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ノルウェー党首が男女バランスに喝「初の女性外務大臣を迎えたのに、隣の報道席には男性記者ばかり!」

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
外務大臣(左)と国会記者ら(右) Photo:Trine Skei Grande

10月に発表されたノルウェー内閣改造では、首相(女性)、財務大臣(女性)に、女性初となる外務大臣が加わり、「トップスリーが女性」となったことが大きな注目を浴びた。

11月8日、中道右派政権に閣外協力をする「自由党」の女性党首トリーネ・グランデ氏は、自身のツイッターにこのような投稿をする。

「初めて私たちの女性の外務大臣が、国会の壇上でスピーチをしています。けれど、隣の報道席に座って傍聴しているのは、17人の男性、3人の女性です」。

男女平等の推進に熱心なノルウェーだが、筆者が感じる限りでは、メディア業界では政治とスポーツの現場に駆け付けるジャーナリストは男性のほうが多い。文化がテーマの現場や、テレビ画面にうつるスタジオでは女性の姿が多くなる。

この国会の報道席は、ノルウェーメディアだけが入会できる「ノルウェー版記者クラブ」の会員のみが座ることが可能。

日本メディアに寄稿する筆者や、国際プレス連盟に所属する他国のメディアは座ることができない場所だ(筆者は2階に座る)。政治専門の有名なノルウェー人ジャーナリストの顔が揃うが、女性の姿が少ないのは前からのことで、実は筆者も気になっていた。

何が問題か?

これはノルウェー流に答えるなら問題だ。なぜなら、政治ニュースを読むのは年齢層の高い男性読者だけではないから。

将来メディア業界で働きたいと思っている若い人に送るシグナルが、「男性記者だけの写真イメージ」だと、女性や若者には必ずしも魅力的に感じられないからだ。

ノルウェーの人のように答えるなら、「特定の社会層だけが集まった光景は、国民全体を反映しておらず、民主的ではない」。

一方で、外国人の筆者が毎回感心するのは、ノルウェーの人々の「男女平等をもっと改善していきたい」とする姿勢だ。

グランデ党首のように、このような「小さなこと」でも、問題視して口にする。これですぐに変化が起きるわけではないが、その疑問の声をふと耳にした人の中には、なにか響くものがあるかもしれない。小さな波は、じわじわと時間をかけて大きな波になることもある。

ノルウェーの人たちは、自分たちの国が男女平等においては、「まだまだだ」という自覚があるので、こうして少しずつ改善し、みんなで考えようという姿勢が強い。

男性記者らに個人攻撃をしているわけではなく、どうしてこのような図式になるのか、原因である社会システムを変えていけないか、みんなで考えていこうとする傾向がある。

この日、グランデ党首は自身のFacebookにもさらに投稿。なんと、国会の報道席に座る男女の割合をずっと手書きで記録していたことが判明した。

Facebook: Trine Skei Grande
Facebook: Trine Skei Grande

政界や産業界では女性の姿は多いとはいえません。自由党だって偉そうなことは言えません。それなのに、メディアがこの批判対象になることは稀です。これが私の国会の報道席の記録です。昨年はこの席に座っていた女性は26%、今年は21%。国会政治を報道する記者の四分の三が男性によって伝えられているということは、何を意味しているでしょうか?

出典:Facebook: Trine Skei Grande

グランデ党首のコメント欄にはこのような投稿があった。

「このことを『問題ではないだろう』と言う男性・女性は多くいるでしょうね。そして、この光景を問題ではないと考える人がいることが、まさに問題なのです!」。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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