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「給付型奨学金」の利用方法と注意点

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

今年3月に日本学生支援機構法が改正され、給付型奨学金制度が初めて導入された。そもそも、「奨学金」とは世界的には給付のもののみを指し、貸与型の教育ローンとは明確に区別されている。奨学金が給付型というのは世界的には当たり前の話であるが、日本には今年になるまでそういったものが一切存在しなかった。

この給付型奨学金は大きな話題になったものの、制度や申込方法についての詳細を把握している人は少ないだろう。そこで、今回は、給付型奨学金の申し込み方、そして利用の際に気をつけるべきポイントを共有したい(なおここでは主に2018年度採用の給付型奨学金を取り上げる)。

制度導入の経緯

今回、導入された給付型奨学金は今年度から先行的に実施され、来年度(2018年度)から本格的に行われることになっている。もともと、昨年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」において必要性が言及され、12月に公表された文部科学省の「給付型奨学金制度検討チーム」の中で具体的な制度が明らかになった。

世界的に見れば、そもそも大学の学費が無料もしくは低額の国が多く存在し、学費がかかったとしても給付型奨学金が充実している国がほとんどだ。つまり、学費が安いか、給付型奨学金があるか、そのどちらかがあることが「グローバルスタンダード」なのである。

OECDの発表によれば、学費が高額で、かつ給付型奨学金が存在しない国は日本、韓国、チリの3カ国のみとなっている。その中で、後述するようにかなり限定的とは言え、給付型奨学金が創設されたことは一歩前進だろう。

給付型奨学金の給付内容

給付型奨学金の受給対象となるのは、大学、短大、専門学校、高専などに通う学生である。ただ、様々なメディアでも言われているように、給付型奨学金の中身は非常に貧弱だ。まず金額(月額)は以下のようになっている。

  • 国公立自宅通学 2万円
  • 国公立自宅外通学・私立自宅通学 3万円
  • 私立自宅外通学 4万円

国立大学の初年度納入金(2017年度)は、授業料53万5800円と入学金28万2000円の合計81万7800円、私立大学の初年度納入金(2014年度平均)は授業料86万4384円と入学金26万1089円の合計112万5473円。

国立大学に通う学生は最大で年36万円の給付を受けられるが、これは初年度納入金のわずか約44%にしかならない。私立大学に通う学生の場合は最大で授業料・入学金の約43%にしか充てられない。学費の残りと生活費のためには結局、従来の「貸与型」奨学金を借りるしかない。

受給要件(所得と成績)

そして、この給付型奨学金を受けられる対象になる学生の数も極めて限定的だ。そもそも予算として2万人分が用意されているが、これは2015年に大学・短大に進学した58万3533人の内、わずか3.4%でしかない(専門学校進学者17万8069人を加えると、全体の2.6%)。受けられるはほんの一握りなのだ。

その2万人を決定する上で、所得上および成績上の要件が決められている。第一に、児童養護施設などに入所しているか、里親の養育を受けている人が対象となる。第二に、親の所得水準で受給可能性が決まる。この水準は、生活保護を受給している(申請時に)か、家計支持者が住民税非課税(所得割が0円)であることだ。夫婦と子2人の世帯だと年収256万円以下の世帯のみが対象ということになり、ほとんどの家庭はここで給付型を受給する条件から外れてしまう。

そして学力の基準だが、各高校が「学習成績」や「資質能力」にもとづいて1名ずつ推薦し、その上で日本学生支援機構の審査が行われる。この推薦内容は日本学生支援機構の「給付奨学生採用候補者の推薦に係る指針(ガイドライン)」に記載されているが、非常に抽象的でどういった人が推薦の対象となるのかははっきりしない。

「学力及び資質について」の項目(給付奨学生採用候補者の推薦に係る指針)によれば、以下のような要件が示されている。

「各学校の教育目標に照らして十分に満足できる高い学習成績を収めている」

「教科以外の学校活動等で大変優れた成果を収め、各学校の教育目標に照らして概ね満足できる学習成績を収めている」

これだけあいまいな規定では、学校によって運営が大きく違い、生徒たちが混乱することも予想される。下手をすると、「先生の好み」が選抜に影響を与えてしまう危険性も否定はできないだろう。尚、海外の給付型奨学金では学力要件がないことが普通である。

申し込み方法

では実際に受給要件を満たしており、給付型奨学金を希望する人はどのように申し込めばよいのか。

この給付型奨学金は、原則として在籍する高校などを通じて申し込み手続きを行うことになる。申し込み期限は高校によって異なるので、注意が必要だ。高校から必要書類を受け取った上で、申込書に記入し、親の所得証明書もしくは児童養護施設在籍証明書などを添付し再度高校へ提出する。

高校側がそれを日本学生支援機構に送付し、審査の上、受給できるかどうかが決まる、というプロセスになっている。

注意点:返還を求められる可能性について

学校推薦など限りなく厳しい競争を経て給付型奨学金を受給できたとしても、注意しなければならない点がある。それは、何らかの理由で成績不振になってしまった場合、将来的な奨学金がストップされるだけでなく、過去に支給された分の返還を求められることがある、ということだ。

例えば成績不振で1年次に留年してしまった場合(1年生から2年生になれなかった場合)、その後3年間の給付を受けられないだけでなく、過去1年間で受けていた金額の返還を求められる可能性がある。

もし月4万円の給付を受けていたとすると、48万円分を9年(108か月)かけて月4444円ずつ返還しなければいけない。さらに、もし何かしらの理由で返還を延滞してしまうと、通常の貸与型奨学金と同じように法的措置(裁判)をJASSOが採る可能性があるのだ。従来のやり方と同一だとすると、全額の返済を一括で求め、支払えない場合には自己破産に追い込まれることになる。

そもそも給付型奨学金を受けている時点でかなり生活に困窮していることが明らかで、授業料や生活費に充てるためにアルバイトをしなければいけないケースは多いだろう。「ブラックバイト」が問題になっているように、過剰なシフトを強要され学校にいけなくなり単位を落としたり、最悪の場合、留年してしまったりという相談が、私たちのところには多々寄せられる。

アルバイトのせいで成績不振に陥り、その結果、給付型奨学金も受けられなくなり、その上返還を求められるとすれば、反って学生の将来を不安定にしてしまう。

いま、奨学金の返済で困っている方へ

ここまでみた給付型奨学金では、これまで貸与型を利用していた人は対象外となっている。しかし、現時点で、収入が低く自身の奨学金の返済に困っていたり、子どもや孫、いとこの連帯保証人・保証人になっていて自分に請求が来るか不安になっていたりする人が大勢いると思われる。

私が代表を勤めるNPO法人POSSEを始め、様々な民間団体が、奨学金の返済に困っている人の相談を無料で受け付けて解決方法をアドバイスしている。例えばPOSSEには、昨年度だけで全国から200件近い相談が寄せられている。

奨学金の恐ろしいところは、返済できずにいるとブラックリストに載せられ、かつ年利5%の延滞金を取られてしまうというところだ。さらに、延滞が続くと裁判を起こされて、最悪の場合は財産の差し押さえまでされてしまう。

重要なことは、こういった事態に陥る前に早めに相談するということだ。実際に、専門家に相談して請求額を減らすことができたケースもある。無料で相談を受付けている窓口もあり、まずは相談して自分の状況を確認することが大切だ。

(尚、給付型奨学金をはじめ、各種奨学金制度の実情や利用法と問題点、海外との比較については近刊『ブラック奨学金』(文春新書)で詳細に紹介している)。

無料相談窓口

NPO法人POSSE 奨学金ナビ

03-6693-5156

soudan@npoposse.jp

http://www.npoposse.jp/syogakukin/index.html

奨学金問題対策全国会議

03-5802-7015

http://syogakukin.zenkokukaigi.net/

北海道学費と奨学金を考える会(通称 インクル)

〒060-0061 北海道札幌市中央区南1条西10丁目4番地 南大通ビルアネックス4階

弁護士法人 誠信法律事務所(事務局長 弁護士 西博和)

TEL 011-281-6181(月曜~金曜 9:00~17:00)

https://incl-hokkaido.jimdo.com/

みやぎ奨学金問題ネットワーク

〒980-0804 仙台市青葉区大町2-3-11 仙台大町レイトンビル4階

新里鈴木法律事務所内 事務局長 弁護士 太田伸二

TEL 022-711-6225(月曜・水曜・金曜 13:00~16:00(祝日はお休みです))

http://miyagi-shougakukin-net.com/

埼玉奨学金問題ネットワーク

〒330-0064 埼玉県さいたま市浦和区岸町7-12-1 東和ビル4階

埼玉総合法律事務所(事務局長 弁護士 鴨田譲)

TEL 048-862-0800(月曜~金曜 9:00~17:00)

http://saitama.syogakukin.net/

奨学金返済に悩む人の会

〒162-0815 東京都新宿区筑土八幡町2-21-301

首都圏なかまユニオン気付(事務局 伴幸生)

TEL 03-3267-0266(日中の時間帯対応可)

愛知奨学金問題ネットワーク

〒462-0810 愛知県名古屋市北区山田1-1-40 すずやマンション大曾根2階

水谷司法書士事務所(事務局長 司法書士 水谷英二)

TEL 052-916-5080(月曜~金曜 9:00~17:00)

大阪クレジット・サラ金被害者の会(いちょうの会)

〒530-0047 大阪府大阪市北区西天満4-2-7 昭栄ビル北館27号室

(事務局長 川内泰雄)

TEL 06-6361-0546(月曜~金曜 13:00~17:00)

http://www.ichounokai.jp/index.html/

奨学金問題と学費を考える兵庫の会

〒650-0015 兵庫県神戸市中央区多聞通3-3-7 コウベセンタービル802

氏家都子法律事務所(事務局長 佐野修吉)

TEL 078-362-1166(月曜~金曜 10:00~19:00)

https://hyogoshogakukin.jimdo.com/

和歌山クレジット・サラ金被害者の会(あざみの会)

〒640-8269 和歌山県和歌山市小松原通5-15

(事務局長 新吉広)

TEL 073-424-6300(月曜~金曜 10:00~21:00)

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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