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アルガルベカップに臨む、なでしこジャパン。初戦に向けて高まる競争力(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
初戦に向けて調整を続けるなでしこジャパン(C)松原渓

世界有数の美しいビーチが点在するリゾート地、ポルトガル南部のアルガルベ。

この地で3月1日から行われるアルガルベカップに向けて、なでしこジャパンの選手たちは24日に現地入りし、調整を続けている。

2019年のフランスワールドカップ、2020年の東京オリンピックに向け、いよいよ本格的な活動を開始したなでしこジャパン。高倉麻子監督の下、2016年6月に新たなスタートを切ったなでしこジャパンは、国内リーグの合間を縫って、これまでに2度の海外遠征と3度の国内合宿を行ってきた。そして、このアルガルベカップは、新生チームで臨む初の国際大会である。

高倉監督はこの9カ月の間に、なでしこリーグ1部と2部、そして、海外組から選手を幅広く招集。選手の能力を見極めながら、高倉監督自身のサッカー観をチームに浸透させる作業を進めてきた。今大会は、昨年末にパプアニューギニアで行われたU-20女子ワールドカップで3位になった20歳以下の選手たちも3名、新たにメンバー入りした(※4名選ばれたが、GK平尾知佳は体調不良のため不参加)。

「今年は、新しくなでしこジャパンを作る中での骨組みとなる、チームの方向性や、中心になっていく選手を見極めていきます」(高倉監督)

今年12月に日本で行われる、EAFF(東アジアサッカー連盟) E-1フットボールチャンピオンシップ2017決勝大会(旧 EAFF女子東アジアカップ/※1)、来年4月にヨルダンで開催予定のアジアカップ(兼2019フランスワールドカップ・アジア予選※2)に向け、チームは本格的な土台作りに差し掛かろうとしている。

【日本の現状を知る絶好の機会】

今回のアルガルベカップは、グループAに、デンマーク、カナダ、ポルトガル、ロシア、グループBに、日本、スペイン、ノルウェー、アイスランド、グループCに、オーストラリア、スウェーデン、オランダ、中国の合計12チームで開催される。

今大会は、チームの主軸となる選手の力を見極めることと同時に、世界における日本の現状を知る絶好の機会でもある。

アルガルベカップが初めて開催されたのは1992年。女子サッカーが初めて正式種目に採用された96年のアトランタオリンピックよりも古い歴史を持つ、由緒ある大会だ。

日本はこの大会に2011年から参加しており、最高成績は2012年と2014年の2位。2015年は9位と下位に沈み、昨年はリオデジャネイロ五輪アジア最終予選と日程が重なったため、不参加だった。

今年は、FIFAランク上位のアメリカ、ドイツ、フランス、イングランドは参加していないが、アジア強豪国のオーストラリアと中国をはじめ、新進気鋭のヨーロッパ勢が出場する。ヨーロッパでは近年、各国のサッカー協会が競い合うように女子サッカーに力を入れており、出場国の平均的なレベルは上昇傾向にある。

日本がグループリーグで対戦するのは、スペイン、アイスランド、ノルウェーの3カ国。スペインは初出場だが、育成年代から力をつけてきている急成長中の国である。また、アイスランドは前回大会で3位、ノルウェーは過去3回の優勝経験を持つ強豪だ。

4試合目は順位決定戦という形で争われるため、優勝決定戦には、グループリーグで成績上位の2チームが進出する。

8日間で4試合の日程を消化し、優勝するのは12カ国中どのチームか。各チームの戦いぶりが楽しみである。

【高まる競争力】

なでしこジャパンが現地入りしたのは、初戦の5日前。大会が始まれば過密日程だが、時差(日本−9時間)調整も含め、準備期間には余裕をもたせた。

ヨーロッパ各国のシーズンは、日本(春秋制)と違い、秋から春にかけてリーグ戦が行われる国が多い。そのため、現在はシーズン中の国も多く、シーズン前の日本にとって、コンディション面でハンデがあることは否めない。だが、なでしこリーグも開幕を1ヶ月後に控え、選手はそれぞれの所属チームで調整を続けており、高倉監督も選手たちのコンディションの良さには一定の手応えを感じているという。

「こちらの要求に対して(選手の)反応が良いので、質の高い練習ができています。気持ちの面でもやる気を見せてくれる選手が多いので、こちらも要求を高くしています」(高倉監督)

多くの選手に経験を積ませて様々なコンビネーションを試し、チームの底上げを図ることも今大会の大きなテーマである。目指すは優勝であり、結果との両立は高いハードルに違いない。だが、「敗戦から学ぶ」のではなく、勝ち続ける中で勝ち方や勝者のメンタリティーを身につけ、チームを成長させていきたいと高倉監督は考えている。

「A(主力)チームとB(サブ)チームの差があるチームにはならないでほしいと思って、(選手たちの積極性を)促しています。チャンスはみんなにあるし、全員の力が上がってくればメンバーを固定する必要はないので、全員で、良い結果を残したいですね」

チーム作りのプロセスにおいて、高倉監督は主力とサブ、という風に分けることはしない。紅白戦でも様々な組み合わせを試し、試合に出る11人を決めるのはいつも、試合ギリギリになってからだ。

それは、連戦の中で常にコンディションの良い選手を起用するためであり、登録選手のうち誰が試合に出ても質が落ちないサッカーをするためでもある。そうしながら、試合に出る選手と控え選手の共通意識を高めることにも力を注いでいる。育成年代で率いた代表チームは、控え選手も含めた総合力の高さで、世界大会で結果を残してきた。限られたポジションを巡る競争意識の高まりが、チームの一体感を高めている。

【パススピードとコミュニケーション】

また、今大会でキーワードになりそうなのが、「パススピード」と「コミュニケーション」だ。

前者は、これまでも徹底されてきたことではあるが、今回の合宿では特に強調されている。

「パスで相手を抜く!」

「(対面する相手を)壁と思ってぶつけるぐらい強く!」

緩(ゆる)いパスには、大部由美ヘッドコーチが活を入れる。

パススピードを速くするためには、同時に足元の技術の正確さと、予測のスピードも求められる。結果的に切り替えのスピードが上がり、ゲームのテンポが上がった。

また、練習中は味方へのコーチングだけでなく、良いプレーは積極的に褒め合うことも奨励されている。

「今回の大会中は自分たちで(味方を)ジャッジすること」(大部コーチ)

味方に指示を出したり、要求することを得意としない選手でも、褒める声なら出しやすい。

そうやって全員が声を出して味方を刺激し合うことで、チームの雰囲気が明るくなり、若手もベテランも関係なく、言葉を発しやすい雰囲気が生まれている。褒め方も人それぞれで、面白い。

6名のFWの中で、最も経験のある菅澤優衣香は、チームにおける自身の役割をこのように話す。

「このチームで、フォワードは得点と、前線からの守備も求められています。(今回のメンバーの中で、自分は)なでしこジャパンの試合を多く経験している方なので、オフザピッチでは歳下の選手たちとうまくコミュニケーションをとっていく大切な役割があると感じています」(菅澤)

かたやオンザピッチでは、年齢は関係ない。中堅がチームを引っ張り、若手がベテランを鼓舞する。このように、全員で力を合わせて一緒に戦う強い意識を持てれば、理想的な試合展開に持ち込めるのではないだろうか。筆者は、トレーニングを取材しながら、この点が強く印象に残った。

アルガルベカップでのなでしこジャパンに期待したい。

日本の初戦の相手は、スペイン。3月1日(水曜日)、23時45分(日本時間)にキックオフを迎える。

アルガルベカップでの日本の全4試合は、フジテレビ系列にて全国生中継(一部地域を除く)。

※1 EAFF E-1フットボールチャンピオンシップ2017決勝大会

参加国は、日本、北朝鮮、中国、韓国。

※2  ※アジアカップ2017

AFC公式サイト

(2)【監督・選手コメント】に続く

公式ジャージが赤になった
公式ジャージが赤になった
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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