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「人として成長するチャンスを与えてもらえた」“暴言騒動”乗り越えた笠りつ子。5年ぶり優勝の意味

金明昱スポーツライター
5年ぶりの復活優勝を遂げた笠りつ子(写真:日刊スポーツ/アフロ)

 まさに“復活”と呼ぶにふさわしい。

 ヨネックスレディス(6月4~6日、新潟県・ヨネックスCC)で、笠りつ子が初日から首位の座を守り、通算12アンダーで5年ぶりツアー通算6勝目を手にした。史上10人目のノーボギー優勝だった。

 彼女を単独インタビューしたのは昨年10月下旬のことだ。

 2019年10月に国内女子ゴルフツアーの会場で、コーススタッフに対して暴言を吐いたことが世間に知れ渡ると、騒動はどんどん大きく膨れ上がり、批判の的となった。騒動から約1ヵ月後に彼女は報道陣の前で反省の言葉を口にした。

 大会後に日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)から厳重注意と新人セミナー受講の処分を受け、笠は発言を謝罪してツアーへの出場を自粛していた。

 2020年はコロナ禍で試合の中止が相次いだが、6月から開幕し14試合が開催。試合会場での感染対策や無観客、若手の活躍などが話題の中心で、笠がツアーに復帰していることに触れるメディアはほとんどなかった。

 個人的には、メンタル面への影響などから、成績を出すのは難しいのではないかと思っていた。それでも2020年は13試合に出場し、予選通過は10回、最高位はスタンレーレディスの12位タイとまずまずの成績を残していた。

 かつては賞金女王争いもしたこともあるベテランである。実力は確かな物で、徐々にゴルフの内容も良くなり始めていた。そんなタイミングでオファーしたインタビューだった。

 当時の笠の表情を見ると、すでに気持ちを切り替えて前に進んでいることがよく分かった。それに話を聞いていると騒動以降、彼女は様々なことを学び、反省し、成長している姿がうかがえた。

 いくつか印象に残っている言葉がある。

「あの騒動があったから、たくさんのことに気付かせてもらえましたし、人として成長するチャンスを与えてもらえたと思うようになりました」

「自分がやったことは一生背負っていかなきゃいけない。そのうえで、自分がやることにベストを尽くしながら生きていきたいです」

「今年の開幕戦のティグラウンドで、ここにいられる幸せを感じましたし、あのときにたくさんの方たちが支えてくれたから、私はここに立っているんだと思いました。もし私の周りに誰も人がいなかったら、本当にゴルフをやめていたと思います。人は支えられて生きているんですね」

「誰かのために、応援してくれる人のためにゴルフをする」

 今まで自分のためにゴルフをやってきたが、騒動以降もツアーでプレーできているのは、人に支えられて生きてきたからだと強調していた。

 今後の目標についても「もちろん試合に勝てればいいと思いますけれども、まずは応援してくださるファンの人たちに、試合会場で私のプレーを見てもらいたいです」と語っていた。

 不適切発言の代償は大きかった。それでも結果で示すことがプロゴルファーとして自身の生きる道であることを肝に銘じていたに違いない。

 過ちを認め、改心し、ひたすら努力を続けた結果がもたらした優勝――。近年の女子ゴルフは、“黄金世代”や”プラチナ世代”といった若手の活躍が目立つが、ベテラン選手の戦いの背景を知ると胸が熱くさせられる。

 試合後には「今回もたくさんの人が応援してくれました。暴言の後も(契約を)切ることなく、続けてくれたスポンサーさんに感謝します。悲しい思いをさせてしまった家族、先輩、後輩に優勝を伝えたいです」としみじみと語っていた。

 騒動を乗り越え、自分に打ち勝ち、結果で示した笠に改めて拍手を贈りたい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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