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【フランス】コロナ新規感染者数30万人超 それでも規制緩和の方向へ

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
1月20日、カステックス首相会見の映像から

昨年末の記事で、フランスでコロナ新規感染者が激増に転じていることをお伝えしましたが、現時点ではその倍。日によっては50万人近い数が報告されています。

フランスのコロナ対策アプリ「AntiCovid」から、新規感染者数の推移を示すグラフ(1月23日時点)。1月18日の新規感染者数は46万4000人。
フランスのコロナ対策アプリ「AntiCovid」から、新規感染者数の推移を示すグラフ(1月23日時点)。1月18日の新規感染者数は46万4000人。

1月20日に行われたカステックス首相の記者会見によると、年末年始、デルタ種とオミクロン種がダブルで拡大。特にオミクロン種の感染者数はこれまで500万人に及び、無症状で検査をしていない人も考慮すると、おそらく倍の数が感染していることになるだろうと発言しています。

倍ということは1000万人。フランスの人口は約6700万人ですから、6〜7人にひとりはオミクロン種にすでに感染しているという想定になります。

首相会見で示されたグラフ。新規感染者数の推移を示したものだが、12月終わりにオミクロン(オレンジ)とデルタ(グレー)の割合が逆転。1月20日時点では、新規感染者のうち97.8パーセントがオミクロン種。
首相会見で示されたグラフ。新規感染者数の推移を示したものだが、12月終わりにオミクロン(オレンジ)とデルタ(グレー)の割合が逆転。1月20日時点では、新規感染者のうち97.8パーセントがオミクロン種。

新規感染者数が日に日に上昇し、いったいどこまで行くのか、という近況なのですが、カステックス首相の会見は、まさにそんなピーク更新中に行われました。

となると、日本の蔓延防止措置のような新たな引き締め策が発表されるのではないか、と思われるかもしれませんが、事実はその逆。冒頭のような感染拡大状況を踏まえた上で、2月からの規制緩和方針が発表になったのです。

具体的に、2月2日以降は次のような緩和が予定されています。

●テレワークの義務の緩和

●文化、スポーツ施設への入場制限の解除

●屋外でのマスク着用義務の解除

さらに2月16日からは

●映画館、列車内等での飲食、カフェやバーなどでの立食が可能に

●ディスコの再開

と続きます。

ただし、規制緩和を進めて行く前提となるのがワクチン接種の徹底。

1月24日(月曜)から、レストラン、映画館、劇場、スタジアム、TGV)長距離列車)を利用する際に「ワクチンパス」の提示が必要になります。

これまでの「衛生パス」から切り替わる形ですが、「衛生パス」の場合はワクチン接種していなくても、陰性証明で代用可能でした。けれども、「ワクチンパス」は文字通りワクチン接種をしていることが必要。つまり、今後はワクチン接種をしていないとますます生き難い世の中になってしまいます。

1月23日時点、フランスのワクチン接種者の割合はおよそ78%。

ちなみに、以前はもっと高い数字だったのですが、5歳からのワクチン接種開始に伴って、この数字は少し後退。とはいえ、ワクチン接種がかなり高い割合にあることは間違いなく、1月19日時点で、成人の62%がブースター接種まで完了しています。

首相の会見によると、ワクチン接種者は接種していない人に比べて感染率は4分の1から5分の1、重症化の割合は25分の1になるとのこと。ワクチン接種の徹底により、通常の社会生活へと移行して行くという方針がますます強化された形です。

海外出張のリスク

さて、ここからは私自身の生活体験を通して感じた感染拡大ぶりと、国ごとの方針の違いについてお話ししたいと思います。

1月上旬の1週間、私は日本の雑誌のための仕事で、フランスの地方に1週間ほど出張をしました。この仕事は、毎年ほぼ定期的に行ってきたもので、東京からやってくるジャーナリスト2人と、パリ在住の2人とが合流し、4人がそれぞれの役割を持って臨むものです。ここ2年ほどはフランス現地取材が叶わずにいたのですが、いよいよ復活をということで、昨年から準備を進めていました。

ところが、年末年始でフランスの感染者数が急増したため、結局、日本からの来仏は諦め、在仏の2人だけでの実現となりました。最終段階で苦渋の選択をせざるを得なかったわけです。

前回の記事にも書いた通り、フランスは世界各国を感染状況によって分類しています。日本は最も軽いグリーンのカテゴリーなので、フランス入国には陰性証明は必要ですが、入国後の隔離措置などはありません。つまり、日本から到着してすぐに仕事ができます。

年始のパリ市メッセージポスターが各所に掲げられている。左は国会。今年上半期、フランスが欧州連合の議長国になっているので、加盟国の国旗がずらりと並んでいる。(以下の写真は全て筆者撮影)
年始のパリ市メッセージポスターが各所に掲げられている。左は国会。今年上半期、フランスが欧州連合の議長国になっているので、加盟国の国旗がずらりと並んでいる。(以下の写真は全て筆者撮影)

ただし、フランスから日本へ帰る時が問題です。フランスを出発する72時間前までに実施したPCR検査の陰性証明(日本政府が求める書式に則った書類に医師など専門家による署名入り)が必要で、日本の空港到着後に指定されたホテルでの数日間の完全隔離、そして自宅での隔離と続きます。

と、これだけでも渡航を躊躇させるに十分なものですが、今回はそれも覚悟の上のフランス出張計画でした。ところが、実現直前になってオミクロン株感染の急拡大。これでは注意に注意を重ねても、取材中に感染する確率がかなり高いことが懸念されます。

オミクロン株感染の場合、無症状で済む可能性は高く、自分では健康そのものと思っても、フランス出国前のPCR検査で陽性と出るケースが考えられます。そうなると飛行機に乗れないばかりか、陰性になるまでの期間、フランス国内で自己隔離をしなくてはなりません。その場合の精神的、肉体的、さらには時間と経済的なリスクがとれるのかどうか…。

こう考えると、1月上旬に日本からフランスに出張することは、残念ながらリスクが高すぎました。

感染がより身近になった日常

在仏組の私は、予定通り現地に出向きましたが、いつもの不織布マスクよりもさらに強力なFFP2というカテゴリーのマスクで防備。パリからの移動手段は、密を極力避ける判断で、列車の倍の時間がかかる車移動としました。

現地では10件ほどのアポイントがありましたが、直前にキャンセルになり、急遽代替策で対応した箇所が2件。理由はコロナ陽性、もしくは感染が疑われるので検査が必要というものでした。

予定どおり訪問が叶った先でも、「クリスマスに家族みんなが感染した」とか「ようやく回復して、隔離期間が明けたところ」などと言われたところが複数あり、まるで感染の地雷原を歩いているような気がしたものです。

なんとか取材日程を完了し、パリに帰って一番最初にしたことは、セルフテストでした。薬局、そしてスーパーマーケットでも入手可能になった抗原検査キットの綿棒を鼻にグリグリ、試薬を垂らして待つこと10分。幸いにして結果は陰性で、翌日行った2回目も陰性。自覚症状もまったく出ていないので、出張での感染は免れたといえそうです。

「アヒルのくちばし」と形容されたりするFFP2タイプのマスク(フランス製)と抗原検査キット。いずれも近所の薬局で入手。抗原検査キットの価格はまちまちのようだが、筆者が購入したものは、1回分のキットで2.5ユーロ(およそ300円)だった。
「アヒルのくちばし」と形容されたりするFFP2タイプのマスク(フランス製)と抗原検査キット。いずれも近所の薬局で入手。抗原検査キットの価格はまちまちのようだが、筆者が購入したものは、1回分のキットで2.5ユーロ(およそ300円)だった。

人に会うこと、協働する機会をゼロにはできない以上、しばらくはFFP2マスクと抗原検査キットを常備する日常が続きそうですが、右肩上がりのグラフを直視しつつも、後戻りはしない、むしろ前向きな方向性を感じるパリの日常です。

クリスマスイルミネーションが1月中も楽しめるパリ。曇り空の毎日を明るくしてくれる。
クリスマスイルミネーションが1月中も楽しめるパリ。曇り空の毎日を明るくしてくれる。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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