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「オムツをかみちぎり繁殖」犬の多頭飼育崩壊を防ぐ方法は不妊去勢手術以外にあるの?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

今年7月、福岡県で夜道、車のヘッドライトに照らされ浮かび上がったものは、人気があまりいないところに数匹のミニチュアダックスフントが、さまよっている様子でした。これがSNSで投稿されました。この子たちは、首輪はなく近くに飼い主らしき人もいない状態でした。1匹ではないし全部がミニチュアダックスフントなので、ブリーダーが遺棄したのかな、と推測していました。

10月になり、福岡県警はこれらの犬を捨てた40代の夫婦を動物愛護法違反容疑で逮捕しました。この夫婦は、北九州市のあるアパートの一室で、50匹を超えるまで犬を増やして、飼いきれず遺棄しました。

犬の多頭飼育崩壊を防ぐ方法は、不妊去勢手術以外にはないのかを犬の繁殖の点から考えていきましょう。

「おむつをかみちぎり繁殖」して50匹を超えて多頭飼育崩壊に

西日本新聞meは、福岡県や捜査関係者によりますと、夫婦は犬が交尾するのを防ぐためにおむつを着けさせていたが、「犬同士でおむつをかみちぎり、気付けば交尾していた。もう手が付けられなくなった」「朝起きたら、新しい子犬が生まれていたこともあった」などと説明したと伝えています。

妻が最初にミニチュアダックスフントを飼ったのは20年前の2002年ごろで、雄の1匹でした。2年後に結婚して、その後、ミニチュアダックスフントだけを迎え入れ続けた結果、2011年ごろには30匹を数えるようになっていました。この時点で一般の家庭で飼える数でないことは明らかです。

そして、今年5月には50匹ほどにまで増えました。逮捕前の夫婦の収入は月に20万円ほどで、多いときでエサ代に13万円を費やしていたそうです。

近所からはたびたびニオイや犬の鳴き声の苦情が寄せられていました。「多頭飼育崩壊」の状態だった夫婦は譲渡先を探すことも考えましたが、成犬ばかりで需要が少なく遺棄を決意するようになったようです。

飼い主の犬の繁殖に対する知識のなさで、このような悲惨な環境を生み出してしまったのです。

不妊去勢手術以外に多頭飼育崩壊を防ぐ方法はなかったのか?

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

犬は猫ほどではないですが、雄と雌という「つがい」で飼っていれば、子犬が産まれるのは、自然のことです。もちろん、相性などがありますが、性成熟し雄と雌がいれば、交配して約60日後に子犬が数匹生まれます。それでは、犬の繁殖学を見ていきましょう。

犬の繁殖学

雌の最初の発情

小型犬では生後7~10カ月、中・大型犬では8~12カ月ぐらいに始まるとされています。個体差はあります。

雌の発情周期

半年に1回、発情です(雄は性成熟すれば、1年中です)。

雌の発情の様子

発情前期(約6~10日)

陰部から出血して、頻尿になります。交配はしませんが、発情中の雌犬の性器からは特殊なニオイが発せられ雄が寄ってきます。そのニオイを嗅ぐことによって雄犬も雌犬が発情中であることがわかります。

発情期(約10~14日)

陰部からの出血がとまり、排卵があり、妊娠可能になります。この時期だけ、雌は、雄との交配をします。

発情後期(約60~90日)

腫れていた陰部が元に戻ります。この時期は、雄と交配をしません。

発情休止期

次の発情までの期間です。

犬の交配の時間

猫の交配時間は、数秒で終わり、いつ交配したのかわからないことが多いです。しかし、猫と違って犬の交配時間は、5~45分ほど結合します。

雄犬は体を180度回転させ、互いに背を向け合った状態です。お尻をつき合わせたような姿勢になるのです。

犬の多頭飼育崩壊にならない飼い方

写真:イメージマート

みなさんもご存じのように、犬を飼って不妊去勢手術をしていれば、多頭飼育崩壊になりません。これが一番、簡単です。

しかし、犬の不妊去勢手術をするとなると一般的には雌なら数万円はかかるので経済的に余裕がない人は難しいです。それと、不妊去勢手術したくない人もいるでしょう。

それでは、不妊去勢手術以外で多頭飼育崩壊にならない方法を考えましょう。

雄犬だけを飼う

雄と雌を飼えば、子犬が産まれるので、不妊去勢手術をする経済的に余裕がない人、不妊去勢手術をしたくない人は、雄だけだと子犬は当然、産まれません。

雌犬だけを飼う

雌犬だけを飼うと、交配する相手がいないので、妊娠はしません。しかし、発情のときに、興奮して暴れてしまう雄犬もいますので、この時期は、散歩を控えた方がいいでしょう。

雌犬が発情したら預ける(雄と雌を飼っている場合)

雄と雌とつがいで飼っている場合は、雌の発情したら預けましょう。

上述のように、雌犬の発情は年に2回あります。発情中になると、陰部が腫れて出血します。その血の色が薄くなり始めた時期に、交配するのでその時期である約10日間預けるといいですね。

預けるのも経済的に無理な場合は、他の部屋でケージに入れて鍵をかけておくのがいいです。天井がないサークルに入れている程度なら、どうにかして乗り越えて交配をします。別の部屋にする程度でも交配をする可能性があります。雌の発情とは、そのような激しいエネルギーが出ます。

この事件のように、おむつをしている程度では、簡単に交配するのです。

たまたま交配して子犬が産まれたわけではないので、犬の場合は妊娠する可能性があるときしか交配しないのです。コミュニケーションの手段として交配するのでなないことを覚えておいてください。

この事件の救いは、保護された57匹すべての新しい飼い主が見つかった

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イメージ写真写真:イメージマート

夫婦が遺棄したミニチュアダックスフントは、福岡県の北部を中心に人気のない側道や公園に次々に捨てられ、これまでに警察は57匹のミニチュアダックスフントを保護しました。そして、保護された57匹すべてに新しい飼い主が見つかり、新しい生活を始めたとのことです。

遺棄した犬が、57匹以上ほかにいないのか気になるところです。+rkbによりますと、この夫婦は、50匹を超えるミニチュアダックスフントを室内で“放し飼い”していたそうです。

犬は猫と違って、群れで行動するので、このような室内での放し飼いでも、群れがちゃんとできあがっていたのでしょう。それで、公園などでも1匹でウロウロすることなく、群れで生活していたのでしょう。そのため、無事57匹捕獲されたのでしょう。

これが猫なら、単独行動だし、上下に動くことができないので、50匹を遺棄したら簡単に捕獲できなかったと推測します。

この犬たちの里親になってくださった方に感謝です。高齢犬もいるので、これから老いや病気があるでしょうが、最後まで飼ってくださることでしょう。

多頭飼育崩壊にならないように、不妊去勢手術をするのが一番ですが、それができない場合は、犬の繁殖について知って、このようなことが起こらないようにしてもらいたいです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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