JCBがPayPayに対抗? 「ウォレット」競争に参入か
9月5日、JCBが事業者向けのデジタル金融プラットフォームを2023年春より提供すると発表しました。「スマホ決済参入」と報じられ、PayPayに対抗する動きにも見えますが、その裏にはウォレットアプリを巡る覇権争いがありそうです。
PayPayのようなアプリを作れるプラットフォームを提供
このニュースは日本経済新聞が5日の午前1時に報じた後、朝になってJCBからもプレスリリースが出ています。
SNSでの反応としては「いまさらPayPay対抗か」といったものが多いようです。実際のところ、QRコード決済を含む複数の決済手段に対応し、送金や残高管理ができるなど、PayPayのようなアプリを提供するように見えます。
ただ、注目すべきは「他の事業者にも提供する」という点です。このプラットフォームを使うことで、流通や小売などの事業者は「PayPayのようなアプリ」を簡単に作れるようになるからです。
他社の事例としては、セブン-イレブンのアプリにはPayPayの決済機能が組み込まれています。アプリ全体のユーザー体験はセブン-イレブンが提供しつつ、決済だけをPayPayに任せているわけです。
ほかにも、無印良品のアプリに設定できる「MUJI passport Pay」には「COIN+」(リクルートMUFGビジネス)、ヤマト運輸が本日発表した「にゃんPay」には「ハウスコイン」(みずほ銀行)といった技術が使われています。
同様に、JCBのプラットフォームを利用すると、既存のアプリに金融サービス機能を埋め込めるとのこと。法令要件への対応などはJCBが代行し、事業者は本業に集中できるとしています。
多くの事業者がデジタル化に取り組む中で、アプリの提供は必須となりつつあります。しかし金融サービスを提供するにあたって、セキュリティや法令対応は悩ましい課題です。
その点、JCBのプラットフォームを使えば、自社でゼロから作るよりも圧倒的に早く実現できそうです。消費者としても安心して利用できるかもしれません。
アプリがない事業者向けには、JCBがひな形となるアプリを提供するようです。これは海外の銀行向けアプリで実績があるオランダのBackbase社と提携し、シンプルで分かりやすいものになるとしています。
「給与デジタル払い」で流れは変わるか
金額ベースでみると日本のキャッシュレスはクレジットカードが大半を占めており、給与や引き落としでは銀行口座を経由するのが普通です。
この流れが大きく変わるかもしれないのが、給与をアプリや電子マネーで受け取れる「給与デジタル払い」の解禁です。
MMD研究所が2022年6月に実施した調査では、給与デジタル払いの利用意向は33.6%となっています(「利用したい」と「やや利用したい」の合計値)。
さらに、男性10代では58.8%、女性20代では47.4%など、おおむね若年層ほど利用意向は高くなっています。
JCBでは、給与デジタル払いの法制度が整備されれば、給与チャージ機能を検討していくとしています。
まだまだ銀行のほうが安心という声は根強いものの、解禁後に各社が「給与を受け取れば○%還元」といったキャンペーンを始めれば、一気に流れが変わる可能性もあります。
ここで主役になるのは、PayPayのようにデジタルのお財布としての機能を備えた「ウォレット」アプリやサービスです。
日常的な決済以外にも、小遣いや仕送りの送金なら、手数料や時間がかかる銀行振込よりも、無料ですぐに送れるアプリ送金のほうが便利です。
大きな買い物に使える「あと払い」では、年収や雇用形態によらず、日頃の決済データから与信枠を柔軟に設定するサービスが出てきています。
資産運用や保険、ローンなど金融商品を知る機会は、銀行ではなくアプリになるでしょう。アプリなら登録済みの情報とeKYCで申し込みも簡単です。
その受け皿となるウォレットを提供するのは誰なのか、競争はまだ始まったばかりといえそうです。