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マスク氏、次期米政権のロボタクシー規制緩和に意欲 政権に食い込むもテスラに技術的課題

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米電気自動車(EV)大手テスラ率いる起業家イーロン・マスク氏は、トランプ次期米政権下における自動運転タクシーの規制緩和に意気込みを示している。

テスラが進めるロボタクシー計画は、州ごとに異なる規制の壁に直面している。こうした中、マスク氏はトランプ氏の最大の支持者の一人として、規制上の障壁を打破する影響力を持つかもしれないと英ロイター通信は報じている。

ロボタクシー構想に賭けるマスク氏

米国でEV販売が減速する中、マスク氏は自動運転ロボタクシーの構想にテスラの未来を賭けているという。同氏は先ごろ、人工知能(AI)を搭載したロボタクシー「Cybercab(サイバーキャブ)」を発表した。価格が約2万5000ドル(約390万円)というこの2人乗りのEVを2026年にも生産する計画だ。

だがそこには、州ごとに異なる自動運転に関する法律がある。こうした中、トランプ次期大統領は連邦政府予算の効率化に関する助言役に、マスク氏を起用すると発表した。

これに先立つ24年10月の決算説明会で、マスク氏は自動運転規制について、「州ごとに対応するのは信じられないほど苦痛だ」と非難。大統領選でトランプ氏が勝利し、自身が「政府効率化省(The Department of Government Efficiency、DOGE)」の責任者に任命されたら、承認プロセスの一元化を提案する、と述べていた。

マスク氏の影響力は、効率化の領域を越える可能性が高いとロイター通信は報じている。同氏は選挙期間中、トランプ氏支持団体に少なくとも1億1900万ドル(約300億円)を寄付しており、次期運輸長官の選任に影響を及ぼすと予想されている。

米運輸省(DOT)には自動車メーカーを規制する部局、高速道路交通安全局(NHTSA)があり、自動運転車の規制を国家レベルで変更する可能性がある。

テスラ走行実績わずか900キロ、ウェイモはその2万3000倍

しかし、テスラには技術的な課題も残る。テスラは米西部カリフォルニア州のライバル企業に数年後れを取っている。カリフォルニア州は、テスラにとって米国最大の市場であり、自動運転の主な試験場でもある。ロイター通信によると、他の企業は州の監督下で数百万キロメートルの自動運転テストを完了している。

州の記録によると、テスラは16年以降わずか900キロメートルのテスト走行しかしておらず、19年以降、州規制当局に報告書を提出していない。

対照的に、米グーグル系の米ウェイモはその2万3000倍の2100万キロメートル以上のテスト走行を行い、14年から23年にかけて7つの認可を取得。23年にはロボタクシーで乗車料金を徴収できる認可を得た。

ウェイモは先ごろ、カリフォルニア州ロサンゼルスで運転手が乗らないロボタクシーサービス「Waymo One」の一般提供を始めた。

ウェイモが現在、自動運転技術による旅客輸送サービスを展開している都市は、ロサンゼルスのほか、同じ西部カリフォルニア州のサンフランシスコと南西部アリゾナ州フェニックスである。サンフランシスコ都市圏では高速道路での走行試験も始まった。同社は24年8月、これら都市圏における利用客を2倍に増やすことに成功したと発表していた。

テスラは無人走行の許可を得ていない

ロイター通信によると、テスラは現在、カリフォルニア州で最も低いレベルの許可しか持っていない。これは人間のドライバーによる監視下でテスト走行が許されるものだ。一方、すでに無人のテスト走行許可を取得した他の6社は、その許可を取得する前に最低3年間、数百万キロメートルにわたるドライバー乗車のテスト走行を行っていた。

例えば、米アマゾン・ドット・コム傘下の米ズークス(Zoox)は3年間で260万キロメートル以上の、米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下の米GMクルーズは5年間で340万キロメートル以上の走行実績がある。

米カーネギーメロン大学の教授であり、自動運転車の専門家であるフィル・クープマン氏は、「テスラは、その道のりをすべて経験しなければならない」と指摘する。

トランプ氏の勝利後にテスラ株上昇

テスラが24年10月にサイバーキャブを発表した翌日、同社株は9%下落した。発表会で自動運転に関するより詳細な事業計画や業績目標が示されず、投資家を大きく失望させたといわれている。

一方、マスク氏が支持するトランプ氏が大統領選で勝利して以降、テスラ株は上昇した。投資家は自動運転とAIに関して、テスラにとって好都合となるような規制緩和を期待しているようだ。

同社は10月のイベントで、高度運転支援システム「フルセルフドライビング(FSD)」をさらに高度に進化させ、人間が介在しなくとも走行できるシステムを、「モデル3」と「モデルY」に搭載すると発表した。

サイバーキャブの生産開始より前の25年にもカリフォルニア州と米南部テキサス州で、進化版FSDを稼働させたい考えだ。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年11月28日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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