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朝乃山に“大関”の自覚はなかったのか――。

飯塚さきスポーツライター
(写真:筆者撮影)

大相撲夏場所11日目。友人に誘われ、この日は偶然国技館で観戦していた。「大関・朝乃山」は、少なくともしばらく見納めか――。そんな虚無感と共に、力なくカメラのシャッターを切った。

朝乃山がガイドライン違反で休場

正統派のお相撲さんとして、また将来綱を張る可能性のある期待の大関として、多くのファンに愛される朝乃山に、まさかまさかの“文春砲”が撃ち抜かれた。日本相撲協会の新型コロナウイルス対策のガイドラインに違反し、夏場所2日前などのキャバクラ通いが報じられたのだ。

大関・朝乃山 緊急事態宣言中に神楽坂キャバクラ通い(文春オンライン/2021年5月19日配信)

記事の内容に関して、朝乃山は当初「事実無根」などと否定していたが、19日の夕方に発言を一転。一部内容を認め、12日目から休場となった。

朝乃山「キャバクラ通い」一転認める 虚偽報告も加わり厳罰必至(日刊スポーツ/2021年5月19日配信)

人間、誰しも間違いを犯す。そんなふうにできている。何も、横綱・大関たるもの、土俵でも私生活でもすべてにおいて完璧であれと言っているのではないし、そんな人間はこの世に存在しない。だからこそ、潔く間違いを認め、深く反省し、自責の念や後悔の気持ちを胸に、土俵で返していくのが筋ではないのか。違反行為と知りながら、こそこそと隠れてまで外出していたことにはもちろんだが、公になったからと嘘を塗り固めて保身に走ったことにも、憤りを感じざるを得ない。彼に、“大関”の自覚はなかったのか。

大関に自覚してほしい力士の影響力

実際、この報道を知った上で見る朝乃山の取組は、観客の一人として、本当に楽しめなかったとはっきり記しておく。力士やアスリートが競技に取り組む姿は、見る者の心を揺さぶり、活力を与える。見る者はそれを心から応援し、競技者はさらにその声援を力に変えて、最高のパフォーマンスを発揮する。そんな好循環のもとに、スポーツは成り立っている。それなのに、取組を見ても胸に霧がかかったような気持ちになり、心のこもった拍手ができない。であれば、プロの力士として土俵に上がる意味はないのではないか。法に触れる罪を犯したわけでもないのにここまでこき下ろされるのは確かに酷ではあるが、これが、ただ27歳の一般男性がコロナ禍でキャバクラへ行くのとの影響力の違いだ。

同様の内容で処分を受けた阿炎は、3場所謹慎した。朝乃山は、この前例があったにもかかわらず外出したこと、大関という角界を代表する地位であること、さらに虚偽の報告までしたことから、阿炎よりも重い処分が下っても致し方ないだろう。また、現在幕下で取っている阿炎を見ればわかるが、周りとの力の差が歴然としていて、ほかの力士がかわいそうになっている。朝乃山も、同じような処分であれば十両あたりからの復帰になるだろうが、復帰してもなお、周りの力士たちへ迷惑をかけることになる。それくらい大きな影響を与えてしまっていることも、自覚してほしい。

師匠の高砂親方は、「大変な迷惑をかけて申し訳ないです。まだ若いので一から出直してほしいです」と、筆者にメッセージをくれた。親を泣かせるようなことをしてしまったことについて深く反省し、その上で、いままでよりも強い心をもって、師匠の言葉通りまた「一から」土俵で積み重ねていくほかあるまい。

自分に負けるな、朝乃山!

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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