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『まんぷく』ヒロインのモデル「安藤仁子」は、どんな女性だったのか!?

碓井広義メディア文化評論家
カップヌードルミュージアムの安藤百福像(筆者撮影)

ご存知のように、NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)には王道ともいうべき三大要素があります。女性の一代記、職業ドラマ、そして成長物語であることです。さらに近年は、実在の人物をモデルにする成功パターンが加わりました。

10月にスタートした朝ドラ『まんぷく』。安藤サクラさんが演じているヒロイン、福子のモデルは「日清食品」創業者・安藤百福(ももふく)の妻、仁子(まさこ)です。

そして、ドラマで長谷川博己さんが好演している立花萬平が、百福をモデルにした人物というわけですね。

ただし、仁子自身は翻訳家(『花子とアン』)でも、実業家(『あさが来た』)でもありません。普通の主婦だったはずですが、ドラマのモデルになるからには、知られざる何かがあるのではないでしょうか。

そんな好奇心から、安藤百福発明記念館:編『チキンラーメンの女房~実録 安藤仁子』(中央公論新社)という本を手にとりました。編者を見てわかるように、いわば仁子の「正史」です。

仁子は1917年(大正6年)、大阪の商家に三女として生まれました。やがて父の経営していた会社が倒産し、貧乏生活が始まりますが、家の中には常に三姉妹の笑い声が響いていたそうです。

家計を助けるために、14歳で電話交換手の見習い職員となります。働きながら女学校に通い、卒業したのは18歳のときでした。京都の都ホテルに就職したことが、後の百福との出会いにつながっていきます。

結婚した百福は、根っからの企業家でした。しかも事業は順調なときばかりではありません。戦後は、えん罪の脱税容疑で裁判にかけられ、財産も差し押さえられました。

また信用組合の理事長になってほしいと頼まれ、結局は倒産の責任を負います。これで再び財産を失うのですが、百福を信頼する仁子の姿勢は決して揺ぎません。

さらに、「インスタントラーメン」の開発も一人の天才によるものではなく、仁子をはじめ家族総出の取り組みでした。何があっても「クジラのように物事をすべて呑み込んでしまいなさい」という母(「私は武士の娘です」の口癖は実話)の教えを守りながら、常に夫を支え続けたのです。

本書を読むうち、仁子を「スーパー主婦」とでも呼びたくなってきました。

モデルがいるとはいえ、あくまでもドラマはフィクションです。萬平が百福そのままではないように(たとえば百福は台湾の人でしたが、ドラマでは大幅に変えられています)、もちろん福子も仁子そのものではありません。

『まんぷく』では、練達の脚本家・福田靖さんが、事実をふくらませた新たなエピソードを随所に盛り込んでいます。本書で描かれた仁子と、ドラマの福子を比べながら視聴するのも一興かもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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