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老朽化したマイホームの建て替えでうんざりする「往復引越」問題。回避する奥の手は

櫻井幸雄住宅評論家
年々老朽化する一戸建てマイホーム。それを建て替えようとすると……。筆者撮影

 「マイホームブーム」と言われたのは、昭和の後期。1970年代から1980年代だ。90年代のバブル以降、都心マンションのほうが人気を高めるようになったが、昭和後期は郊外の「庭付き一戸建て」のほうが憧れだった。郊外一戸建てが「夢のマイホーム」と呼ばれた時代である。

 その「夢のマイホーム」は築40年から築50年となり、多くが老朽化している。マンションは建て替えが大変、とされるが一戸建てだって大変だ。建て替え費用は2000万円以上必要なので、一戸建てに住むシニアには大きな負担となる。

 それ以上にシニアを悩ますのが、「往復引越」の問題だ。

建て替えるために必要な2回の引越

 「往復引越」とは、私の造語。「行って・帰ってくるで、2回引っ越しするのは嫌だ」というシニア……特にシニア女性が多いことから思いついた言葉である。

 「往復引越」が発生するのは、住み慣れた一戸建てを建て替えるとき。30代で購入した郊外の一戸建ても、築40年を越えると、傷みが目立つようになる。断熱性の低さや使い勝手のわるさも悩みのタネだ。

 思い切って最新住宅に建て替えてようか、そして、今流行の平屋に減築しようかとも考えるが、そこでネックになるのが引越の問題である。

 建て替えるのだから、一度家を空にして、仮住まいをしなければならない。長年家族で暮らした家だから、まず膨大な不要品の整理が生じる。

 作業を想像しただけでもうんざりなのだが、新築の家が完成したところで、もう一度仮住まいから引越を行わなければならない……2回の引越作業で、負担が多くなりがちなのが女性だ。

 「引越はすべて任せておけ」という男性は滅多におらず、居たとしても本当に任せて大丈夫なのかという不安が大きく、結局は面倒が増えるだけになりかねない。

 転勤でたびたび引越を経験した人ならば、移動させるたびに必要なモノが紛失したり、家具が傷つくことを経験済みだ。それを、人生の後半で連続経験するのか、と考えるだけでため息が出る。

 そもそも若い頃の引越よりも、今のほうがモノは増えている。一方で、体力も気力も落ちているので、「往復引越」を想像しただけで「マイホームを建て替えよう、という気持ちが崩れてゆく」という女性が多いのである。

 その結果、「建て替え」をあきらめたとして、代わりにどんな方法があるのか。

 3つのケースを紹介したい。

建て替えではなく、中古一戸建てに買い替える

 まず、現実的なのは「建て替え」ではなく、「買い替え」だ。

 今住んでいる家の近くで、それほど古くない中古の一戸建てを探して買い替える。それなら、引越は往復ではなく片道だけ。つまり1回で済む。

 昭和時代に分譲された一戸建て住宅地であれば、同じような土地面積・建物面積の家が中古で売り出されやすい。

 そのうち、さほど古くない家を購入し、それまでの家は中古で売る。といっても、古い家なので再利用されることはまずない。多くの場合、不動産業者が買い取り、古い家を壊して新築の建売住宅として売り出す。

 土地面積が200平米(だいたい60坪)以上であれば、建売住宅2軒が売り出される。だから、不動産業者が買い取ってくれるわけだ。

 とここで、疑問を抱く人がいるだろう。

 新築建売住宅があるのなら、中古一戸建てよりもピカピカの新築一戸建てを買えばよいのに、という疑問だ。

 たしかに、若い世代なら土地面積100平米、建物面積100平米の一般的建売住宅が好ましいだろう。

 しかし、シニア世帯の場合、加齢とともに階段の上り下りがおっくうになるので1階だけで暮らすこと前提で家探しをする。その場合、建物面積100平米・総2階建て建売住宅では1階部分が狭い。

 土地面積100平米の一戸建てだと、1階に設置されるのは、リビングダイニングキッチンと、居室が1つ。あとは、トイレと浴室、洗面所だ。

 1階にもう1部屋欲しい、という場合は1階部分が広い中古一戸建てのほうが好ましいのである。

中古一戸建ては、案外割安

 そして、郊外の住宅地では、「土地面積100平米の新築建売住宅」と、「土地面積200平米の中古一戸建て」が同じような価格で購入できる。

 理由は、中古一戸建ては建物価格がタダ同然になっていることが多いからだ。

 新築建売住宅ならば住宅ローンを組みやすいのに対し、築20年以上の中古一戸建ては住宅ローンが組みにくいのも割安になってしまう理由だ。

 買い替えを考えるシニアの場合、それまでの家を売ったお金で別の中古一戸建てを買うので、現金購入が基本。住宅ローンを組みにくくても問題ない。

 住み慣れた家の近くで中古一戸建てを買えば、友だちとのお付き合いやサークル活動をそのまま維持できる、という利点もある。

 以上が「すごく古い家」から、「ちょっと古い家」への引越が選ばれる理由である。

リフォームする方法も人気だが、最後の手段は……

 1回の引越でも面倒、という人には、今住んでいる家を大幅リニューアルする方法が人気だ。今は「新築費用の2000万円は出せないが、1000万円ならば出せる」という人向けに、新築そっくりにリフォームしてくれる事業が人気を高めている。家の化粧直しだけではなく、耐震補強を含めた工事を行ってくれる会社であれば、安心感が大きい。

 大手不動産会社も手がけるこのサービス、住宅地内で1軒工事を行うと、近所から「ウチでもできないか」という打診が必ず出てくるという。見事に再生された建物が最高の宣伝になっているわけだ。

 このほか、古い自宅に住み続け、連れ合いに先立たれたところで老人ホームに移る手もある。その際、古い家を売却すれば、引越が1回で済むのだが、郊外の一戸建ての場合、希望通りの価格で売れるかどうか、の心配がある。

 たしかに「希望通りの価格」はむずかしいかもしれない。が、首都圏、近畿圏で、都心への通勤圏に位置する郊外一戸建てならば、「タダでも買い手が付かない」という状況はない。

 安くなってもよい、と腹をくくれば、古い家で自立生活できるギリギリまで頑張るのもそれほどわるくない選択なのである。その際、老朽化した部分には目をつぶる……実際、今、シニアの多くがその道を選んでいるのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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