フェイクレビュー2億件、AmazonがSNSを批判するわけとは?
アマゾンには年間2億件ものフェイクレビューが寄せられる。その背景には、ソーシャルメディアの不十分な対応がある――。
アマゾンは6月16日、公式ブログで、フェイクレビュー問題の現状について、そんな声明を発表している。
年間2億件といえば、5億件を超すと見られるレビュー全体の、4割近くがフェイクだという計算になる。
フェイクレビューは売買取引されており、その斡旋の舞台は主にソーシャルメディアであることが知られている。
アマゾンは声明の中で、そのソーシャルメディアの対応を批判。しっかりと予防的措置を取るべきだ、と指摘している。
これまでフェイクレビューの斡旋の舞台として、特に問題視されてきたのがフェイスブックだった。英国の規制当局が、2度にわたって指摘をしてきた経緯もある。
だが専門家からは、フェイスブックよりもむしろ、アマゾン自身のフェイクレビュー対応の方が問題がある、との指摘も出ている。
アマゾンはなぜ、このタイミングでソーシャルメディアに矛先を向けるのか?
アマゾンの声明の前日には、米規制当局である連邦取引委員会(FTC)で、アマゾン批判の急先鋒、リナ・カーン氏の委員長就任が発表されている。
何か言っておきたいタイミングではあったのかもしれない。
●全体の4割に相当
アマゾンは6月16日の公式ブログで、フェイクレビューへのそんな対応状況を明らかにしている。
アマゾンの2020年の売上高は3,861億ドル(約42兆7,000万円、前年比38%増)。そのうちオンラインストアは1,973億ドル(約21兆8,000万円)で、売上高の5割を占める。
そのオンラインストアで長く問題視されてきたのが、報酬と引き換えに不正な商品レビューを投稿する「フェイクレビュー」の蔓延だ。
アマゾンは2020年9月、米CNBCのインタビューに対し、「強力な機械学習のツールと熟達した調査担当者が、毎週1,000万件を超す投稿を分析し、レビューの悪用を公開前に阻止する取り組みをしている」と述べている。
テッククランチが指摘するように、単純計算では年間5億2,000万件超となり、このうち2億件がフェイクレビューとして排除されているとすると、その数は全体の約4割に上ることになる。
アマゾンは2015年には、1,000人を超すフェイクレビューの投稿者や、その斡旋業者などを提訴するなど、法的な対抗策も進めている。
2016年には、ガイドラインを改訂。アマゾンの公認レビュアーが新商品サンプルのレビューを行う「アマゾン・ヴァイン」を除き、報酬付きレビューの禁止を明示している。
また米連邦取引委員会(FTC)は2019年2月、アマゾンでの評価が「星5つ」になるようにフェイクレビュー斡旋業者に依頼したサプリメント業者を、初の提訴に持ち込んだことを発表している。
●フェイクレビューの実態
英国の消費者団体「消費者協会」は2021年2月、フェイクレビューをビジネスとする業者の実態を報告している。
同協会では2020年12月に、フェイクレビューをサービスとして提供する10サイトに登録し、その内容を調査した。
それによると、このうち5サイトだけでフェイクレビューを行うレビュアーは70万2,000人に上っていた。また、フェイクレビューの斡旋によるレビュアーへの支払い実績として、890万ドルという金額を掲げる業者もいた。
また、「AMZタイガーズ」というドイツの業者の場合、フェイクレビューの販売価格として、50レビューで699ユーロ(約9万3,000円)から1,000レビューで8,999ユーロ(約120万円)までのパッケージが提示されていたという。
●ソーシャルメディアへの批判
アマゾンは今回の公式ブログで、自社の取り組みだけでなく、ソーシャルメディア企業の取り組みについても、取り上げている。
フェイクレビューの斡旋は、ソーシャルメディア上で行われている、とアマゾンは指摘する。そして、この問題は業界全体で取り組む必要がある、という。
十分な対応ができていないソーシャルメディアは、もっと積極的に取り組め、という指摘だ。
アマゾンは具体的な企業名を挙げてはいない。だが、メディアがこぞって名指しするのが、フェイスブックだ。
●フェイスブックの対応
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)と南カリフォルニア大学(USC)の研究チームは2020年8月、フェイスブックを舞台にしたフェイクレビュー斡旋の実態調査をまとめている。
フェイクレビュー斡旋の舞台となるのは、フェイスブックのグループページだ。
研究チームは、2019年10月から2020年7月まで、アマゾンの出品業者がフェイクレビューの勧誘をしている20以上のグループページを調査。1,500の製品サンプルを集めた。最も大規模なカテゴリは「美容」「健康」「キッチン」の3つだった。
調査によると、グループページのメンバーは平均で1万6,000人。1日あたり560本以上の投稿があった。
グループページでは、出品業者が商品の写真とともにフェイクレビュアーを募集する。
フェイクレビュアーとして採用されれば、まずアマゾンで商品を購入。「星5つ」などの高評価をした後、ネット決済サービス「ペイパル」を使って、製品購入代金や消費税、「ペイパル」の手数料分の払い戻しを受けるという。
フェイクレビューを投稿することで、その製品がタダになる、という仕組みだ。
さらに商品の出品業者のうち約15%は商品購入経費に報酬を上乗せしており、報酬の平均額は6.24ドル。最高額は15ドルだったという。
このようなフェイクレビュー斡旋の蔓延に対して、英国の監視当局である競争・市場庁(CMA)が2019年6月、フェイスブックとイーベイに、対策を取るよう要請している。
両社は2020年1月、同庁にフェイクレビューの対策を誓約した。
だが、フェイスブックに対するその後の追跡調査で、なおフェイクレビューの取引が行われていたとして、同庁は2度目の指導を実施。
その結果、フェイスブックはフェイクレビューに関与した1万6,000件のグループを削除したという。
●アマゾンへの指摘
前述のUCLAとUSCの研究チームは、アマゾン自身のフェイクレビュー削除の対応についても、課題を指摘している。
研究チームの調査では、出品業者によるフェイクレビューを使った製品のキャンペーン期間は、中央値で6日と短期集中型だった。キャンペーンが終わって1~2週間すると、レビュー数と評価が低下していく。だが、アマゾンがフェイクレビュー削除に要する時間は平均で100日だった、という。
そして、研究チームはこう述べている。
フェイクレビューを使う出品業者は、短期決戦で売り上げをせしめる。だが、そのスピードに、アマゾンが追い付いていない、との指摘だ。
●批判の裏には
ソーシャルメディア化したメディア空間の特徴の一つは、複数のプラットフォームを横断する情報の生態系だ。
商品販売とフェイクレビュー掲載の現場はアマゾン、フェイクレビュー斡旋の場はフェイスブック、そして金銭のやりとりはペイパル。
フェイクレビューの仕組みは、フェイクニュースの流通の仕組みと共通する。
そして、アマゾンが公式ブログで述べるように、これが業界全体の問題であることは間違いないだろう。
ただ、UCLAの助教で、上述の研究グループのメンバーであるブレット・ホレンベック氏は、アマゾンの声明を受けて、ツイートでこう指摘している。
では、なぜこのタイミングでソーシャルメディア批判なのか?
ホレンベック氏は、「アマゾンのレビュー、やらせ・水増し依然横行」というウォールストリート・ジャーナルの6月13日付の記事が、アマゾンの目に留まったのではないか、と見立てている。
記事では、フェイクレビューがなお横行する実態を取り上げる中で、ホレンベック氏らの調査も紹介されている。
ホレンベック氏はツイートで、アマゾンの声明の狙いについて、こんな見立てを披露している。
米規制当局のFTCでは、アマゾンの公式ブログ声明の前日である6月15日に、アマゾン批判の急先鋒、リナ・カーン氏の委員長就任が発表されている。
FTCは2020年12月、ニューヨーク州など48州・特別区の司法長官とともに、フェイスブックを反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴。独占状態解消のため、インスタグラムとワッツアップの売却による分離などを求めている。
※参照:「買収か死か」ユーザー32億人のFacebookに分割を突き付けるわけ(12/11/2020 新聞紙学的)
アマゾンの声明の裏に、カーン氏の視線をフェイスブックに逸らし、まずはそちらに専念してほしいという狙いがあったのだとすれば、その気持ちはわからないでもない。
(※2021年6月18日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)