甲府時代の”愛弟子”野津田岳人が代表初招集。残留争いの渦中で磐田・伊藤彰監督が描く”二つのレーン”
日本代表の森保一監督は日本で行われるEAFF E-1選手権に臨む26人のメンバーを発表しました。
若手からベテランまで、Jリーグで活動するタレントから幅広い人選となった今回ですが、筆者の中でも感慨深いのが野津田岳人(サンフレッチェ広島)の初招集でした。
野津田は広島の公式動画を通じて「今まで所属してきたすべてのチームに感謝したい」とコメントしました。
94年生まれの野津田が広島のユース年代から”レフティ・モンスター”として将来を嘱望されて、アンダー代表でも南野拓実(モナコ)らとチームの中心を担ってきました。
しかし、広島ではレギュラーを取りかけてはチャンスを逃す繰り返しで、これまで新潟、清水、仙台、甲府と期限付き移籍を繰り返してきました。それでも完全移籍で放出しなかったのは”未完の大器”の覚醒にかける期待があったからでしょう。
今シーズンついにJ1のステージで才能を開花させ、初のA代表に漕ぎ着けた野津田。その大輪を咲かせるきっかけを作ったのは間違いなくミヒャエル・スキッベ監督ですが、野津田の”覚醒”はヴァンフォーレ甲府に期限付き移籍した昨年にあったと観ています。
組織的で可変性の高い機能美をピッチに体現し、磐田や京都サンガと終盤までJ1昇格を争った甲府で、中軸を担っていたのが野津田岳人でした。
その甲府を指揮していたのが、現在はジュビロ磐田を率いる伊藤彰監督。欧州サッカーのトレンドにも精通する理論派でありながら、一人一人の選手に向き合う熱さを持った指揮官で”兄貴肌”な気質も見られる指導者です。
その伊藤彰監督に、野津田の選出で思うところを聞きました。
ーー野津田選手が日本代表に選ばれて、甲府時代の”教え子”としても嬉しいのかなと思います。やはりジュビロでそういう選手を育てて行くために、今は残留争いとか今を生きるみたいな状態になってますけど、また彰さあんの中でも野心というか、ジュビロからそういう選手たちを育てて行くんだという気持ちは?
「今回、岳人の代表というのは僕自身も嬉しかったです。1年間、彼とは修正と成長と色んなものをお互いに話しながら、繰り返しながら、すごく1年間、甲府で戦ってくれた選手として。また広島でスキッベさんのもとで開花して、代表になれたことは心からおめでとうと言いたい」
そう語る伊藤彰監督ですが、今はジュビロ磐田の監督として、このチームをどう引き上げて、そこから国際レベルで通用するような選手を育てていくか。ただ、今はやはり残留争いの最中にあり、次の試合でどう勝つかにフォーカスしないと行けない状況でもあります。
「僕の中では2つのレーンをチームの中で持っています。1つは今を生きて、しっかりと勝ちを取るために、現在戦える選手たちをチョイスしながら、選択しながら次のゲームに進む。それはバランスでしたり、モチベーションでしたり、チームとの関係性でしたり、いろんなもの含めて選手を選考しています」
「それにプラスアルファでやはり育成というところ。若手を育成しながら、このチームが1年で終わるんじゃなくて、2年、3年と続いて行くために、若い選手たちがどれだけゲームに関わっていけるかどうか。目の色変えてガムシャラにできるかどうか。ここがすごく重要で、僕は2つのレーン、指針を持ちながらやっています」
ジュビロ磐田は30年の歴史を持つJリーグでも伝統のある名門で、現在コーチの中山雅史氏や松本山雅の名波浩監督など、多くの代表選手を輩出してきました。しかし、ここ数年はJ2降格も経験するなど、新たな再建のサイクルにあります。
それでもアカデミー出身の伊藤洋輝(シュトゥットガルト)が6月の代表シリーズで活躍して、カタールW杯に向けて猛アピールしたり、かつて高卒から在籍していた大南拓磨(柏レイソル)が今回のE−1で初招集されるなど、日本代表にも着実につながっています。
もともとA C Lの出場権が取れるポジションを目標に掲げていた伊藤彰監督ですが、就任1年目、何より昇格シーズンで、そんなに甘くありませんでした。比較的、主力の平均年齢が高いチーム構成にあって、ルヴァン杯で若手にチャンスを与えて、ようやくリーグ戦に絡める選手も増えてきました。
ただ、それでも夏の積極補強などを進めるライバルに比べて、心許ない戦力であることも確かです。大小様々なアクシデントに見舞われながらも、前に進もうとする伊藤彰監督ですが、果たしてジュビロ磐田がJ1残留を勝ち取り、来シーズンの飛躍に向けて帆を張って行けるかは分かりません。
それでも”教え子”の代表選出を1つ大きな刺激として、ジュビロ磐田というチームをJ1でも勝てるチームに引き上げていくこと、そしてA代表に選ばれるような選手を育て上げること。その”二つのレーン”をいち記者として、前向きに厳しく見守っていきたいと思います。