Yahoo!ニュース

視力を失ったクライマーと良き相棒に出会って。会社経営の尽きない悩みで初対面で意気投合!

水上賢治映画ライター
「ライフ・イズ・クライミング!」より

 視力を失ったクライマーのコバ(小林幸一郎)と、彼の視力となるサイトガイドのナオヤ(鈴木直也)。

 とにもかくにも、まずはこの「二人」のクライミングをみてほしい。

 そう願わずにいられなくなるのがドキュメンタリー映画「ライフ・イズ・クライミング!」だ。

 相棒の声を頼りに岩を登るコバと、彼の目となって的確に目的地へと導くナオヤ。

 パラクライミングの世界選手権で4連覇の偉業を成し遂げた二人が、新たなチャレンジとしてアメリカへ。

 二人はユタ州の大地にそびえたつフィッシャー・タワーズの尖塔に立つことを目指す。

 果たして、二人の新たなチャレンジはどんな結末を迎えるのか?

 その旅に同行し、これまでの二人の歩みを見つめた中原想吉監督に訊く。全七回

中原想吉監督
中原想吉監督

お互い経営者という立場で意気投合!

 前回(第一回はこちら)は、クライマーのコバこと、小林幸一郎氏との出会いについて訊いたが、その初顔合わせでなにか相通じるところがお互いにあったという。

「いきなり代打で撮影することになって、コバさんと初めてお会いして、その日の撮影はなんとか、つつがなく終了しました。

 いろいろとお話もうかがいましたし、撮影も十分できた。

 そして、僕も生まれて初めてのクライミングでヘトヘトになってしまって、カメラを持つ握力もほとんど残っていなかった(苦笑)。

 ということで、もう、帰路の電車での撮影は必要ないだろうということで、カメラを回さずに二人でいろいろと話したんです。

 そのときの対話が、いまも鮮明に残っている。それぐらい印象的なこととして記憶に残っている。

 これは僕だけではなくて、コバさんもそうみたいで。

 その後、コバさんとは何度も会うことになるのですが、なにかの度に『最初に会ったときの、あの帰りの電車の中での話は盛り上がったよね』という話になる。

 お互いにこの初対面のときの対話で、意気投合するところがあったんですよね。

 じゃあ、何を話して意気投合したのかというと、クライミングの話でも、今回の取材のことでも、趣味のことでもないんです。

 実は、仕事についてで。僕は映像制作の会社を経営していて、コバさんもNPO法人の代表を務め、クライミングジムを経営していた。つまりお互い経営者という共通項があった。

 だから、向かい合ったら、自然と会社経営についての話題になっていったんです。

 そして、『いやぁ、会社を経営して維持していくのって大変だよね』みたいな感じで話がすごく弾んだ。

 その対話の中で、コバさんが障害のある人もクライミングを楽しめることを社会に広めるために人生を懸けていることをひしひしと感じました。

 その中で、コバさんがこのような主旨のことを言ったんです。『売り上げ以外にもミッションやモチベーションを持つことが大事だよね』と。

 とっさに僕は『そうですよね』と相槌を打ちましたけど……。

 実際は自分がそんなことを考えていないことにはたと気づいた。

 コバさんは経営者ではあるのだけれど、ひとつ理想とする目標があって、それを実現できるように動いていた。

 一方で、僕はというと、人が作った会社を継いだ形で『売り上げ』以上の目標を当時は持っていなかった。

 このとき、素直に僕は感銘を受けて、コバさんに尊敬の念を抱いたといいますか。

 この人は自分の先を行く、よき先輩だと感じました。

 で、実は、このときから僕とコバさんの関係性は変わっていない気がします」

「ライフ・イズ・クライミング!」より
「ライフ・イズ・クライミング!」より

コバさんとは長い付き合いになるという予感めいたものがありました

 また、このとき、こんなことも感じたという。

「話していて、『障害者』ということを意識していなかったといいますか。

 いまもまだ社会的には、障害者というと『弱者』というイメージにくくられてしまうところがある気がします。

 ただ、コバさんはそういうことを感じさせない人だった。

 いいのか悪いのかわからないですけど、僕は、『障害があるからちょっと気をつかって』みたいなことにならなかった。

 不思議と自然体で向き合える自分がいました。

 で、いま改めて振り返ると、それはいきなり代打で取材にいって初対面で撮影を始めたときからそうだったかもしれない。

 前回お話しした通り、出会ってすぐ、僕はコバさんに駅までの道のりを『わたしは手を貸さずに撮るので、ご自宅から駅までいつも通りに向かってください』と伝えた。

 するとコバさんは怪訝な顔ひとつせず、『わかりました』と言って撮影が始まった。

 このシーンというのは、野澤監督によって番組で使われました。

 案の定、番組放映当時、Twitter に『なんで介助しないんだ、このバカディレクター』と書かれました(苦笑)。

 確かに、視聴者の方がそう感じるのはもっともだと思います。

 ただ、振り返ると、手を貸さずに駅に向かっていただいた時点で、僕はコバさんを障害者とも、弱者ともすでにみていなかったというか。

 そのあと、1日撮影していきましたが、『目の見えないクライマー』ではなく、シンプルにコバさんという人間に魅せられていた。

 だから、後付けかもしれないですけど、帰路のおしゃべりの時点で、コバさんとは長い付き合いになるんじゃないかという予感めいたものがありました」

(※第三回に続く)

【中原想吉監督第一回インタビュー第一回はこちら】

「ライフ・イズ・クライミング!」メインビジュアル
「ライフ・イズ・クライミング!」メインビジュアル

「ライフ・イズ・クライミング!」

監督:中原想吉

出演:小林幸一郎、鈴木直也、西山清文、エリック・ヴァイエンマイヤー

音楽:Chihei Hatakeyama

主題歌:MONKEY MAJIK「Amazing」

公式サイト:https://synca.jp/lifeisclimbing

全国順次公開中

写真はすべて(C) Life Is Climbing 製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事