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菅総理の緊急事態宣言 安倍前総理と比較するとそっけないが、女性広報官が温かさを補充

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

1月7日18時から、総理官邸で菅総理による緊急事態宣言発出の記者会見が行われました。政府としては二度目ですが、前回は安倍前総理による発出でした。菅政権が2020年9月に発足してから記者会見を仕切る内閣広報官は、総務省出身の山田真貴子氏となり、雰囲気も変わりました。初の女性広報官とのことですが、菅氏のそっけなさを補充する役割も担っているように感じます。今回は、菅総理の会見の特徴について、安倍前総理との比較や広報官の仕切り方から解説します。

菅総理の最大の武器は「シンプルさ」だが、印象が弱くなる

会見時間は53分。最初の説明は15分。残りの時間、約40分は質疑応答に充てられました。内容の中心は、夜8時以降の外出自粛、飲食店への時短営業、出勤者7割減の要請、学校は休校要請せずなどで、期間は2月7日まで。4月よりは限定的な自粛要請となりました。

まずは、原稿の読み方。安倍前総理との演出の違いは、プロンプターを使っていないこと。プロンプター(透明の原稿台)は以前も書きましたが、「イベント」仕様であり、これを使っていると記者会見が「イベント」に見えてしまいます。ぎりぎりまで原稿を練る記者会見には相応しくありません。プロンプターを使っていないため、目線が下に落ちますが、それほど気になりません。気になるのは表情です。ほとんど表情を変えないため、力強いメッセージにはなりません。読み方は安倍前総理も菅総理も大差はないと思います。お二人とも滑舌はあまりよくはありませんが、ゆっくり読めば聞き取れます。

そして質疑応答。ここが、安倍前総理と大きく異なります。菅総理の最大の武器は、「シンプルさ」であると思います。発言に無駄がないので、リスクがありませんが、訴える力に乏しくなります。強調したいことは繰り返すことで強い印象を残すことができるからです。安倍前総理は回答が長い。理由は、記者の質問を繰り返すこと、「あー」「えー」と言葉を入れることからです。無駄が多いため、まわりくどくなり、結局何を言っているかわからなくなるリスクがあります。でも、人間的ではあるでしょう。無駄のない表現には人間味が欠けてしまうからです。

報道陣も連携プレイで説明を引き出せる

回答がシンプルだと記者側にもメリットがあります。多くの記者が質問をすることができるからです。記者会見は、記者の質問力を見せる場でもあり、国民からチェックされるため、記者側も質問が説明的で長くなりがちです。その結果、一問一答で記者の質問が長く、総理の回答が短いといった場面も多々見られています。さらに、総理会見では、一問一答で「さら問」と言われている追加質問ができないルールになっており、その慣例は続いています。これは記者側のストレスになると言えます。そこは、報道陣の連携プレイで乗り切る方法もあります。

今回の会見ではありませんが、1月4日の年頭会見では、その連携プレイを見せてくれたのが、フリーランスの江川紹子さんでした。前の記者の質問と回答を受けて「質問の前に、今の確認ですが、・・・・昨年4月の緊急事態宣言のように、教育、文化、スポーツ、いろいろな経済活動全てを止めてしまうといった内容とは違うということでしょうか・・・・・・。その上で質問ですが、外交関係になるのですが」といったスタイルで質問をしていました。質問形式に制限がある場合、報道側が連携して追加確認しながら進めることができます。私が行うメディアトレーニングでは、実際にこのような連携プレイで模擬会見を行うことで登壇者の訓練も行っています。記者側は自社の報道だけでなく、何を明らかにするべきか、どう明らかにするべきか、に知恵を絞ってほしいと思います。

広報官の記者指名力とフォローは見事、温かさも

私が着目したのは、広報官の記者の指名方法とフォロー、そして声の温かさ。幹事社から質問を受け付けるのはこれまでの慣例通りですが、「外国プレスの方からも質問を受けたいと思います」「内閣記者会以外のプレスからも質問を受けたいと思います」と「なぜその人を指名するのか」を説明しながら、記者を指名している点です。記者からすると「なんで自分が指名されないのか」と不満になりますから、このような「前振り」は丁寧だと思います。これは、安倍前総理の途中から取り入れられた形ですが、そのまま引き継がれているのはよいことだと思います。

新たに12月の会見から取り入れられたのは、終了時のアナウンスです。「質問を希望して挙手されている方、各1問をメールなどでお送りください。後ほど総理のお答えを書面で返させていただきたいと思います」。全て回答する姿勢を見せた点は評価できます。また、7日の会見にはさらに「また、それをホームページでも公開をさせていただきます」と加わったことです。「質問を全て受け付ける姿勢。それを公表する」のは、危機管理広報の基本になります。

また、女性広報官ということもあり、声がソフトで、その場の雰囲気を温かくする効果があります。菅総理のシンプルで無駄がなく、そっけない話し方が冷たい印象を残すため、そこを補充しているように感じます。菅総理は、トップになってもご自身の話し方を変える気はないようですが、そこを補う人を充てることには心を砕いているようです。まあ、こういうリーダーもありかもしれません。

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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