北極の海氷は最小レベルに 極渦を弱め、寒冬も
この夏の北極海の海氷面積は史上2番目に小さい374万平方キロメートルまで縮小した。加速度的に減少する海氷の影響は北極上空の極渦を弱め、寒気が放出されやすくなるという。北極の温暖化で、日本が寒くなる。
北極海の海氷は「シャボン玉」
アメリカ雪氷データセンター(NSIDC)は9月21日、この夏の北極海の海氷面積が374万平方キロメートルまで縮小した可能性があると発表しました。1979年以降、海氷面積が400万平方キロメートルを下回ったのは2012年だけで、今年は観測史上2番目に小さくなりました。
例年、北極海の海氷は9月中旬に最も小さくなります。こちらは8月末の海氷の大きさを1980年と今年で比べた図です。白青で示したところが海氷で、大きさの違いが歴然としています。40年前と比べて、大きさは半分になりました。
専門家は南極大陸にある氷を石鹸に例えれば、北極海に浮かぶ海氷はシャボン玉のように脆くはかない存在と表現します。
北極の観測体制は脆弱
北極域は世界で最も温暖化が進んだ地域として、専門家の注目を集めています。とくに、海氷は加速度的に減少していて、最小記録の上位はこの10年余りに観測されたものです。
北極は南極基地のように拠点となる場所がなく、長らく気象観測が困難な地域でした。今のように、海氷をつぶさに観測できるようになったのは気象衛星が登場した1980年代からです。それでも、観測体制が十分とは言い難く、エルニーニョ/ラニーニャ現象に代表される熱帯域の研究に比べると見劣りします。
海氷の減少は極渦を弱め、寒冬も
海氷が少なくなると、天気にどのような影響があるのでしょう。着目するのは海から大気へ伝わる熱です。氷は太陽の光を反射する一方で、海は太陽の熱を吸収します。今、北極海は太陽の熱を受けて、温められ続けているのです。
海の熱は大気へと伝わり、大規模な風の流れに影響すると考えられています。そのひとつが北極上空に形成される極渦を弱めることです。
北半球の冬、北極の上空には低気圧性の渦ができます。この極渦が北極付近に留まっているとき(極渦が強い)は寒気の放出が弱く、日本では気温が高くなりやすい。一方、極渦が弱く、分裂してしまうと、寒気が放出され、日本は寒冬になるという考えです。
その事例を示したのがこちらの図です。左図は記録的な暖冬となった2020年、右図は寒冬となった2018年です。
しかし、近年、北極の海氷が少ないことが常態化しているため、必ずしも寒冬になるとは言えません。専門家の中でも、北極の温暖化が中緯度の寒冷化を引き起こす考えに否定的な見方があります。わずか40年で、北極の環境は激変しました。それがどのように私たちに影響しているのか、今後、どのように影響するのか、興味は尽きません。
【参考資料】
アメリカ雪氷データセンター(NSIDC):Arctic sea ice decline stalls out at second lowest minimum、September 21 2020
気象庁ホームページ:海氷に関する診断表、予報、データ
気象庁ホームページ:大気の循環・雪氷・海況
西井和晃,中村哲,森正人,2019:2018年秋季「極域・寒冷域研究連絡会」の報告
―北極海の海氷減少の中緯度気候への影響は本当か?―,天気,66,399-403.
島田浩二,鴨志田隆,猪上淳,伊東素代,溝端浩平,堀雅裕,2010:5.北極海のカタストロフ的な変化,天気,57,784-789.