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伊藤匠七段、棋聖戦二次予選決勝進出! 千田翔太七段、敗れるも驚きの四間飛車採用でファンを沸かす

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月15日。東京・将棋会館においてヒューリック杯第95期棋聖戦二次予選▲伊藤匠七段-△千田翔太七段戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時31分に終局。結果は167手で伊藤七段の勝ちとなりました。伊藤七段はこれで二次予選決勝に進出。次戦に勝てば挑戦者決定トーナメント(ベスト16)に進みます。

千田七段、意表の四間飛車採用

 千田七段と伊藤七段はともに居飛車党。現代最前線の相居飛車の戦いが見られると予想した方がほとんどだと思われますが、そうではありませんでした。

 8手目。後手の千田七段は四間飛車に振りました。これは意表の作戦選択というよりありません。

 今年10月10日。千田七段と中村真梨花女流四段の結婚が発表されました。

 中村女流四段は生粋の振り飛車党として知られています。

 12月3日。千田七段はコンピュータ将棋の大会「電竜戦」の解説時に、自身の振り飛車採用の可能性について語っていました。

(電竜戦決勝配信7:23:15あたりから)
真澤「W@nderERが後手番で四間飛車を指してたこともあったと思うですけど。千田先生もそういうの指してくれないかなと、ちょっと若干、淡い期待をしてるんですけど」
千田「まあ私が指すとしたら、妻が四間飛車党だからっていう理由だけでしょうね」
真澤「えー(笑)。その理由は指すのに十分なんじゃないですか? どうなんですか?」
千田「いや、もちろん十分でしょう」
真澤「なんか、ざわざわしそうですね。ここで言っておくと」
千田「まあでもなんか、変にやり取りした四間飛車よりも、純正な四間飛車の方がやるかもしれないですけどね。そういうの、いいと思いますけど。興味はあります」

カツ丼「これを機会に、振り飛車にちょっと転じたりとか、そういうことはあるんでしょうか?」
千田「まあチェンジまではいかないと思いますけれど、ときどき指すぐらいはあるかもしれないですね」

 予告通り、振り飛車を採用した千田七段。振り飛車を望むファンの期待にも応えたわけで、素晴らしいというよりありません。

伊藤七段、熱戦を制する

 千田七段の四間飛車に対して、伊藤七段は居飛車穴熊に組みます。

 中盤で伊藤七段が少しずつポイントを稼いだのに対して、千田七段も離されずに勝負に出ます。

 終盤、伊藤七段が龍を切って寄せに入ります。千田七段は手にした飛車を自陣に打ちつけ、簡単には土俵を割りません。

 持ち時間3時間のうち、互いに残り1分だった128手目。千田七段は銀を自陣に打って受けるか、それとも相手陣に打って攻めるかという選択肢の中で、後者を選びました。このあたりは指運(ゆびうん)だったかもしれません。

 伊藤七段は千田玉をほぼ受けなしに追い込みます。そして手番を得た千田七段は、伊藤七段の穴熊玉を引っ張り出し、王手を続けます。しかし伊藤玉はギリギリ、打ち歩詰め(禁じ手)の形で逃れていました。

 最後は両者の玉が接近。千田玉は伊藤玉の近くをぐるっと回り伊藤陣の一段目にまで達したあと、きれいに詰まされました。

 本棋戦で初の一次予選突破を果たした伊藤七段。あと1勝で、二次予選も突破です。

 伊藤七段の今年度成績は37勝11敗(勝率0.771)。依然、対局数・勝数でランキングトップに立っています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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