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母と娘で同じ下着を着ることはあり?女を捨てていない母を愛されない人物にはしたくなかった

水上賢治映画ライター
「同じ下着を着るふたりの女」のキム・セイン監督

 なんともユニークなタイトルのついた映画「同じ下着を着るふたりの女」。

 ただ、どこかユーモアを感じさせる題名とは裏腹に、その物語はかなり痛烈にして辛辣。

 どこまでいっても平行線、愛憎が入り混じるまだまだ女を捨てていないシングルマザーと20代後半になってもまだ自立しきれていない娘の関係の行方が描かれる。

 たかが下着、されど下着。たった一枚の下着から、現代を生きる母と子の関係を残酷なまでに浮かび上がらせる。

 第26回釜山国際映画祭で5部門で受賞を果たすなど、世界で高い評価を得た本作を手掛けるのは1992年生まれの新鋭、キム・セイン監督。

 鮮烈な長編デビュー作を作り上げた彼女に訊く。

「同じ下着を着るふたりの女」のキム・セイン監督
「同じ下着を着るふたりの女」のキム・セイン監督

娘のイジョン役を演じた新進女優のイム・ジホについて

 今回は本編インタビューに続く番外編。

 まず、キャスティングについて、娘のイジョン役を演じたのはイム・ジホ。

 彼女は本作で長編映画デビューした新進女優。ここでの演技が高い評価を受け、2021年の第26回釜山国際映画祭で年間最優秀女優賞を受賞している。

 彼女に決めた理由をこう明かす。

「作品をみてもらえばわかるように、イジョンは口下手で、言葉でなにかを相手に伝えることが得意ではない。

 母親に車ではねられたことをきっかけに、少し言い返せるようになりますが、ずっと短気で勝ち気な性格の母親の顔色をうかがいながら生きてきたところがあります。

 だから、セリフというか言葉ではなくて、目でなにかを物語ることができるような役者さんを求めていました。

 イム・ジホさんにお会いしたとき、目の奥まで澄んでいるような瞳に魅入りました。そこで、『彼女ならば』と思いました。

 この人ならば目だけでイジョンの心の中に瞬間瞬間に生まれ、湧き出てくる感情を表現してくれると思いました。

 実際、その通りのすばらしい表現をしてくださいました」

「同じ下着を着るふたりの女」より
「同じ下着を着るふたりの女」より

母のスギョンは、誰からも愛されない人物にはしたくなかった

 一方、母のスギョン役は『イカゲーム』などに出演するヤン・マルボクが演じている。

「スギョンはなかなか激しい気性の女性で、たとえばちょっと強面の女優さんが演じると強烈な印象になりすぎて、誰からも拒否されてしまうといいますか。

 一歩間違うと、自分勝手で娘のことは二の次の母親になりすぎてしまって、誰からも愛されない人物になってしまう。

 それは避けたかったんです。

 できればまだ同情の余地があるといいますか。

 憎めない人物になればと思っていたんです。

 ですから、スギョンの中にある気性の激しさや勝ち気なところをうまい具合に収めてくれるというか。

 その人自身がもつ魅力で封じ込めて、母親としてひとりの女性としてぎりぎり嫌われない人物にしてくれる人がいないかと考えていました。

 で、ヤン・マルボクさんに初めてお会いしたとき、『この人だ』と思いました。

 ヤン・マルボクさんは女性としてのチャーミングさがある一方で、なんともいえない逞しさが感じられる。

 スギョンにぴったりで、彼女ならばしっかり表現してくれると思いました。

 スギョンを悪女と言い切れない、ちょっと共感できるところにある人物にしてくれたのは、ヤン・マルボクさんのおかげで、お願いしてほんとうによかったと思っています」

「同じ下着を着るふたりの女」より
「同じ下着を着るふたりの女」より

これまでにない視点から母と娘の関係性を描けたのではないか

 最後はキム・セイン監督自身の話を。

 本編インタビューで、親の反対を押し切って、映画の道へ進んだことを話してくれたが、この世界でやっていこうと思ったきっかけは?

「わたしが映画がすばらしいと思うのは、現実をいろいろな視点に立ってみることができることなんです。

 たとえば、ある現実に起きている社会問題について、ちょっと距離を置いてカメラを通してみてみる。

 すると、まったく違う世界が広がり、いままで浮かびあがらなかったことがわかったりする。

 そのことが問題解決の糸口や、事実を伝える第一歩になることがある。

 映画を介することで、わたし自身がより多くのことを学べ、そして現実世界のことを良く知り、物事や問題の事の本質や真理に近づける。

 だから、映画監督を続けたいと思いました。

 ですから、今回の作品もそうですけど、親子の関係に個人的な感情で接近はしていません。

 あえて、距離をとることでみえることがあるのではないかと考えました。

 実際、そうすることでこれまでにない視点から母と娘の関係性を描けたのではないかと思っています。

 こうした新たな視点から物事をみることで、国をこえて人々が思いを共有できたり、相互理解が深まるような作品をこれからも発表できればと思っています」

キム・セイン監督
キム・セイン監督

【キム・セイン監督インタビュー第一回はこちら】

【キム・セイン監督インタビュー第二回はこちら】

【キム・セイン監督インタビュー第三回はこちら】

【キム・セイン監督インタビュー第四回はこちら】

「同じ下着を着るふたりの女」メインビジュアル
「同じ下着を着るふたりの女」メインビジュアル

「同じ下着を着るふたりの女」

監督:キム・セイン

出演:イム・ジホ、ヤン・マルボク、ヤン・フンジュ、チョン・ボラム

公式サイト https://movie.foggycinema.com/onajishitagi/

全国順次公開中

写真はすべて提供:foggy

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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