日テレ・ベレーザのスタイルを支える育成チームの存在。メニーナ・寺谷真弓監督の指導哲学に迫る(4)
夕陽が傾き、ヴェルディグラウンドの芝生の色が少しずつ、トーンを落とし始めた。
時刻は夕方の5時半を回ったところだ。
よみうりランドを背景にしたグラウンドの一角で、日テレ・メニーナ(以下:メニーナ)の練習が始まった。
メニーナの寺谷真弓監督は、紅白戦の最中に何度か、ゲキを飛ばした。
「前を見てから打て、最初からパスじゃないぞ!」
「もっとボールを呼び込め、黙ってやるな!!」
ピッチに響き渡る高い声と強い口調に、こちらまで背筋が伸びる。その一言一句が選手たちにどれだけ響いているかは、試合の流れを見れば分かる。
メニーナは、なでしこリーグ3連覇を目指す日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)の下部組織で、トップチームのベレーザや年代別代表に多くの選手を輩出してきた伝統ある育成年代の女子チームだ。
ここで、チームの育成部門に関わり続けて18年目になる寺谷監督は、指導においてどのような哲学を基に、選手を育ててきたのか。
寺谷監督に、メニーナの指導における今後の展望について聞いた。
日テレ・ベレーザのスタイルを支える育成チームの存在。メニーナ・寺谷真弓監督の指導哲学に迫る(1)(2)(3)
どれだけスーパーな選手でも、スタイルにフィットしないと難しい
今シーズン、ベレーザはトップチーム登録メンバー21名のうち、メニーナ出身者が実に15名に上る。先発メンバーに至っては、毎試合、11人中8人以上をメニーナ出身の選手が占めている。
メニーナ時代からキャリアを共にしてきた選手が多く、試合の中での連動性はチームの大きな強みだ。
また、2015年、16年と2連覇を達成できたのは、メニーナ出身ではないMF阪口夢穂、DF有吉佐織、MF上辻佑実、GK山下杏也加の4人の活躍も大きかった。
長短のパスを自在に操り、ゲームをコントロールする阪口の展開力と空中戦の強さ。機を見るに敏な有吉の攻撃参加と攻守のバランスの良さ。広い視野を持ち合わせ、試合の大事な局面を変えることができる上辻の正確なロングキック。そして、高い身体能力を活かした山下のセービングと、正確なフィード。
4人が持つ特徴は、小柄な選手が多く、優れたテクニックと判断力で勝負する選手が多いメニーナ出身の選手たちの良さと融合して、見事な調和を成している。
寺谷監督は、2013年から14年にかけてベレーザを指揮した際、阪口と有吉とは直接、関わっている。その上で、2人の特徴がベレーザにフィットすると感じていた。
「メニーナでは、籾木(結花)や長谷川(唯)のようなスタイルの選手が象徴的で、育ちやすいですね。ただ、(阪口)夢穂もアリ(有吉)も、ベレーザにフィットする部分がありました。個人として、どれだけスーパーな能力を持った選手でも、チームのスタイルにフィットする部分がないと難しいかな、と。夢穂とアリは、アンダー(年代別代表チーム)の頃から知っていたのですが、ベレーザのスタイルに合うタイプだな、と思っていました」(寺谷監督)
セレクションについて
メニーナに入団するためには、セレクションを受けなければならない。多くの代表選手を送り出してきた名門クラブでプレーすることを夢見て、毎年、全国から多くの選手が集まり、入団セレクションを受ける。そして、ゲーム形式や面接など、いくつかの選考を経て最終的に入団資格を得た一握りの選手が、緑のユニフォームに袖を通すことを許される。過去には例外的に、一次選考で一発合格の判を押された逸材もいたという。
寺谷監督曰く、最終的に残る選手たちは、野球でいう「ピッチャーで4番」、つまり、チームで飛び抜けてうまい花形プレーヤーが多い。
実は、筆者も小学生時代に緑のユニフォームに憧れて、このセレクションを受けた一人である。テスト項目の一つであるミニゲームの際、ポジションは挙手で早い者勝ちだったが、ほとんどの選手が中盤でプレーしたいがために、試合前から激しいアピールが繰り広げられた。筆者はそこでアピールできずに引いてしまい、望むポジションを勝ち獲ることができなかった苦い思い出がある。こういう場面でしっかりと自己主張できなければ、激しい競争を生き抜くことはできないのだと思った。
2012年3月からは、中学生を対象にした新たな下部組織、日テレ・セリアスが創設された。セリアスでは、メニーナでは試合に出られないレベルでも、良い資質を感じさせる選手を、実戦経験を積ませながら育てる狙いがある。現在、ベレーザで活躍するFW植木理子(U-19日本女子代表)はセリアスの1期生だ。植木は高校生でメニーナに昇格し、その後、トップチームデビューを果たしている。セリアスができたことで、より多くの選手にチャンスが広がった。
高校年代のクラブが少ない
現在は、なでしこリーグの各チームが下部組織を持ち、10代の選手育成に力を入れている。サッカー少女たちがプレーできる場が増え、確実に環境は良くなっているが、一方で、手付かずの問題もあるという。
「全国的に中学生の受け皿(チーム)が少ない、ということは言われてきましたが、高校のクラブの数が少ないことに気づいている人が少ないですね。高校サッカー自体は女子もテレビ中継などで大きなコンテンツになってきましたし、注目度が上がっています。そういうレベルの高い高校に行けばいい、と思われるかもしれません。ただ、トップレベルの選手はその選択肢もあるけれど、そこまでの能力はないけれどサッカーを続けたい子たちが行く高校やクラブが少ない状況は変わっていません」(寺谷監督)
寺谷監督は、同年代の男子サッカーを参考に、新たなリーグを立ち上げることが高校年代のチームを増やすきっかけになるのではないか、と話す。
「高校はインターハイと高校選手権を今まで通りにやりながら、それとは別に、男子のプレミアリーグ(高校サッカー部とクラブユースチームが参加可能なリーグで、双方にとってメリットがある)を参考にして、女子のリーグを作り、地域リーグへと広げていけばいいのではないでしょうか」(寺谷監督)
最後に、寺谷監督が考える「チームを強くするための指導」について聞いた。
「中学生、高校生の時は、基本的な技術と判断力を身につけさせてあげることが大切だと思います。そのためには、目の前の相手に勝つ方法を教えるのではなく、様々な状況で『(サッカーは)こうしたら、こうなるんだよ』というプロセスを教えて、試合では、自分たちの引き出しを自分たちで活かして勝つことを考えさせる。そうして、選手としての能力を高めてあげることが大切だと思います」
★★★ ★★★
U-17日本女子代表に選ばれた経験があるメニーナのGK田中桃子は、自分が恵まれた環境でプレーできていると、まっすぐな目で語った。
「テラさん(寺谷監督)も元々キーパーだったので、自分の何が悪くて怒られているのかが分かりやすいですし、尊敬しています。厳しい言葉で言われると、悔しいけれどやらなきゃ、と。なでしこジャパンのヤマさん(GK山下杏也加)や、ベレーザの選手たちと一緒に練習する中で、いろいろなことを吸収できて、すごく身になっています」(田中)
「嫌われても、10年後に良かったと思ってもらえれば」
という寺谷監督の言葉が蘇った。
その言葉をベレーザのFW田中美南に伝えると、「本当に、その通りですね(笑)」と、茶目っ気たっぷりの笑いを見せた。
日本女子サッカー界に多くの人材を輩出してきた名門で、育成型クラブの草分けでもあるベレーザ。その下部組織であるメニーナから、今後、どのようなタレントが世界に羽ばたいていくのか、楽しみにしたい。 (完)