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「角界のマツコ・デラックス」の声に本人は? 33歳べテラン・宝富士が貴景勝と激突へ

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

大相撲11月場所は、番付最上位の大関・貴景勝と、番付最下位の幕尻・志摩ノ海が1敗でトップを走る展開となっている。2敗で追いかけるのは、照ノ富士と竜電。さらに3敗では、三役返り咲きを狙う大栄翔と、連日熱戦を繰り広げているベテラン・宝富士だ。今回は、ここにきて2連敗を喫してしまった宝富士へ、エールを送る一稿としたい。

大熱戦続く宝富士

1敗を守っていた十日目、今場所勢いのある北勝富士との対戦だった。どちらもどっしりとした相撲で、北勝富士が宝富士の胸に終始頭をつける格好ではあったが、その体勢でも決して下がらない宝富士。途中、宝富士が引く場面があるも北勝富士は足を前に出してついていき、逆に宝富士が攻め込むと、丸い土俵をうまく使って北勝富士が回り込む。見どころ満載の大熱戦だ。2分を超える熱戦の最後は、土俵際で投げの打ち合いとなり、両者が同時に土俵外へ落ちて、物言いがついた。肩で息をする二人。北勝富士はしばらく立ち上がれもしない。

結局、この一番は取り直しとなった。両者共に疲労困憊の様子だったが、北勝富士が同じように頭をつけて右からおっつけていき、最後の力を振り絞って押し出しで勝利。軍配こそ北勝富士に上がったが、両者共に最大の力を出し切る、この日最高の一番を演じてくれた。

十一日目の宝富士は、竜電と対戦。序盤は右上手を取って十分な体勢になったかと思われたが、途中で竜電が一枚ながら前まわしを取り、頭をつけて徐々に自分の形へともっていく。最後は竜電の出し投げからの送り倒しで敗れたが、この日も1分半近い熱戦となった。

ベテラン・宝富士の強さの秘密

宝富士は、現在33歳。もうベテランの域といえる。それでも、九日目には勝ち越しを決め、まだ優勝争いの可能性も残している。連日の大熱戦に敗れはしたものの、これだけの体力が維持されているのは素晴らしいことである。

筆者は以前、伊勢ヶ濱部屋の地下のトレーニングルームで、彼のトレーニングについて話を伺ったことがある。自ら自信があると話す、太ももなど下半身の筋肉は、稽古に加えてウエイトトレーニングで培ったもの。テレビ越しにも見て取れるほどに発達した筋力が、連日の熱戦を可能にしている。

また、今年に入ってから勢いを取り戻した照ノ富士と稽古ができていることも、宝富士の体力維持・向上に大きく貢献しているのだろう。出稽古ができない環境でも、近くに強い力士がいるのはとても心強いはずだ。

心優しい彼だからこそ送りたいエール

現在は、結婚して2歳の息子さんにも恵まれている宝富士。日々の稽古とトレーニングだけでなく、家族の支えも力に変えて、あと4日でどれだけ白星を重ねることができるか。十二日目は、ついに大関・貴景勝戦。これまでの対戦成績は2勝6敗、今年に入ってからは一度も勝っていないが、果たして――?

余談だが、よく「角界のマツコ・デラックス」と呼ばれることについて、宝富士自身が「似てるって言われるんですよ」と話を振ってきたことがあった。当時、筆者は正直に「あまりそうは思いませんけどね」と答えたところ、彼はパッと明るい顔を見せて「やっぱり!似てないよね!」と笑っていた。それからというもの、「角界のマツコ」の活字を目にするたび、あのときの彼の顔を思い出しては、心のなかでこっそり「負けないで」と、エールを送っている。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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