1位指名確実の栗林良吏(トヨタ自動車)に続くのは……2020年ドラフトの社会人を展望する
今年のプロ野球ドラフト会議が、いよいよ2週間後に迫った。高校生投手では高橋宏斗(中京大中京高)、中森俊介(明石商高)の大型右腕、野手なら左右の長距離砲・来田涼斗(明石商高)と西川僚祐(東海大相模高)。大学生では、即戦力左腕の呼び声が高い早川隆久(早大)、内外野をこなすスラッガー・佐藤輝明(近大)、スピードスターの五十幡亮汰(中大)らが上位候補と評されているが、各地で行なわれた都市対抗予選で絞り込まれた社会人候補はどんな顔ぶれか。
オリックス編成部の牧田勝吾副部長は、2つのポイントを挙げる。
「最近の社会人、特に大学から進んだ選手は、すでに大半を大学時代からチェックしています。ですから、現在のパフォーマンスに加えて、この2~3年での伸び率というか、自分の特長をより磨いているかどうかがカギになる。実際、都市対抗予選で目立つパフォーマンスを見せていても、『あれくらいは大学の時もできていたよね』という選手は、見送る傾向が強いのではないでしょうか。また、今年は都市対抗予選が例年の6月から9月にズレ込んだ。特に投手は、新型コロナウイルスによる活動自粛もあり、調整するのが難しかったと思います。だからこそ、都市対抗予選に合わせられたかどうか。予選の勝敗という結果とともに、投球内容に評価が集中すると見ています」
そんな見方を踏まえた上で断トツの評価を得ているのが、トヨタ自動車の栗林良吏だ。名城大の卒業時も有力候補だったが、3位以下ならトヨタ自動車へという意向だったため、プロ球団側が2位までの指名に踏ん切れなかった結果、まさかの指名漏れとなった。だが、強豪チームの厳しい競争の中でもしっかりと力を伸ばし、昨夏の都市対抗決勝では先発を任されるまでに成長。プロを相手にしたアジア・ウインター・ベースボールでも、社会人選抜の初優勝に貢献するなど文句なしの実績を積んでいる。そして、9月の都市対抗東海二次予選では一回戦で7回を2安打無失点に抑えると、第一代表決定戦ではHonda鈴鹿を相手に1失点完投勝利を挙げ、視察したプロ球団の編成部長クラスを唸らせた。1位で消えるのは間違いないだろう。
コロナで実績を残せなかった分、例年の上位候補を下位でも指名できる
栗林と同じように確かな実績を積み、都市対抗予選でも好投を披露したのが、NTT西日本で第一代表獲得の原動力になった大江克哉、ENEOSの5年ぶり代表権獲得に貢献した左腕・藤井 聖。ともに投げっぷりがよく、140キロ台中盤をコンスタントに叩き出すストレートは球速、キレともにまだ伸びる可能性を秘めているという。高卒3年目の解禁組では、セガサミーの森井絃斗が成長途上ながらも圧倒的なポテンシャルの高さを評価されている。都市対抗東京二次予選も先発で15回連続無失点をマークするなど、エースとしての働きも示している。
都市対抗出場こそ逃したものの、伸び率で注目されているのは、三菱パワーの伊藤優輔、日本製鉄東海REXの松向 輝だという。あるスカウトは、二人の魅力をこう語る。
「伊藤も松向も、活躍次第では1、2位もあり得た潜在能力です。それが、コロナで変則的になったシーズンでアピールする場を失い、3位以下でも獲得できる可能性が出てきた。言葉は悪いですけど、こちらにとってみれば幸運な状況。今年は、評価が上がり切らなかった社会人選手を中位から下位でも獲得できるという点を、活用していく球団もあると思います」
一方の社会人側にも、今年ならではの事情がある。ある強豪チームの監督が、こんな本音をチラリと見せる。
「来年に採用したい選手に声をかけ終えたところで、コロナの自粛になった。高校、大学側も進路を決めておきたいと考えたのでしょう。全員から入社したいという返事をもらいました。そうなると、採用する分は卒業させなければなりませんが、これだけ公式戦が中止になりましたから、選手を評価するのも忍びない。ひとりでもプロに送り出せば、卒業させる選手も減らせるんですが……」
こうした経緯もあって、意外に多くの社会人選手が指名されると予測するスカウトもいる。さて、10月26日のドラフト会議は、どんな展開になるだろうか。