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公表された南海トラフ地震の「長周期地震動」、対策を急ぎたい

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

長時間地震動と共振

本日、南海トラフ地震に対する長周期地震動予測結果が公表されました。東日本大震災では、東京や大阪の高層ビルが大きく揺れました。東京をはじめ大都市には高層ビルが林立しています。高層ビルや免震ビル、石油タンク内の油などは長周期でよく揺れます。地震動の周期と構造物の揺れやすい周期が近接すると、揺れが長時間続くことで構造物が徐々に共振して揺れが大きく増幅します。このため、ビルの室内は想像を超える強い揺れに見舞われる可能性があります。

共振とは、水風船をある周期で手を動かすと勢いよく上下に動くのと同じです。うちわを扇ぐ場合にも、団扇の揺れやすい周期で扇ぐことで効率よく風を生み出しています。共振は、私たちの生活で役に立つと同時に、様々な障害の原因にもなっています。

巨大地震と大規模平野

マグニチュード8を超えるような巨大地震では、広い震源域が破壊し、長周期の揺れが長時間放出されます。長周期の揺れは遠くまで伝わりやすいので、広範囲で長周期の揺れが生じます。とくに、大規模堆積平野では、長周期の揺れが増幅され、平野内に揺れが留まるため、揺れの時間が長くなります。

プリンをお皿の上にのせて左右に揺すると、特定の周期のときに良く揺れるのと同じように、平野にはそれぞれ揺れやすい周期があります。関東平野は6~8秒、大阪平野は4~6秒、濃尾平野は3~4秒程度と言われています。

ちなみに、建物も、地盤と同様に揺れやすい周期を持っています。建物の揺れやすい周期は、概ね建物階数に0.1秒を乗じた周期で、高層のビルほど長周期で揺れます。

このため、地盤と共振しやすい建物の高さは、平野によって異なることになります。

高層ビル

現在では、全国に二千を超える高層ビルがあります。それぞれのビルには千人規模の利用者がいます。従って、長周期の揺れの影響を受ける国民は数百万人にも及びます。これは、東日本大震災に見舞われた東北3県の人口にも匹敵します。

高層ビルや免震ビルは、大企業の本社や公的施設、病院、集合住宅に使われており、きわめて重要度が高いものです。ですが、我が国の耐震基準は最低基準である建築基準法に基づいているため、重要度に応じた耐震性の上乗せは義務づけられていません。また、高層ビルの建設当初は、大きな地震が少なかったこともあり、地震動の揺れは短周期の揺れが多く、長周期の揺れが少ないと考えられていました。このため、地震が起きても高層ビルは柳に風と振る舞うと考えていました。中には、長周期の揺れに対して十分な余裕がない建物も存在しているかもしれませんから、公表された揺れを用いて、早期に点検・対策をすることが望まれます。また、家具の固定など室内の安全対策を早急に進めたいと思います。

なお、この問題は、高層ビル建設当初の50年前には十分に認識されていなかった問題ですから、当事者に責任がある訳ではありません。地盤と建物が共振している建物は限られていると思われます。今後、既存建物の点検・改修を促進するため公的補助も含めた仕組み作りが望まれます。特に、分譲マンションなどの区分所有の集合住宅では居住者間の合意形成が難しいと思われます。住宅を販売・設計・建設した事業者の方々の各種の支援を期待したいところです。

南海トラフ地震が切迫する中、被害を未然に防ぐため、種々の対策を進めたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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