春物、夏物それぞれのファッションセンスで魅惑する外来の蝶アカボシゴマダラ
外来の横暴な虫、第2弾はアカボシゴマダラ。関東地方では近年、アカボシゴマダラという南国風のきれいな蝶がたくさん見られるようになったが、これも外来の新参者だ。1990年代に関東地方に出現し、あっという間に勢力を拡大してしまった。これに近い在来の蝶はゴマダラチョウだが、こちらは白と黒だけの純和風の落ち着いた(地味とも言う)装いなのに対し、アカボシゴマダラの夏型は、華やかな赤い紋が目立つ。
どっちがきれい、と聞かれれば、ほとんどの人がアカボシゴマダラと答えるだろう。
そのうち虫捕り少年たちの間でも、アカボシゴマダラばかりがちやほやされ、ゴマダラチョウがさげすまれる日が来るのかもしれない。生命力、繁殖力もアカボシの方がはるかに上のようで、今や関東はアカボシゴマダラの天下。在来のゴマダラチョウは、圧倒的な少数派になってしまった。
もちろん「きれいなら外来でも何でもいい」ということにはならない。せめて昆虫記者だけは「在来のゴマダラチョウがんばれ」と叫びたい。だが、アカボシゴマダラの方が生態も面白いので、ついついアカボシの方に目が行ってしまう。
アカボシは、春型と夏型で同じ種類とはとても思えないほど姿が違う。春型は色白で巨大な蝶であり、夏型はコンパクトながら華やかな柄だ。これは楽しいではないか。一方、在来のゴマダラチョウは春型と夏型でほとんど変化がなくてつまらない。
10数年前、昆虫記者が埼玉県で初めてアカボシの春型に遭遇した時には、異国の蝶と直感して衝撃を受け、カメラのシャッターを切り続けたものだ。当たり前の蝶になった今でも、ゆったりと飛ぶ春型を見つけると、あの当時の思い出がよみがえる。
関東を席巻したアカボシゴマダラの故郷は中国と言われる。幼虫の食樹が、ゴマダラチョウ、オオムラサキ、テングチョウなど在来の蝶と同じエノキなので、生態系に悪影響をもたらす恐れもあるようで、特定外来種に指定されている。日本の奄美諸島に在来の亜種がいるが、こちらは春に白い装いになることがないし、夏型の赤い紋の形が外来種とかなり異なる。
最後に在来のゴマダラチョウの写真を紹介。
「在来ゴマダラチョウよ、外来種なんかに負けるな」。とか言いながら、ひそかにアカボシゴマダラに肩入れしているやつは誰だ。