ネットの販促プロモーションを活用していい企業、してはいけない企業
インターネットを活用した販促プロモーションはある時期において、活況を極めました。しかし昨今は停滞気味。ホームページのSEO対策、ネット広告、SNSを使った販促支援などを手掛ける会社が軒並み業績不振となり、私のところへ相談に来るケースが急増しています。
理由はなぜか?
当たり前ですが、企業が気付きはじめたからです。「ネットで販促しても、効果が出ない」ということが。猫も杓子も「バカのひとつ覚え」のように、「WEB戦略で顧客を増やせ」「キーワード検索で引っかかるようなホームページを作れ」「SNSで顧客を囲いこめ」「LPO(ランディングページ最適化)で資料請求を増やせ」といったキャッチコピーに振り回される企業が減ったきた、ということです。
良くも悪くも、ネットの販促プロモーションは「テレビCM」や「新聞、雑誌」といったリアルな広告と比して、効果測定ができます。つまり、その販促プロモーションで正しい効果があったのかがわかってしまうのです。このため、ネット販促を手掛けるWEB製作会社や広告代理店の手腕が問われる時代となった、と言えるでしょう。
「効果」ではなく「やること」にしか関心のない企業は、効果測定を気にしません。ホームページを刷新し、SEO対策を施し、ネット広告を繰り返しているだけで満足します。「やること」を目的にしている企業は、ほどよく結果が出ていれば、それでいいからです。
「ホームページを修正したおかげで、最近、資料請求が増えてきたよ」
「ネット広告のおかげで、イベントの集客に役立った」
……このような、ほんわりとした結果で「やはり最近はネットを味方につけないとダメだな」という結論を導き出す、めでたい経営者やマネジャーが存在するわけですから、先述したWEB製作会社や広告代理店の事業は成り立つのです。
しかし「結果」と「効果」は違います。
そこそこ結果が出たからといって、その施策が正しい効果をもたらしたのかというと、そうとは言い切れません。もしも、ホームページの修正に「500万円」という大金がかかり、年間のSEO対策のための費用に「100万円」が費やされていたとして、資料請求の数が過去「年間23件」だったのが「初年度42件」「次年度43件」「次々年度49件」になったとします。確かに結果は出ていますが、それぐらいの資料請求や問い合わせが増えただけで、このネット販促は「効果」があった、と言えるのでしょうか。施策を考える前に、正しい仮説を立てて検証しないと、結果論で物事を語ることになってしまいます。
具体例を使って見ていきましょう。短期的な視点に立った販促プロモーションで考えると、さらにわかりやすくなるはずです。
たとえば、あなたの企業が、ある大型のイベントに参加したとします。会社の展示ブースにお客様を呼びたいため、あなたは以下5種類の集客プランを考え、実施しました。
■ チラシ
■ 電話フォロー
■ 面談
■ ネット広告
■ 新聞広告
そして来場したお客様に、どのようにこのイベントを知り、足を運ぼうと決めたのかを追跡調査したとします。その結果が以下のとおり。
■ チラシ(10人来場)
■ 電話フォロー(25人来場)
■ 面談(20人来場)
■ ネット広告(6人来場)
■ 新聞広告(4人来場)
それでは、この結果を生み出すために、どれぐらいの「アプローチ」をしているのかも調査してみます。調査結果は以下のとおり。
■ チラシ(1000枚 → 10人来場)
■ 電話フォロー(200人への電話 → 25人来場)
■ 面談(70人への面談 → 20人来場)
■ ネット広告(1600PV → 6人来場)
■ 新聞広告(? → 4人来場)
チラシを1000枚配ったら10人の来場。ネット広告からランディングページへの流入が1600PVで6人の来場。新聞広告は閲覧者の計測が不可能であるため、結果だけを記しています。ここから『投資対効果』を考えていきます。投資したコストをかけた割には、効果が大きかった集客プランはどれで、反対に、効果が小さかったプランはどれなのかを見ていきます。
重要なことは、コストというのは「金銭コスト」だけではない、という点です。(金銭コストだけをコストだと考えている人は、社内でやればすべて”タダ”だと思い込んでいる人です。今の時代、とても余裕のない考え方と言わざるを得ません)
コストは3種類に分けられます。「金銭コスト」「時間コスト」「労力コスト」です。それぞれの特性も覚えておきましょう。
●金銭コスト→ 他者の目につきやすい。失うと取り返すことができない
●時間コスト→ 他者の目につきにくいが、労務問題と直結するため無視できない。金銭コストと同様、失うと取り返すことができない
●労力コスト→ 他者の目につくことはないが、当事者は抵抗する。最初はストレスがかかっても、当事者が習慣化することにより、労力コストは消失していく
それでは、先述の集客プランに「金銭コスト」を付記していきます。
■ チラシ(1000枚 → 10人来場)<30万円>
■ 電話フォロー(200人への電話 → 25人来場)<0円>
■ 面談(70人への面談 → 20人来場)<0円>
■ ネット広告(1600PV → 6人来場)<120万円>
■ 新聞広告(? → 4人来場)<200万円>
さらに、「時間コスト」を付記していきます。
■ チラシ(1000枚 → 10人来場)<30万円>{10,000分}
■ 電話フォロー(200人への電話 → 25人来場)<0円>{600分}
■ 面談(70人への面談 → 20人来場)<0円>{4900分}
■ ネット広告(1600PV → 6人来場)<120万円>{900分}
■ 新聞広告(? → 4人来場)<200万円>{540分}
ネット広告や新聞広告は、お金を支払って広告代理店にやってもらったのですが、打合せの時間などもあり、意外と時間コストがかかっています。
このように数字を並べ立てても、ほとんどよくわからないので、これを【手描きグラフ】でサクッと描いてみます。(ちなみに、これぐらいの大きさの数字を比較するのにパソコンを使ってグラフを描くと、時間コストと労力コストがよけいにかかります。「手描きグラフ」で十分でしょう)
(※参照:手描きグラフの描き方)
3種類の帯グラフを並べることで、「電話フォロー」が最も「金銭コスト」も「時間コスト」もかけずに大きなリターンを得ることができています。いっぽう、「ネット広告」や「新聞広告」は、まさに”見かけ倒し”。一般消費財の認知度向上には役立つかもしれませんが、たとえば今回のような、何らかのイベントの「集客」という目的を果たすためには、相当なコストをかけない限り、結果が出ないことがわかります。
こちらのマトリックス図で表現すると一目瞭然。どの集客プランが「コストパフォーマンス」に長けているかがわかります。
ただ、短期的な視点においてのみ考えるのではなく、3~5年のスパンで考えたら、これらの集客プランはどのように変化するでしょうか。その仮説を以下のグラフで表現してみました。
SEO対策など、正しく最適化を繰り返すことで、ホームページ経由での集客は増えてくると考えられます。ネット販促にかけるコストを下げていっても、集客は増え続け、減ることはないかもしれません。他の集客プランは短期的な視点でのものですから、その都度コスト(時間コスト、労力コスト)をかけることで、再現性のある結果を手に入れることができるでしょう。
ポイントは、やはり「労力コスト」です。
つまり「ストレス」。ネットの販促プロモーションと聞くと、何となくスマートな感じを受けます。そして「労力コスト」を支払わなくても良いように受け止められがちです。なぜなら、200人に電話をかけ、25人から「イエス」という返事が来ても、175人からは「ノー」と言われているからです。面談という集客プランも同じ。承諾される数より、断られる数のほうが圧倒的に多いわけですから、当事者にとってはそれが「ストレス」になります。つまりこれが目に見えない「労力コスト」となるのです。
ところが、ネットの販促プロモーションは、「イエス」しか見えません。今回の場合、1600のページビューがあっても6人しか集客ができていない。しかしながら、6人の「イエス」には触れることはできても、1594人からの「ノー」に触れることはありません。だからネットを活用したプロモーションは「労力コスト」がほとんどかからないのです。それゆえに、電話や面談による集客は泥臭く感じられ、ネットやメディアを使った宣伝広告はスマートな印象を受けるのです。
しかし「スマート」さよりも、「投資対効果」を重んじる企業が増えていることは否めません。というか、効果が十分に出ていない販促プロモーションをやり続けているほうが、よくよく考えると「カッコ悪い」と言えるでしょう。ネット企業や広告代理店に「カモ」にされている、ということですから。
先述したとおり、車や電化製品、食品、日用品……といった「一般消費財」の認知度向上には大きく役立ちますが、400万社近くある日本企業の大半は、「一般消費財メーカー」ではありません。しかしネットの販促プロモーションの成功事例として取り沙汰されるのは、このようなわかりやすい商品を扱っている「一般消費財」を扱っている企業です。このことを忘れてはなりません。
ネットとリアル。どちらがいいのかという二元論ではなく、バランスです。販促に費やすコストの比重をどのように配分するのか。それを数値的に見ながら、仮説検証を繰り返すべきです。そうでないと、ネットの販促プロモーションをすればするほど、この効果を無邪気に期待し、リアルにおける販促活動に力点を置かなくなってきます。これが現在の企業における最大の問題、といっても過言ではないでしょう。