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感染拡大に拍車。英国発の水際対策に再び出遅れるアメリカ(日本も)【ウイルス変異種】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
「検査不要」で1日6便が英国からNYとNJの2大国際空港に到着している。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは今月14日にファイザー社が合同で開発した新型コロナワクチンの接種が始まったばかりだが、18日に承認されたばかりのモデルナ製ワクチン接種も、現地時間の今日21日より開始した。

10月以降に再び感染が拡大し、第2波の大きな波に呑まれつつあるニューヨーク州でも14日以降、3万8000人がファイザー製ワクチンの接種を受けた。今週は、ファイザー製ワクチンが12万ドース(回分)とモデルナ製ワクチンが34万6200ドース届く予定で、さらに63万人の人々が接種を受けることになる。(クオモ州知事の21日の定例記者会見より)

しかし世界最大の感染拡大国アメリカにとって、再び頭の痛い話が浮上してきた。

それは、英国で急速に感染が拡大している変異種だ。英国の一部で20日より、再び外出制限(ロックダウン)となっていることが伝えられている。変異種について英ジョンソン首相は19日、「致死率が高いことや重症化しやすいことを示す証拠はないものの、感染力は古い種より70%高い可能性がある」と危機感を煽った。

これを受けクオモ知事は、20日以降の記者会見で、アメリカの連邦政府が水際対策を何もしていないことを非難した。その上で、「このままではニューヨークは、(3、4月の)壊滅的な大惨事を繰り返すであろう。命を守るために知事として可能な限りの手段をとる」とした。

同知事によると、ジョンソン首相がロックダウンを発表して以来、英国からの入国について、すでに多くの国が入国拒否、もしくは搭乗前検査を義務付け、陰性であることを入国の条件としているが、アメリカはまだ何も対策を講じていないと言う。

英国からの入国について、国際空港で入国禁止措置など何らかの水際対策をした国々。ここにアメリカと日本の文字はない。(21日のクオモ知事の記者会見から、筆者がキャプチャを作成、以下同)
英国からの入国について、国際空港で入国禁止措置など何らかの水際対策をした国々。ここにアメリカと日本の文字はない。(21日のクオモ知事の記者会見から、筆者がキャプチャを作成、以下同)

アメリカ国内で広がっている新型コロナウイルスは今年初め、中国から西海岸に、ヨーロッパ(主にイタリア)から東海岸に入り込み、全米に拡大していったことがわかっている。東海岸の主要な玄関口と言えば、ニューヨークのJFK国際空港とニュージャージーのニューアーク空港だ。しかし当初はまさかヨーロッパから変異株が入ってくるとは専門家でさえ思っていなかったため、入国制限措置が遅れるなどの初動ミスがあり、それが感染拡大の要因の1つになったとされている。

今回アメリカが再び静観しているのは、大混乱を避けるためか、すでに変異種が流入しているからか、もしくはほかに理由があるのかもしれないが、クオモ知事が恐れているのは、ニューヨークがまさにその大失敗の二の舞になることだ。

現在、英国からニューヨークに乗り入れている航空会社は、ブリティッシュ・エアウェイズ、デルタ、ヴァージン・アトランティックの3社だ。これらの会社に、クオモ知事は「ニューヨークは国ではないが米国政府が何もアクションをしていないため、知事としてニューヨーク州を(入国前の検査義務付けをしている)120ヵ国と同様の扱いにしてくれるように要請した」と記者団に語った。

これを受け、ブリティッシュ・エアウェイズは現地時間の明日22日より、ニューヨーク行きの便について、搭乗前検査を行うことを決めた。残り2社については、まだ発表されていない。(Updated: 翌日、デルタも搭乗前検査を行うことを決めた)

「この瞬間にも変異株が飛行機に乗って、ニューヨークにやって来ている。これを見過ごすことはできない」とクオモ知事。アメリカでは今週木曜日からクリスマスと年末のホリデー休暇に入り、感謝祭以降の国内“大移動”が予想されている。感染状況が今以上にさらに悪化し、来年1月半ばに数値のピークを迎えるのではないかと、専門家は見ている。

ワクチン接種が今後さらに浸透していくが、それが新たな変異株を含めて、感染拡大阻止にどの程度の効力を発揮するのか、今後解明されていくだろう。

感染状況ファクト

アメリカ

人口:3億3100万人

感染数:1799万件以上

死者数:31万9086人

ニューヨーク州

人口:1940万人

感染数:86万1000件以上

死者数:3万6147人

無駄に人々の恐怖心を煽らないようにするため、ニューヨーク州では当初から、陽性者数と死者数だけの発表に止まらず、知事自らが以下のように「全体的な数字」を毎日発表している。

12月20日の1日だけで、ニューヨーク州では6331人が新型コロナの重症患者として入院。15万6510人が検査を受け、9007人の陽性が確認された(陽性率5.75%)。新型コロナの死者数はこの日だけで109人。

州内の陽性率を表したもの。春と違って現在は州北部の陽性率が高い。
州内の陽性率を表したもの。春と違って現在は州北部の陽性率が高い。

Updated:

日本政府はこの翌日、英国を対象に水際措置を24日以降強化すると発表。英国からの入国は日本人を除いて一時停止となる。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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