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世界スマホ市場、2024年回復へ 生成AI後押し Appleとファーウェイ対決

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

香港の調査会社カウンターポイントリサーチがこのほど公表したリポートによると、2024年の世界のスマートフォン出荷台数は前年比3%増の12億台に達する見通しだ。

低価格帯端末と高価格帯端末のいずれもが牽引(けんいん)役となり、市場全体に回復をもたらす。23年は前年比で4%以上減少していた。

24年は、生成AI(人工知能)機能搭載スマホなどが高価格帯端末の需要を後押しするとカウンターポイントはみている。

低価格帯端末、24年に回復へ

23年は新興国市場を中心にマクロ経済環境が悪化した影響を受け、150~249米ドル(約2万3000〜3万8000円)の低価格帯端末が前年比で減少した。しかし、24年は11%の増加が見込まれる。

これは主に、インドや中東・アフリカ地域、カリブ海・中南米地域といった新興国市場によってもたらされる。アフリカではインフレ圧力が大幅に緩和され、多くの国で通貨が安定したことで、消費者の購買力が回復した。

OPPO(オッポ)やvivo(ビボ)、小米(シャオミ)、伝音控股(トランシオン)といった中国メーカーによる中東・アフリカ、カリブ海・中南米への投資が競争を激化させ、低価格帯スマホの需要を喚起している。

IT(情報技術)デバイス需要の回復とともに、中国メーカー間の競争激化がこのセグメントの主要な成長要因になるとカウンターポイントは予測する。

高価格帯17%増、アップルとファーウェイの競争激化

価格が600~799米ドル(約9万1000〜12万1000円)のプレミアムセグメントも前年に続き成長する見通しだ。カウンターポイントリサーチによれば、24年は前年比17%増加するという。年後半には、とりわけ生成AI機能搭載スマホや折り畳み型が800米ドル以上の超プレミアムセグメントの需要を後押しするとみている。

メーカー別では、米アップルと中国・華為技術(ファーウェイ)がプレミアムおよび超プレミアムセグメントの成長を牽引するという。アップルの「iPhone」はインドや中東・アフリカ地域などの新興国市場での需要増大が追い風となる。「中国は引き続き2社にとって重要な競争市場になる」(カウンターポイント)

これに先立つ24年2月、英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、ファーウェイのパートナーである半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)がファーウェイ向け先端半導体を製造すると報じていた

SMICの新たな生産ラインでは、ファーウェイ子会社で半導体設計を手掛ける海思半導体(ハイシリコン)が設計した「Kirin(キリン)」と呼ばれるSoC(システム・オン・チップ)を製造する。ファーウェイはこれを新型スマホに搭載する計画だとFTは伝えていた。

カウンターポイントは24年3月、24年年初からの6週間における、iPhoneの中国販売台数は1年前に比べ24%減少したと報告した。これに対し、ファーウェイの中国販売台数は64%増と大きく伸びた。iPhoneは高価格帯端末市場でファーウェイとの厳しい競争に直面している。

iPhoneにグーグルやバイドゥのAI搭載か

一方、米ブルームバーグ通信は24年3月、アップルが米グーグルの生成AIモデル「Gemini(ジェミニ)」をiPhoneに組み込む交渉を進めていると報じた。アップルが24年にリリースする予定のiPhone向けオペレーティングシステム(OS)「iOS 18」にGeminiを搭載すべく、ライセンス契約について活発に交渉を進めているという。

アップルは、中国向けiPhoneで提供する生成AIについて中国IT大手、百度(バイドゥ)と協議しているとも伝えられている。

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、中国政府は自国のサイバー空間規制当局による審査を経ない生成AIモデルの公開を認めていない。つまり、中国では国外の生成AIの利用が禁止されている。このため、アップルは中国企業との提携が必要になったとみられている。

※1ドル=151.39で換算

筆者からの補足コメント:
中国は「グレート・ファイアウオール(金盾)」と呼ばれるインターネット検閲システムがあるなど情報統制に厳格で、生成AIについても厳しく管理統制しているようです。米国製などのAIは、当局の意に反するコンテンツを生成する恐れがあると考えているようです。WSJによると、アップルの競合である韓国サムスン電子の最新スマホは、中国国外でグーグルのGeminiを、中国国内ではバイドゥの「文心(Ernie)」を利用し、AI機能を強化しています。アップルもバイドゥと提携し、中国向けiPhoneにErnieを採用したいと考えているようです。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年4月5日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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