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派遣法案の施行日延期?~「労働契約申込みみなし制度」まで道連れに延期か

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

こんなニュースが飛び込んできました。

労働者派遣法 施行日延期へ改正案修正も

今の国会の重要法案の1つである労働者派遣法の改正案について、与党内では、安全保障関連法案を巡る与野党の対立の影響などで、目標としていた来月上旬までの成立は困難になったという見方が出ていて、9月1日としている施行日を先に延ばすため、改正案を修正することも検討しています。

出典:NHK NewsWeb

みなさん、知ってましたか?

今、審議中の派遣法案の施行日。

それが9月1日であるということを。

実は、この9月1日という施行日は、与党が8月上旬までの成立を目標にしていたとすると、極めて短い期間ということが分かります。

まずは、これまでの主な派遣法の改正における公布と施行日までの期間をおさらいしましょう。

  • 昭和60年 立法 約1年  1985年7月5日~1986年7月1日
  • 平成11年 改正 約5ヶ月 1999年7月7日~1999年12月1日
  • 平成15年 改正 約8ヶ月 2003年6月13日~2004年3月1日
  • 平成24年 改正 約6ヶ月 2012年4月6日 2012年10月1日

大体、6ヶ月程度の期間を取るのが通常です。

他の労働法の改正を見ても、

  • 平成20年 労働基準法 約15ヶ月 2008年12月12日~2010年4月1日
  • 平成15年 労働基準法 約6ヶ月 2003年7月4日~2004年1月1日
  • 平成24年 労働契約法 約8ヶ月 2012年8月10日~2013年4月1日

となっており、まぁ、大体、このくらいの期間を空けるのが普通なのです。

ところが、今回の派遣法案は8月上旬に成立したとすると1ヶ月しかありません。

棒グラフにするとこんな感じです。

画像

今回の派遣法案の棒がむっちゃ短くて、施行日までの期間を異常に短く設定しようとしていたことが分かります。

なんで施行日を9月1日にしているのか?

しかし、そもそもなんで9月1日に施行日を設定していたのでしょうか?

衆議院を通過したのが6月19日です。

そこから参議院に送られて、趣旨説明などを行い、審議に最低3週間はかかることを前提にすれば、超スピードでも7月17日くらいまで可決に時間を要することが予想されるわけです。

これでも施行までに1ヶ月半しかありません。

しかも、衆議院の通過にかなりの時間とエネルギーが使われたことや、安保関連法案がらみで政情不安定ということを考えれば、そもそもすんなり派遣法案が参議院で可決されると想定するのは甘いといえるのです。

にもかかわらず、衆議院の通過時に施行日の修正をせず、わざわざ窮屈な9月1日の施行日に拘ったのです。

もちろん、これには理由があります。

既に、「与党が派遣法案の成立を急ぐ理由はこれだ!~違法派遣の合法化~」の記事で指摘しましたが、これはいわゆる「10.1問題」を回避するためなのです。

「10.1問題」とは、派遣法案の成立を推進する側から、今年の10月1日からスタートする違法派遣の「労働契約申込みみなし制度」を揶揄する言葉です。主に派遣業界と厚労省のお役人が使います。

この「労働契約申込みみなし制度」の中に「派遣可能期間を超えての労働者派遣の受け入れ」というものがあります。

これは、現在の業務単位でカウントする派遣期間(最長3年)を超えて派遣労働者を受け入れていた派遣先企業に、期間制限に違反して働かせていた派遣労働者を直接雇用することを義務づけるという内容です。

ところが、今回の派遣法案では、そもそも派遣可能期間の概念が業務単位ではなくなるため、この法案が通れば、期間制限違反の派遣労働者を派遣先企業が直接雇用するという制度を無効化できるのです。

そのために、10月1日より前である9月1日の施行に拘っていたわけです。

経団連からも、「9月1日までに早く成立させろよ」(意訳)という声明まで発されており、その意気込みが伝わってきます。

こうして、派遣業界や派遣労働者を利用する経営者からの要請に応えるため、政府・与党は、施行まで異様な短さとなっても、ギリギリまでその施行日を9月1日に維持したかったのです。

しかし、冒頭のニュースにありましたとおり、派遣法案に対する国民や派遣労働者の反発、野党の粘り、漏れた年金問題、安保関連法案の強行採決など、諸々の事情により、成立の見込みが大幅にずれ込み、9月1日施行の目論みも、ついには途絶えることになるのです。

めでたし、めでたし・・・fin・・・

と、思いきや!

なんと、10月1日に施行される平成24年改正法の「労働契約申込みみなし制度」、これの施行日も一緒に先送りにされてしまうのです!

いくらなんでも、それはヒドいですね。

実は、この「労働契約申込みみなし制度」は、平成24年改正ですが、他の改正部分よりも強烈な規制であったため、企業に心の準備をする時間を3年半も与えていたのです。

つまり、公布から施行まで42ヶ月も時間があったのです。

にもかかわらず、これを無効化する法案がなかなか通らないからといって、「労働契約申込みみなし制度」の施行まで一緒に先送りされるのは、許しがたいものがあります。

一方では異常に短い期間で法律を施行しようとし、一方で3年以上も施行まで間を空けた法律の施行日が先延ばしされるという。

前者は経営者にとってお得な改正で、後者は経営者にとって不都合な改正です。

こんな好き勝手に施行日を弄ぶことは許されるものではないでしょう。

もし、本当に、それをやろうとするのであれば、今回の改正の目的は一体なんなのか、この施行日の点だけでも徹底的に審議をしてもらいたいものです。

なお、衆議院から送られた法案を参議院で修正すると、もう一度、衆議院に送り可決する必要があります。

その際、「労働契約申込みみなし制度」の施行日がずれることについても、衆議院で徹底的に追及してほしいと思います。

こうなってくると、まだまだ派遣法案、成立するとは限りません。

衆院を通過したから成立すると決めつけるのは早計です。

是非、今後も派遣法案について注意を払っていただきたく思います。m(_ _)m

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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