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俳優「大泉洋」「安田顕」を支える、驚異の「北海道パワー」とは!?

碓井広義メディア文化評論家
「CUE DREAM JAM-BOREE 2018」会場で(筆者撮影)

先週末、27日(金)から29日(日)まで、札幌市の北海きたえーるで、「CUE DREAM JAM-BOREE(キュードリームジャンボリー)2018」が開催されました。3日間、約6000人のキャパで計4回の公演。いずれも満員御礼でした。

とは言っても、少し説明が必要ですよね。まず「CUE(キュー)」とは、札幌を拠点とする芸能事務所「CREATIVE OFFICE CUE(株式会社クリエイティブオフィスキュー)」(以下、オフィスキュー)のことです。ここには、俳優の大泉洋さんや安田顕さんなどが所属しています。

地元でしか見られない「CUE DREAM JAM-BOREE」

「CUE DREAM JAM-BOREE」(以下、ジャンボリー)は、オフィスキュー所属タレントたちがオリジナルソングを披露するライブ、バラエティーショー、またお芝居までも見せてくれる一大イベントです。2002年に始まり、2年に1度しか行われない、オフィスキューの「お祭り」であり、「大騒ぎ」なのです。

今回のジャンボリーの目玉は、複合的ミュージカルともいうべき「リキーオと魔法の杖」。ライブと映像を組み合わせた、壮大な作品になっていました。中身は、そうですねえ、「ハリー・ポッター」の世界観に、「ロミオとジュリエット」を加えたような・・・って、全然違うか(笑)。

全編でオリジナルソングが歌われ、照明、音響、そして特殊効果も本格的なもので、「内輪のお遊び」みたいな雰囲気は微塵もありません。

この「リキーオと魔法の杖」には、オフィスキューの創設者で現会長の鈴井貴之さん(大泉洋さんと組んだ「水曜どうでしょう」で知られていますね)、演劇ユニット「TEAM NACS(チーム・ナックス)」(以下、ナックス)の5人、お笑いコンビ「オクラホマ」の河野真也さんと藤尾仁志さん、さらに元SKE48の東李苑(あずま りおん)さんなど、オフィスキューの所属タレントが総出演していました。会場を埋めたお客さんの年齢層は20代~60代くらいまでと幅が広く、ご夫婦や親子連れも目立ちます。

母艦である「ナックス」、基地としての「オフィスキュー」

大泉さんも、安田さんもナックスのメンバーです。2人の他には、リーダーの森崎博之さん。「陸王」で陸上部監督、「ブラックペアン」で帝華大学病院外科医を演じていた音尾琢真さん。そして「グッド・ドクター」に小児科医として出演中の戸次重幸さんがいます。

ナックスは北海学園大学演劇研究会の仲間たちで構成されており、正式な活動は、すでに20年になります。大泉さんを全国区の人にした「水曜どうでしょう」と同じHTB北海道テレビで、冠番組「ハナタレナックス」や「おにぎりあたためますか」を15年も続けていますが、5人ともお笑い芸人でもバラエティタレントでもなく、あくまでも全員が「役者」なんですね。

そして特筆すべきは、どのメンバーも全国的に知られるようになっても、ナックスを大事にしており、また北海道のナックスファン、オフィスキューのファンを大切にしていることでしょう。

その表れの一つが、この「ジャンボリー」というイベントです。「ジャンボリー」は、オフィスキュー所属メンバーを応援してくれている北海道の皆さんに対する「大感謝祭」であり、テレビやラジオとも異なるクリエイティブな「大実験」であり、各人が2年間の精進と蓄積を披露する「大発表会」であり、さらに会場と一体になりながら仲間たちとの結束を図る「大宴会」なのかもしれません。

日々大忙しのはずの大泉さん、安田さんたちメンバーが、3日間で4回限定の公演のために、どれだけの時間とエネルギーを投入し、準備してきたか。実際にライブを見て、ジャンボリーがもつ意味を痛感しました。

メンバーにとって、役者としての自分、そして素の自分、その両方を遠慮することなく、思いきりさらすことの出来る場所。それが北海道であり、地元・札幌なのだと思います。それによって、「全国区の人気」などにあぐらをかくことなく、自分に対する判断を誤ることなく、ふだんの芸能活動を続けていくことが可能になる。ホームタウンの舞台に、鎧(よろい)なしの生身で立つことで、そのときどき、つまり「現在の自分」を確かめているのではないでしょうか。いわば、原点回帰を繰り返しながらの進化です。

俳優「大泉洋」「安田顕」を支える北海道パワー

終演後、バックステージで鈴井貴之さんと、オフィスキュー社長の伊藤亜由美さんにお会いしました。お2人とは、プロデューサーとして「鈴井貴之 原点回帰」(2011年、NHK)というドキュメンタリー番組を制作して以来のおつき合いになります。

亜由美社長によれば、オフィスキューでは新入社員全員に、私の著書「テレビの教科書」(PHP新書)を渡すのだそうです。知りませんでした。恐縮です。

お2人は、私が知り合った当時はご夫婦だったわけですが、その後、現在のような別姓となり、でも会長と社長というビジネス上のパートナーとして仕事を続けています。つい、「面白い関係ですねえ」と言うと、ご両所は照れたように笑っていました。

俳優「大泉洋」や「安田顕」を支える”北海道パワー”、それは融通無碍な”オフィスキューパワー”でもあったのです。

HTB「イチオシ!」などでお馴染みの「オクラホマ」河野さん・藤尾さんと
HTB「イチオシ!」などでお馴染みの「オクラホマ」河野さん・藤尾さんと
「CUE DREAM JAM-BOREE 2018」会場(上下とも筆者撮影)
「CUE DREAM JAM-BOREE 2018」会場(上下とも筆者撮影)
メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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