうという方法である。

 この場合、一定の金銭の負担は必要になるが、それでも将来的な連鎖的な破産を回避することのほうがメリットは大きい。

 その上で、すでに保証人になってしまっていたり、返済を求める請求が届いていたりした場合はすぐに専門家に相談してほしい。というのも、中には「自分が知らない間に勝手に保証人にされていたケース」や、「そもそも時効になっていて請求自体が無効なケース」など、精査すれば返済する義務すらないケースも存在するからだ。

 重要なのは、破産や財産の差し押さえといった最悪の自体に陥る前に、できるだけ早めに相談するということだ。実際に、私たちをはじめとした奨学金問題に取り組んでいる団体に相談したところ、請求額を減らすことができたケースもある。

 下記の窓口は弁護士や司法書士が参加あるいは連携しており、無料で電話やメール相談を受付けている。まずは相談して自分の状況を確認していただきたい。

無料相談窓口

NPO法人POSSE 奨学金ナビ

03-6693-5156

soudan@npoposse.jp

http://www.npoposse.jp/syogakukin/index.html

奨学金問題対策全国会議

03-5802-7015

http://syogakukin.zenkokukaigi.net/

北海道学費と奨学金を考える会(通称 インクル)

〒060-0061 北海道札幌市中央区南1条西10丁目4番地 南大通ビルアネックス4階

弁護士法人 誠信法律事務所(事務局長 弁護士 西博和)

TEL 011-281-6181(月曜~金曜 9:00~17:00)

https://incl-hokkaido.jimdo.com/

みやぎ奨学金問題ネットワーク

〒980-0804 仙台市青葉区大町2-3-11 仙台大町レイトンビル4階

新里鈴木法律事務所内 事務局長 弁護士 太田伸二

TEL 022-711-6225(月曜・水曜・金曜 13:00~16:00(祝日はお休みです))

http://miyagi-shougakukin-net.com/

埼玉奨学金問題ネットワーク

〒330-0064 埼玉県さいたま市浦和区岸町7-12-1 東和ビル4階

埼玉総合法律事務所(事務局長 弁護士 鴨田譲)

TEL 048-862-0800(月曜~金曜 9:00~17:00)

http://saitama.syogakukin.net/

奨学金返済に悩む人の会

〒162-0815 東京都新宿区筑土八幡町2-21-301

首都圏なかまユニオン気付(事務局 伴幸生)

TEL 03-3267-0266(日中の時間帯対応可)

愛知奨学金問題ネットワーク

〒462-0810 愛知県名古屋市北区山田1-1-40 すずやマンション大曾根2階

水谷司法書士事務所(事務局長 司法書士 水谷英二)

TEL 052-916-5080(月曜~金曜 9:00~17:00)

大阪クレジット・サラ金被害者の会(いちょうの会)

〒530-0047 大阪府大阪市北区西天満4-2-7 昭栄ビル北館27号室

(事務局長 川内泰雄)

TEL 06-6361-0546(月曜~金曜 13:00~17:00)

http://www.ichounokai.jp/index.html/

奨学金問題と学費を考える兵庫の会

〒650-0015 兵庫県神戸市中央区多聞通3-3-7 コウベセンタービル802

氏家都子法律事務所(事務局長 佐野修吉)

TEL 078-362-1166(月曜~金曜 10:00~19:00)

https://hyogoshogakukin.jimdo.com/

和歌山クレジット・サラ金被害者の会(あざみの会)

〒640-8269 和歌山県和歌山市小松原通5-15

(事務局長 新吉広)

TEL 073-424-6300(月曜~金曜 10:00~21:00)

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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