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視力を失ったクライマーとよき相棒の挑戦に密着。出会ったきっかけは急遽の代打?

水上賢治映画ライター
「ライフ・イズ・クライミング!」より

 視力を失ったクライマーのコバ(小林幸一郎)と、彼の視力となるサイトガイドのナオヤ(鈴木直也)。

 とにもかくにも、まずはこの「二人」のクライミングをみてほしい。

 そう願わずにいられなくなるのがドキュメンタリー映画「ライフ・イズ・クライミング!」だ。

 相棒の声を頼りに岩を登るコバと、彼の目となって的確に目的地へと導くナオヤ。

 パラクライミングの世界選手権で4連覇の偉業を成し遂げた二人が、新たなチャレンジとしてアメリカへ。

 二人はユタ州の大地にそびえたつフィッシャー・タワーズの尖塔に立つことを目指す。

 果たして、二人の新たなチャレンジはどんな結末を迎えるのか?

 その旅に同行し、これまでの二人の歩みを見つめた中原想吉監督に訊く。全七回

中原想吉監督
中原想吉監督

コバさんに出会うことになったのは、実は代打でのこと

 はじめに、本作は、中原監督とクライマーのコバこと小林幸一郎氏の出会いがはじまり。

 ただ、この出会いが実はかなり偶発的なものだったという。

「コバさんとの出会いは、いまからかれこれ6年以上前。2017年のことになります。

 当時、僕が代表を務めるインタナシヨナル映画で、フジテレビの『ザ・ノンフィクション』でコバさんの番組を制作中でした。

 ただ、ディレクターを務め、コバさんを実際に取材していたのは、僕の師匠である野澤和之監督で。

 僕自身は一応プロデューサーとして参加していましたけど、ほぼ予算管理担当で、その時点でコバさんに会ったことはなかった。

 たぶん番組が順調に進んでいたら、お会いすることはなかったと思います。

 というのも僕がコバさんに出会うことになったのは、実は代打でのことなんです。

 どういうことかというと、撮影は順調に進んでいて、野澤監督は2016年9月にパリで行われたパラクライミングの世界大会<IFSC 世界クライミング選手権>も取材して、コバさんが見事に3連覇を達成するところも密着取材ができた。

 この時点で『あと少し撮影すれば編集に入れる』と野澤監督は言っていて、番組の道筋がほぼみえてきていた。

 ところがその矢先に、野澤監督がガンであると判明して、大手術を受けることになって……。

 それで番組の制作はいったん中断となったんです。

 それから半年ぐらい経って、2017年4月に制作は再開されたんですけど、大手術のあとですから、野澤監督はまだ本調子ではなく、無理もできない。

 そんなある日の朝、野澤監督から電話がかかってきた。

 なんだろうと思って出てみると、『今日、コバさんの取材があるんだけど、どうにも動くことができない。もうしわけないけど、代わりに行ってくれないか』と。

 突然すぎて通常なら『無理』となるかもしれないんですけど、前日、別の取材に行っていたのでたまたま自宅にカメラがあった。

 僕のスケジュールも問題なかったので、『わかりました』と野澤監督には伝えて、時間もせまっていたので何を撮ればいいのかもわからないまま、コバさんの住む西荻窪へ向かったんです。

 これがコバさんとの最初の出会いでした」

「ライフ・イズ・クライミング!」より
「ライフ・イズ・クライミング!」より

極度の緊張でちょっと気持ち悪くなってました(苦笑)

 こうして、急遽の代打でこの日の撮影を担当することになった。

 そのときのことをこう振り返る。

「ほんとうに急なピンチヒッターでのことで、ご本人とお会いするのもこのときが初めて。

 どれぐらいの障害があるのかもよくわかっていませんでした。

 前情報もほとんどなく、ぶっつけ本番といった感じで、何を撮ればいいかもわからない。

 なので、コバさんの家に着くまではずっとドキドキしていて、極度の緊張でちょっと気持ち悪くなってました(苦笑)」

気づけば人生初のクライミングにトライしていました

 おっかなびっくりのような状態で撮影は始まったという。

「初対面でいきなりのことですから、僕もどうすればいいかわからなかったですけど、たぶんコバさんも戸惑ったと思います。

 で、挨拶もそこそこに、この日のスケジュールを訊くと、イベントがあるのでつくば市の方に電車で向かうと言う。

 この時点で、僕の中では難題に向き合ったというか。

 そのとき、野澤監督が『まだ日常生活の素材が足りない』と言っていたような気がしていたことを思い出して、ならばいつも通りにいってもらって、それを僕が撮影すればいい。

 でも、一方で思うわけです。『視覚障害者のコバさんが駅まで歩いていくとき、すぐそばにいる自分はなんの介助もしなくていいのか?』と。

 ただ、そこで手を貸してしまったら、コバさんの日常を撮ったことにはならない。

 それから、手を貸さずに撮ると言うのも、あくまでこちらの都合でのことであって……。

 気分を害されても仕方がない。

 こんなことが頭を駆け巡って、さて、どうしようかと考えました。

 そして、最終的には勇気を振り絞ってコバさんに伝えました。『わたしは手を貸さずに撮ります。ご自宅から駅までいつも通りに向かってください』と。

 するとコバさんは怪訝そうな顔もせず、『わかりました』と言った感じで。

 駅に向かいはじめて、『この道、車の通りが多くて怖いんですよ』とか、『この自販機の音が聞こえると今日も道を間違えてないなと思うんですよ』とか、ものすごく丁寧にいろいろと説明してくれる。

 それまでほんとうに緊張していましたけど、この時点で、もうすっかりほぐれていましたね。

 で、その後、筑波にあるジムに行ったんですけど、いきなりクライミングにチャレンジさせられた。

 『わたしのことを取材するのであれば、少しでもクライミングのよさを知っていただきたい』ということで、半強制的に筑波のジムの会員証も作らされて、気づけば人生初のクライミングにトライしていました」

(※第二回に続く)

「ライフ・イズ・クライミング!」ポスタービジュアル
「ライフ・イズ・クライミング!」ポスタービジュアル

「ライフ・イズ・クライミング!」

監督:中原想吉

出演:小林幸一郎、鈴木直也、西山清文、エリック・ヴァイエンマイヤー

音楽:Chihei Hatakeyama

主題歌:MONKEY MAJIK「Amazing」

公式サイト:https://synca.jp/lifeisclimbing

全国順次公開中

写真はすべて(C) Life Is Climbing 製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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