小林製薬の紅麹サプリ問題から考えるトップの判断、行動、説明力
小林製薬の紅麹サプリの被害が拡大しています。小林製薬の対応を見る限り、危機管理広報が機能していないとみえました。初動の遅さもさることながら、筆者が着目したのはこの問題に関する会社のプレスリリースと記者会見におけるトップの説明力。基礎力のなさに落胆せざるを得ません。
■動画解説 リスクマネジメントジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会提供RMCAチャンネル)
プレスリリースに5W1Hがない
この問題に関する同社の第1報は3月22日のプレスリリース「紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ」になります。
小林製薬株式会社(本社:大阪市、社長:小林章浩)が販売しております機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取された方において、腎疾患等が発生したとの報告を受けました。
これを受け、本製品及びそれに使用している紅麹原料(自社製造)の成分分析を行った結果、一部の紅麹原料に当社の意図しない成分が含まれている可能性が判明しました。
現時点でこの成分の特定や本製品の腎疾患等との関連性の有無の確定には至っておりませんが、お客様の健康被害が拡大することを防ぐための予防的措置として、下記【対象製品】記載の紅麹関連製品を自主回収することといたしました。
お客様をはじめ関係各位には、多大なるご迷惑をおかけしますことを深くお詫び申し上げます。本件については重大な事案と受け止めており、引き続き、調査を継続してまいります。(小林製薬 第1報 3月22日)
いつ、どこから腎疾患の報告を受けたのかがさっぱりわかりません。意図しない成分が含まれる可能性が判明したのはいつなのか、いつ自主回収を決定したのかも日付がありません。これでは説明になっていないどころか、不安をつのらせるばかりです。危機発生時には説明文書として5W1Hで時系列に整理して発表する危機管理広報の基本の「キ」が全く抜け落ちており、企業として危機の想定訓練が全くなされていないことがここで露呈しています。
第2報は3月25日、電話がつながりにくいことへのお詫び、入院症例数、企業向け製品についての報告で現状説明のみ。やはり時系列はありません。第3報は3月26日、「当社におきまして、腎疾患でお亡くなりになった方が、生前に紅麹コレステヘルプをお使いになられていたとのご連絡をご遺族様からいただき、製品と死亡との因果関係が疑われる事象を1件把握いたしました」、とここでも、いつ把握したのか、その方がいつ亡くなったのかも不明。
第4報は3月27日、「昨日(3月26日)、ご遺族の方からお亡くなりになった方が生前に紅麹コレステヘルプをお使いになられていたとのご連絡をいただきました」、とようやく日付が明記されました。第5報(3月28日)で2名、第6報(3月29日)で1名と明記されましたが、死亡者の総数がわかりません。合計するとこの時点で4名死亡なのだろうと推測は可能ですが、3月29日の記者会見では5名となっていました。
第7報の4月1日においても、相変わらず時系列説明文がなく、返品受付開始のお知らせ、第8報の4月5日は、インターネットからの返品受付のお知らせ、第9報の4月8日、電話受付時間を21時まで延長、とやはり現状の説明のみで経緯がわかりません。
第1報と同日に記者会見はしているが報道が甘い?
小林製薬としては3月22日の第1報を出した日に1回目の記者会見を行っており、この記者会見開催は適切ではありましたが、危機感がない内容だったのか、動画も会見詳細報道も見当たりません。G-Searchで3月21日~3月28日で調べたところ、49件で簡単なニュースのみ。この日の会見では報道機関が質問をしていなかったのではないかと思えるほど、プレスリリースをなぞっているだけの報道でした。地元関西テレビは3月22日、23日に放送していますが、文字数も300字以下、放送でいえば1分程度しかながれていないことになります。
しかも3月23日の関西テレビでは、「全員回復に向かっている」と事態を軽く見ている報道。これでは、自主回収しているのに注意喚起にならず、報道機関としての役割も果たしていないように見えます。
論調が厳しくなったのは、3月26日に死亡者発表があってから。
東洋経済オンラインは2,022字で報道していますが、タイトルは「小林製薬、紅麹の健康被害で問われる”らしさ”/訪日需要や海外拡大もヒット不在が課題だった」と、東洋経済としては珍しくやや甘い切り口のタイトル。会社だけでなく、報道機関も含めて初動が遅かったように見え、日本全体が3月22日後もチェック機能不全だったように思います。
3月29日記者会見でもトップの行動説明なし
3月29日の記者会見は4時間半。最初に説明された内容は「55回線しか用意できておらず、問い合わせに対して10%しか応答できていなかった。28日には110回線とし、30%にまで応答率が高まった。4月4日以降は280回線として50〜80%にまで上がる見込みだ」と現状の状況のみ。間の抜けた期待外れの内容で信頼回復の姿勢に欠ける説明でした。そして、プレスリリースの内容と同様、最初にいつ知り、その後どのような対応をしてきたのかの説明がないまま質疑応答に入ってしまったのです。
この会見で繰り返し質問された項目は「1月に症例を把握してからどのような態勢で調査をしていたか」「公表の遅れ」。もう1点繰り返された特徴的な質問としては、インサイダー疑惑。2月に入って株価が急下落しているからです。後者は、2月に第1報を出せていれば防げていた疑惑、質問でもあります。
記者会見と各種報道から時系列で整理すると、次のようになります。
1月15日 病院から最初の症例報告が入る
2月5日 社内で調査を開始する(品質管理、記録見直し)
2月6日 社長が知る(回収を覚悟する)
3月16日 回収を決断
3月17日 緊急対策本部を設置して回収を決定
3月22日 自主回収の発表、1回目記者会見
3月26日 サプリを3年間使用していた人が死亡したことを発表(時事通信によると2月に死亡*2024年4月整理)
3月27日 大阪市が小林製薬に行政処分
3月29日 2回目の記者会見
3月30日 厚労省と大阪市が大阪工場(2022年閉鎖)に立ち入り検査
*4月16日の時点における死亡者は5名で入院者は235人。
この時系列を見ると、いくつもの問題点が見えてきます。最初の症例報告から社内調査開始まで20日。社長の耳に入れるまでに時間がかかっているのはなぜでしょうか。社長が知ってから回収アナウンスまで40日。社長はこの間何をしていたのでしょうか。社長は2月6日の段階で回収の覚悟をもったのに自主回収アナウンス時に55回線しかなかった、となると全く何の準備もしていなかったことになります。自主回収を決めてから公表まで6日。自主回収を決めてからもなお公表まで時間がかかっていながら、プレスリリースは欠陥だらけ、回線も不十分。一体何をしていたのでしょうか。2回目の会見での下記小林章浩社長の説明でもわかりませんでした。
症例報告から調査開始までの20日間の説明はなし。「コレステヘルプを使った人で疾患が出た」事実で回収の判断ができない理由が不明。ガイドラインやルール、外部のアドバイスを出してトップ判断できなかった説明から逃げています。プレスリリースや回線準備不備の事実からすると何に力をそそいで急いだのかも意味不明。
小林製薬といえば、「熱さまシート」や「ブルーレット」等生活に身近な製品を製造しており、筆者も愛用者の一人。であるがゆえに、今回の対応は残念でなりません。よい製品を世に出すだけではなく、危機時におけるトップとしての判断力、行動力、説明力を身につけて企業価値を守るのも重要な責任ではないでしょうか。
■動画解説 リスクマネジメントジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会提供RMCAチャンネル)
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時事通信による時系列まとめ(2024年4月)
https://news.yahoo.co.jp/articles/ccfe8dd3cc57eee28fa8f63f5e69fc1b4ba9d0de/images/000
<参考サイト>
小林製薬 3月29日記者会見 (THE PAGE)
https://www.youtube.com/watch?v=jb7hlL1Ew-M
小林製薬 3月29日記者会見(日経新聞 タイムライン報道)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF293EB0Z20C24A3000000/