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韓国軍が大重量8トンの弾頭を持つ「玄武5」弾道ミサイルの全容を初公開。世界最強のバンカーバスター

JSF軍事/生き物ライター
韓国軍発表の動画から2024年公開時の玄武5発射車両と2022年公開時のミサイル

 10月1日は韓国で76回目を迎える「国軍の日」を記念する式典が開かれて軍事パレードが行われました。今回は34年ぶり臨時休日となっています。由来である1950年10月1日は、朝鮮戦争で韓国軍が反撃に転じて38度線を突破した歴史的なターニングポイントでした。

 今年の「国軍の日(第76回)」の軍事パレードには韓国軍の新型兵器「玄武5」が公式にお披露目されています。弾頭重量8トンもの貫通弾頭を持つ短距離弾道ミサイルです。2年前の2022年の「国軍の日(第74回)」に動画でほんの少しだけ公開されていましたが(関連記事)、今回初めて玄武5の全容が公式に公開されました。

 一般的な短距離弾道ミサイルの弾頭重量は500kg前後が普通で1トンでも重い部類です。玄武4の弾頭重量2.5トンの時点で既に破格の重さでしたが、玄武5の弾頭重量8トンは異常なほど重く、これを運搬するために射程はSRBM(短距離弾道弾)でありながらミサイルの大きさはIRBM(中距離弾道弾道弾)以上でICBM(大陸間弾道弾)に匹敵する巨大さです。過去に世界で例がない構成の弾道ミサイルです。

韓国国防省公式Xより「国軍の日」式典LIVE中継

※韓国軍広報テレビKFNニュース、玄武5の登場は開始1時間36~37分あたり。

韓国軍広報テレビKFNニュースより玄武5弾道ミサイル。駆動輪全てが操舵可能
韓国軍広報テレビKFNニュースより玄武5弾道ミサイル。駆動輪全てが操舵可能

 韓国軍の玄武5のTEL(輸送起立発射機)はなんと9軸18輪もあります。参考までにロシア軍や中国軍のICBMのTELは8軸16輪です。玄武5のミサイルを収めるキャニスターは全長20m級で、中国軍のICBM(大陸間弾道弾)であるDF-31に匹敵するサイズです。ですが玄武5は弾頭重量8トンもあるので射程は短くSRBM(短距離弾道弾)です。

 逆に言えば弾頭重量を軽くするだけで玄武5は中長距離級の射程のミサイルに発展することが可能です。これはもしも将来的に韓国が核武装を行う場合には有利な先行投資となるでしょう。

玄武5:発射車両とミサイルの比較

韓国軍発表の動画から2024年公開時の玄武5発射車両と2022年公開時のミサイル
韓国軍発表の動画から2024年公開時の玄武5発射車両と2022年公開時のミサイル

 2年前の2022年の「国軍の日(第74回)」に動画でほんの少しだけ公開されていた玄武5らしきミサイルと、今回の2024年の「国軍の日(第76回)」で公開された玄武5の発射車両(TEL)を比較してみます。

 

関連記事:韓国軍の新型兵器「高威力玄武弾道ミサイル」(2022年10月3日)

 ミサイルを収納するキャニスターの全長・直径の比率と、ミサイルの全長・直径の比率は合致しているように見えます。このミサイルが玄武5であるとすると、ICBM(大陸間弾道弾)と同等のサイズで1段式のSRBM(短距離弾道弾)ということになります。

  • 固体燃料SRBM:1段式
  • 固体燃料IRBM:2段式(液体燃料だと1段)
  • 固体燃料ICBM:3段式(液体燃料だと2段)

 一般的な弾道ミサイルの構成はこの組み合わせが最適の効率となるので、仮に玄武5の弾頭重量を軽くした場合は1段式のまま中長距離を飛ぶことを狙う羽目になり、効率が悪くなります。このため、大きさと重量のわりにあまり遠くへ飛べない(それでも短距離よりは遠くに飛べる)ことになります。

 玄武5のミサイル形状はロシア軍のイスカンデルMに酷似しており、これを大型化した「超巨大イスカンデルM」とも呼べるような設計です。このためICBMに匹敵するサイズですが太短い形状で、固体燃料1段式で設計した故の特徴だろうと思います。もし多段式で設計した場合はもっと細長くなるでしょう。

 仮に韓国軍で玄武5をベースに中長距離以上の弾道ミサイルを作る場合は、そのまま弾頭重量を軽量化すれば早期に配備可能ですが、性能的にはやや不利になります。本格的な中長距離以上の弾道ミサイルが欲しい場合は、推進ロケットの段数を増やした多段式の新型を開発することになるでしょう。その場合でも発射車両のTEL(輸送起立発射機)は大きな玄武5のものを使い回せます。

 ただし韓国軍が中長距離以上の弾道ミサイルを配備する計画は今のところ全くありません。あくまで将来の可能性として有り得るというだけです。現状の玄武5は推進ロケットが固体燃料1段式であるがゆえに短距離弾道ミサイルとして最適化されている兵器です。「北朝鮮の地下バンカーを粉砕する目的」の大重量8トン弾頭という名目は確かなものでしょう。

 これまで人類が保有する最強の貫通兵器(バンカーバスター)は、核兵器を除く通常兵器ではアメリカ軍の大型爆撃機搭載用の30000ポンド(約13.6トン)の貫通爆弾「MOP」が最大最強でした。韓国軍の玄武5はこれより軽い8トンという弾頭重量ですが弾道ミサイルの高速力が付与されます。空気抵抗での速度減衰を考慮に入れても地表突入時の速度は自由落下より速く、運動エネルギーは玄武5の方が上回ります。玄武5は通常兵器では世界最強のバンカーバスターとなります。

 ただしあくまで通常兵器の範疇であり、核兵器に匹敵するような威力ではありません。また貫通弾頭である以上は重量の大部分は鋼鉄製の弾殻を分厚くするために使われるので、内蔵された炸薬量の割合は少なくなります。あくまで強固な地下バンカーを撃破するために用途が限られる兵器です。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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