輸出木材の保管費用もコロナ禍対策?輸出拡大めざす農林産物の怪しげな内容
新型コロナウイルス対策を盛り込んで成立した今年度の補正予算で、農林関係の予算に目を通した。
林業・木材産業関係では「林業・木材産業金融緊急対策」(15億円)や「輸出原木保管等緊急支援事業」(9億9100万円)などが目に止まる。
金融支援はほかの業界にもあるからわかるとして、「輸出原木保管」とはなんだ?
おそらく3月頃に、コロナ禍で輸出先の中国の港湾都市がロックダウンしたため、輸出用原木の置き場に困ったことに対応したのだろう。輸出できなかった原木を日本で保管するための費用というわけらしい。
しかし、現在の中国のロックダウンは事実上解けて、もはや障害はなくなっている。むしろニュージーランドからの輸入木材が滞って、木材不足に陥っている様子だ。それなのに、なぜ今頃になって無意味な予算をつけるのか。
昨年の原木輸出額は148億円、約110万立方メートルである。そこに約10億円を乗せるというのは、1立方メートルあたり900円以上の税金を注ぎ込むことになる。輸出価格に比して馬鹿にならない金額だろう。
そもそもヤードの確保や輸出量の調整は、業者自らの裁量だ。経営判断を誤った業者のしりぬぐいを税金で行うのも同然ではないか。本来の需要でもないのに、貿易業者の失策に税金投入するなんて愚策の極みだ。
しかも対象は「輸出用の原木のみ」であり、国内向けの原木や輸出用製材の保管費には使えない。なぜ輸出用原木ばかりを優遇するのか。むしろ困っているのは国内の業者だろう。
ちょうど同じ時期に「2030年には農林水産物や食品の輸出を5兆円に増やす」という政府目標が発表されている。
実は19年に農林水産物の輸出額を1兆円にする目標があった。当初は達成しそうだったのだが、昨年は韓国向けの落ち込みなどがたたって9121億円にとどまっている。今年はコロナ禍があるからもっと落ち込むだろう。それなのに10年後の目標は、5兆円なのである。
この新目標では、農産物は19年実績比6倍の3.5兆円、水産物が同5倍の1.3兆円、林産物も同5倍の1800億円にしなければならない。
しかし、現在の農業産出額は9兆円しかないのである。今後は農家の減少で現状維持さえ難しいとさえ心配されているのに、3.5兆円を輸出に回せるというのか。
同じく林業産出額は現在5000億円ほどだが、そのうち木材関連は約半分の2648億円。それなのに1800億円分の輸出ともなると、何を売るのか。どれほど森林伐採を強化しなければならないか。いっそのこと森林そのものを売り飛ばすか。(林産物にカウントされないけれど。)
あまりに馬鹿げた目標に、政府与党からも「10年後、未達成だったら政治家は責任を追及されるが、計画をつくった官僚たちの大半は引退しているから平気なんだろう」という声が上がっている。
だが、より馬鹿げているのは、昨年の農産物輸出額5877億円の中身である。
普通、日本の農産物や食品の輸出が伸びていると聞けば、何を想像するだろうか。和牛肉に日本酒? あるいはリンゴやイチゴなど果物か。ところが、政府が発表する統計では何が輸出されているのかわからない、という事実を日本農業新聞が昨秋の調査報道で明らかにしている。
まずトップを占めるのは、798億円の「その他の調整食品のその他」。その他のその他? これは具体的に何なのか。
2番目が「パン、ケーキなどのその他」300億円。3番目は「日本酒」222億円。4番目は「ソース用の調整品などのその他」194億円。5番目は「紙巻きタバコ」160億円。
なにやら「その他」という言葉ばかりが目立つ。全体を見ても農産物っぽいのはタバコぐらいか。日本酒も米が原料だからよしとするにしても、パンやケーキの材料の小麦などはほぼ輸入品だし、「その他」とは? 7位に入る「水のその他」とはなんだ?
ほか調整品とか調味料も、原材料は輸入しているものだろう。ウイスキー(6位)、ビール(9位)だって大麦やホップは大半が輸入だろう。そもそも、これを農産物に含めるべきなのか。
細かく見ると、野菜種子、小麦粉、みそ、ごま油、ゼラチンなどの加工品の原料も大半が輸入農産物。メントールなどの有機化学品(76億円)や化学工業生産品(17億円)、さらにゴム製品やココア調製品なども入っている。ゴムやカカオを日本で生産しているとは思えず、日本の農業とはまったく関係ない。
もはや統計偽装ではないか。こんな輸出内容でも1兆円に達しなかったのに、今度は5兆円まで広げるつもりだろうか。今回のコロナ禍に名を借りた「輸出原木の保管費用」も、少しでも輸出額を嵩上げするために付けたのかも、と思えてしまう。
緊急対策という予算の、怪しげな項目に気をつけたい。