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【JAZZ】結成10周年のトリオが放ったヨーロッパ・ジャズへのカウンター・パンチ

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

話題のジャズの(あるいはジャズ的な)アルバムを取り上げて、成り立ちや聴きどころなどを解説。今回は、ステファノ・ボラーニ『ジョイ・イン・スパイト・オブ・エヴリシング』。

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ステファノ・ボラーニ『ジョイ・イン・スパイト・オブ・エヴリシング』
ステファノ・ボラーニ『ジョイ・イン・スパイト・オブ・エヴリシング』

イタリア・ミラノ生まれのピアニスト、ステファノ・ボラーニによるECM通算5枚目となる作品。ベースのイェスパー・ボディルセンとドラムのモーテン・ルンドというデンマーク出身の2人とのトリオは2003年結成で、収録があった2013年は10周年を記念するツアーをしていたという。

立ち寄ったニューヨークでゲストを迎えて臨んだのが本作となるわけなのだが、そのゲストがギターのビル・フリゼールとサックスのマーク・ターナーという超弩級。

ボラーニは、2013年の前作『O que sera'』でブラジルの10弦楽器“バンドリン”奏者のアミウトン・ヂ・オランダとのデュオ、その前の2011年の『オルヴィエート』ではチック・コリアとのこれまたデュオと、“十番勝負”さながらの“果たし合い”を重ね、ピアニストとしてのギアを上げた感があった(なお彼は、2011年と2012年に指揮者のリッカルド・シャイーと組んで「ラプソディ・イン・ブルー」やラベルの「ピアノ協奏曲」などのアルバムづくりにもチャレンジしている)。

そしてトリオ結成10周年に、満を持してトリオのギアも上げようとしたのが本作の企画だとすれば、その内容が表面的でないことは明らかだろう。

メセニー&メルドーへのカウンターも?!

マーク・ターナーの起用で、ニューヨーク・スタイルのギター&サックス・クインテットのカウンター・アプローチを試み、ビル・フリゼールの起用でECMに対してもカウンターを試みるというダブルバインド。

そうした心理戦を際立たせないためにカリプソ調のオリジナルから入るといった、練りに練られた戦略が立てられているのではないかと想像できる楽しさを提供してくれるのも、ボラーニの音楽性の高さがあればこそ。

いつまでも「聴きやすいのがヨーロッパのピアノ系ジャズなんだよねー」なんて言ってちゃダメなんだよということを、真綿で首を絞めるように教えてくれるのが本作なのだ。

Chick Corea & Stefano Bollani-Duet- Umbria Jazz 2009

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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