Appleが投資家に警告、「AI時代は利益低下の恐れ」 サービス事業、今後も高利益維持できるか
米アップルは最近、投資家に対し同社の将来製品・サービスが現在のような高い利益率を維持できない恐れがあると警告した。AI(人工知能)時代における、製品やサービスの移り変わりに備え、法的な保護条項を書類に盛り込んだものとみられる。
年次報告書に新たな「リスク要因」追加
同社は最新の年次報告書(FORM 10-K)において、同社事業が直面する「リスク要因」の項目に、成長と利益率に関する警告文を追加した。
FORM 10-K Apple Inc.
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/320193/000032019324000123/aapl-20240928.htm
「競争力を維持し、需要を喚起するために、当社は製品及びサービスの頻繁な市場投入と移行を行う必要がある」という見出しの下には次のようにある。
「今後登場する当社の新しい製品、サービス、テクノロジーは、既存の製品やサービスに取って代わり、収益と利益率を低下させる恐れがある。これは、当社の事業、業績、財務状況に重大な悪影響を及ぼす恐れがある。当社が将来の製品やサービスの導入と移行を成功できる保証はない」
英フィナンシャル・タイムズ(FT)によれば、アップルはこれまで年次報告書において、競合や為替変動、サプライチェーンの問題など、様々な要因が利益率に「変動をもたらし、下押し圧力をかける」可能性があると、繰り返し警告してきた。
Apple warns future products may never be as profitable as iPhone
https://www.ft.com/content/e30eb646-a7ad-496e-8fa4-ff1b4445e853
過去の数年間の年次報告書では、「新製品の導入が『より高いコスト構造』を伴う可能性がある」と示唆していた。しかし将来製品・サービスの財務状況について、これほど直接的に言及したことは今回が初めてだ。
この報告書では、AI機能による安全性のリスクについても言及している。「AIなどの新しくて複雑なテクノロジーの導入は、ユーザーを有害で不正確なコンテンツにさらす恐れがある。当社が提供するハードウエア、ソフトウエア、サービスの全ての問題や欠陥を検出し、修正できる保証はない」といった具合だ。
高利益もたらすiPhoneとサービス事業
同社のスマートフォン事業やサービス事業は利益率が高い。2024年7〜9月期におけるアップル製品・サービス全体の粗利益率は46.2%と、過去最高を更新した。
一方、サービス事業の粗利益率はそれを大きく上回る74%である。サービス部門は、アプリ・音楽・動画配信などのコンテンツ・サブスクリプションサービスや、広告枠販売、米グーグルからの検索ライセンス収入、クラウドのサブスクサービス「iCloud」、デバイス保証サービス「AppleCare」、決済サービス「Apple Pay」など幅広い事業を展開している。
その24年7〜9月期における売上高は、249億7200万ドル(約3兆8400億円)で、過去最高を更新した。8四半期連続で200億ドルを超えた。
同社のルカ・マエストリCFO(最高財務責任者)は決算説明会で「7〜9月期のサービス収入は250億ドル弱となり、年換算ベースで1000億ドル(約15兆3900億円)に達した。わずか数年前を振り返ると、この成長は驚異的だ」とコメントした。
しかし、一部のアナリストは懐疑的だ。生成AIシステム「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」など、今後アップルが世界展開していく新しいサービスはiPhoneや既存サービスと同等の利益率を実現できるのだろうか、と疑問視している。
生成AIでどう収益を上げるのか
近年、成長が鈍化したスマホ市場では低価格端末を販売する競合他社との競争が激化している。それでも多くの顧客が高価格のiPhoneを選んでいる。その理由の1つが、iPhoneで利用できる豊富な機能やサービスとみられている。
こうした状況でアップルが投入したのが、Apple Intelligenceである。Apple Intelligenceは無料だが、最新iPhoneを含む一部モデルでのみ利用可能となっている。
米ディープウォーター・アセット・マネジメントのマネージングパートナー、ジーン・マンスター氏は、「アップルは生成AIからどのように収益を上げるのか、いまだ見いだしていない」と指摘する。Apple Intelligenceのハードウエア販売促進以外の活用法を考える必要があるというのだ。
これまで利用者は、追加料金を払って豊富なアプリを楽しんできた。今後、iPhone利用の主な目的が、無料のApple Intelligenceに移れば、サービス収入が減少することになる。また、AI機能の開発費用がかさめば、粗利益率は低下する。
既存サービスにも不安材料
加えて、アプリ手数料や検索ライセンスといった既存のサービス事業にも影響が及ぶ可能性がある。
欧州連合(EU)は24年3月、巨大テクノロジー企業を対象としたデジタル市場法(DMA)の本格運用を開始した。これにより今後、欧州でアップルのアプリ手数料収入が減少する恐れがある。
24年8月、米国の反トラスト法(独占禁止法)訴訟でグーグルが敗訴した。グーグルは、アップルに手数料を支払ってiPhoneに自社の検索サービスを標準搭載させる契約を結んでいる。
米司法省はこれが違法だとして、訴訟を提起していた。この判決により、今後、アップルがグーグルから得ている数十億ドル(数千億円)のライセンス収入が断たれる可能性がある。
筆者からの補足コメント:
アップルに関する懸念材料には中国事業もあります。同社は中国市場で苦戦が続いてます。2024年7〜9月期における中華圏の売上高は前年同期比0.3減の150億3300万ドル(約2兆3000億円)でした。アップルにとって3番目に大きな市場である中国は24年4〜6月期まで4四半期連続の減収でした。7〜9月期は、横ばいと言えるほどのわずかな減収にとどまったものの、市場予想にも届かず、依然として業績の重荷となっています。
Apple Intelligenceを中国で利用できるようにするには、中国のAI開発企業と連携する必要があります。アップルのティム・クックCEOは先ごろ中国を訪れ、同国政府との会合に臨みました。その目的の1つは、Apple Intelligenceの中国展開だとみられています。
- (本コラム記事は「JBpress」2024年11月19日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)