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子どもの「暑さ慣れ」について考える

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
水を飲む男の子(写真AC)

初夏で気温もぐんぐん上がってきました。こどもにとっても絶好の外遊びの季節です。

外遊びは子どもにとって言うまでもなく重要です。実際、多くの研究で、子どもは外遊びを通じて運動能力や発達を促すことが報告されています(1, 2)。

その一方で暑い中での運動はどうしても熱中症のリスクが高まります。特に最近は気候変動の影響か、夏の暑さも以前より厳しいものとなっていますので、子どもの熱中症対策への関心も以前より高まっています。

熱中症対策として重要なのは水分補給、体を冷やす、こまめに休むことの3本柱が重要ですが、これに加えて、体を暑さに慣らすこと「暑さ慣れ」も重要だとされています。

最近は運動選手が暑い環境下でもよいパフォーマンスを発揮するための研究として、暑さ慣れは多く研究されています。一方で小さなお子さんの暑さ慣れはどう考えればよいのでしょうか。これまでに分かっている研究をもとに考えてみたいと思います。

暑さにさらされると体は適応する

暑いところで過ごしているうちに、次第に体が適応する変化は以前から知られており、古くは18世紀にジェームス・リンドという人が、ヨーロッパ人がインドに移住したとき、最初は体調を崩したが一定期間かけて慣れることができたことを報告しています(3)。おそらくこれが暑さ慣れについての最初の報告と考えられています。

暑さ慣れとは、一定期間体温を上げる環境にさらすことで汗をかきやすくなったり、皮膚の血液の流れが増えて体の熱が外に逃げやすくなったりして、体が暑さに対応しやすくなることです(4, 5)。

暑さ慣れにより体内で起こる反応としては次の図が参考になります(図)。

図:暑さ慣れによる生理的指標の変化の推移(文献6より)
図:暑さ慣れによる生理的指標の変化の推移(文献6より)

これは成人の図になりますが、この図から、暑さ慣れを開始して7日目くらいで心拍数が低下し、発汗量が増加するのが分かります。これらの変化の結果、体液バランスが改善し、運動時の中心部体温が低下し、心血管系の安定化が進み、運動パフォーマンスが向上すると考えられています。一方で暑さ慣れの程度や期間は個人差が大きく、また環境条件(例えば乾燥した暑さか湿度が高い暑さか)によっても大きく変わってきます(4)。一般的には成人アスリートの場合の暑さ慣れとして、通常1日60-100分前後の中強度の運動を約7-10日間行うことで暑さ慣れが完了するとされています(6)。

また、このような暑さへの順応は一時的なもので、暑さ慣れが完了しても繰り返し暑さにさらされていないと徐々に失われることも分かっています。具体的には2週間で得られた効果の3割が失われ、1か月経つとほぼ全て失われてしまいます(5)。

子どもは大人より暑さへの順応はゆっくりで効果もやや低い

では本題に戻りましょう。子どもの暑さ慣れをどう考えればよいのかという話でした。上記はあくまでも運動強度の高い成人アスリートについてのデータで、子どもに同じように当てはめられるわけではありません。たとえば思春期前の子どもは汗腺の機能が未熟で発汗率も低く、発汗量が成人より低くなります(7)。そのため暑さ慣れにトライしても大人ほど発汗が促されにくく、暑さへの順応の速度も遅くなります。結果として獲得できる順応の程度も低くなることが報告されています(8)。

実際、陸上スポーツに関わる中学生に関しては、暑さ慣れとして最初に14日以上の期間を設ける必要があるとされていて、これは成人よりも少し長い期間になります(4)。そうするとスポーツ選手ではない小学生以下のお子さんが暑さ慣れするのに必要な運動強度や期間に関して目安となるデータはありませんが、2-3週間くらいといったところでしょうか。

子どもは特に水分摂取・休息・冷却を心がける

ただ、汗腺が未発達で心血管系もまだ十分に成熟していない子どもの暑さ慣れには限界があることも強調しておきたいです。暑さ慣れが完了したとしても過信はできず、やはり子どもの熱中症対策は基本的な予防策「水分摂取」「休息」「冷却」を中心に心がけていただきたいと思います。暑さ慣れは維持することも大事です。

以上から、子どもにとって最も適した暑熱馴化の方法は、「毎日こまめに外遊びをすることで自然と暑さに慣れさせること」になります。

なお、外遊びを「無理なく」安全に行うためには、日陰や樹木が豊富な遊び場を選ぶことが重要です。アメリカ・オースティンの学校での研究では、高温時に子どもたちは活動時間を減らし、日陰を探す時間が長くなることが示され、校庭の緑化が子どもの身体活動レベルの向上に役立つことが報告されています(9)。

緑の多い校庭(写真素材:写真AC)
緑の多い校庭(写真素材:写真AC)

これから暑い日も増えると思います。無理のない外遊びを取り入れながら、熱中症予防を心がけていただければと思います。

<参考文献>

1. Hazlehurst MF, et al. Int J Behav Nutr Phys Act. 2023;20(1):94.

2.Ramsden R, et al. JMIR Res Protoc. 2022;11(7):e38365.

3.Lind J. An essay on diseases incidental to Europeans, in hot climates; 1811.

4.Adams WM, et al. J Athl Train. 2021;56(4):352-61.

5.Périard JD, et al. Scand J Med Sci Sports. 2015;25 Suppl 1:20-38.

6.国立スポーツ科学センター. 競技者のための暑熱対策ハンドブック.

7. Gomes LH, et al.Rev Paul Pediatr. 2013;31(1):104-10.

8. Dougherty KA, et al. Med Sci Sports Exerc. 2009;41(2):279-89.

9. Lanza K, et al. J Phys Act Health. 2023;20(2):134-41.

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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