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韓国戦、アルゼンチン戦で浮き彫りになった「オーバーエイジ」に必要不可欠な人材

杉山茂樹スポーツライター
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 26日、味の素スタジアムで行われた一戦で、日本U-24に1-0で勝利したアルゼンチンU-24。配布されたメンバー表を眺めて驚かされたのは、GKヘレミアス・レデスマの年齢だった。スペインリーグ1部のカディスでスタメンを張る29歳。アルゼンチンU-24と言いながら、GKは24歳以下の選手ではなかった。

 五輪の男子サッカーはご承知の通り、上限3人のオーバーエイジ枠が設けられている。アトランタ五輪(1996年)、北京五輪(2008年)の日本がそうであったように、使わないという選択肢もある。五輪を若手選手に経験を積ませる機会と捉えれば、極めて妥当な選択になるが、成績を追求するなら、使うという選択肢が一般的になる。

「必要であれば考えていきたい」。森保一監督に代わって監督を務める横内昭展コーチは、今回、そう述べるに留めたが、森保監督が掲げる目標は、なんと金メダルだ。採用すると考えるのが自然だ。検討中であることは確かだろうし、すでに具体的な名前も挙がっているに違いない。

 だが、東京五輪が予定通り開催されるならば(いまだ信じられないが、それはともかく)、本番まで4ヶ月弱だ。次なる強化の機会は6月。オーバーエイジは、本番まで僅か1ヶ月という段で初めて試されることになる。金メダル獲得に向けて、順調なステップを踏んでいるとはいい難い。

 アルゼンチンU-24と戦う今回を、なぜその機会に充てないのか——と、発表されたメンバーを見た段階で筆者は意見しているが、アルゼンチンU-24のメンバーに29歳のGKが含まれていて、実際に先発を飾るという事実を知るや、改めてその意を強くすることになった。

 日本はアルゼンチンより格下だ。しかし、オーバーエイジに対する備えでは、アルゼンチンが勝る。にもかかわらず金メダルを目標に掲げる日本。強化策はこれでいいのかと言いたくなる。番狂わせを狙うチャレンジャー精神は伝わってこない。

鎌田大地・右(写真:岸本勉/PICSPORT)
鎌田大地・右(写真:岸本勉/PICSPORT)

 そして試合には順当に0-1で敗れた。最少得点差の敗戦ではあるが、惜敗というより完敗に近い内容だった。金メダルに近いのは、現状では断然アルゼンチン。そう言わざるを得ない。

 のんびりしている暇はないのである。

 オーバーエイジに相応しい人材は誰か。日本U-24の弱点はどこか、不足しているパーツはどこかという問題と、それは直結する。

 アルゼンチンU-24との第1戦。日本は三笘薫(川崎フロンターレ)が先発した。昨季から今季に掛けて、Jリーグを沸かせている最も旬な選手だ。川崎では4-3-3の左ウイングを務めるが、五輪チームはこれまで3-4-2-1を採用してきた。ウイングというポジションが存在しない布陣である。A代表は3-4-2-1と4-2-3-1を使い分けしてきたが、五輪チームはもっぱら非ウイング的サッカーを採用してきた。

 国内で最後に戦ったジャマイカ戦(2019年12月・長崎)しかり。三笘はそこで2シャドーの一角としてプレーした。ドリブル技術を発揮しにくいポジションで、しかも、先発ではなく交代出場選手として、である。ベンチから高い評価を得ているようには見えなかった。

 その後、川崎入りするやJリーグで大ブレイク。すっかり時の寵児となった三笘に対して、首脳陣は今回どう対応するか。注目されたが、横内代行監督は、それまでこだわってきた3-4-2-1をあっさり断念。ウイング付きの布陣である4-2-3-1に方向転換した。

大迫勇也・左(写真:岸本勉/PICSPORT)
大迫勇也・左(写真:岸本勉/PICSPORT)

 アルゼンチンU-24戦。三笘はその3の左で、川崎でプレーしている4-3-3の左ウイング同然のスタイルで臨んだ。1トップには田川享介(FC東京)、その下に久保建英(ヘタフェ)、そして3の右には三好康児(アントワープ)が並んだ。

 三笘、田川、久保、三好。このアタッカー陣4人の中で、最後までピッチに立っていたのは久保だった。反対に最も早くベンチに下がったのは三笘(後半21分)。出場時間からアタッカー4人の監督評価を占えば、久保、三好、田川、三笘の順になる。だがこちらの目には、少なくとも「久保<三笘」と映った。一番の理由は、ポジションの適性だ。三笘が左ウイングらしいプレーをしたのに対し、久保は1トップ下に適さないプレーをした。

 なにより1トップ田川、右ウイング三好との関係がよくなかった。田川は、最終ラインの背後を突くプレーを得意にする選手。したがってその下でコンビを組む相手は、久保タイプではなく、ゴールを背にしてプレーすることが得意なポストプレーヤーが適している。

 日本U-24のCF候補はこの田川の他に、今季のJリーグで現在、得点ランキングでトップに立つ前田大然がいる。怪我で今回の招集は見送られたが、復帰すれば、候補の一番手だろう。さらに、昨季後半、得点を重ねた上田綺世も控えている。彼も同様な理由で今回は招集外となったが、有力な候補の1人だ。しかし、この2人もまたポストプレーヤーではない。上田はヘディングが得意だとはいえ、鹿島アントラーズの先輩である大迫勇也(ブレーメン)的な選手ではない。

 1トップの顔ぶれを見ると、その下に欲しい選手は久保タイプではなく、A代表で1トップ下を張る鎌田大地(フランクフルト)になる。真ん中(1トップ下)のポジションで、ボールを収めることができるポストプレーを得意にするアタッカーが、U-24のメンバーの中には見当たらないのだ。

 オーバーエイジ候補の1番手は、ずばり鎌田大地。日本U-24のアタッカー陣の中で最も不足しているパーツになる。鎌田がダメなら大迫でもいい。日本が金メダルを獲得するためには、このどちらかは必要不可欠な人材になる。

 両者は、日本のサッカー界全体にとっても貴重な存在だ。この試合の前日に行われた韓国戦で、A代表は3-0で勝利したが、中でも出色だったのは鎌田の2点目だった。そのドリブルシュートは、相手DFのマークが緩かったとはいえ、質の高いゴールだった。韓国はあの1点ですっかり元気がなくなった。言い換えれば、敵も脱帽したくなる見事なゴールだった。

 三笘と久保。その間に鎌田が入る4-2-3-1の3こそ、一刻も早く見たいサッカーになる。暢気に構えているわけにはいかないのだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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