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スーパーマンチャレンジの危険性とは?世界中で増えるケガと事故の実態

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
イラストAC

TikTokでスーパーマンチャレンジというのが流行っているのをご存じでしょうか。

これは、スーパーマンに模した人が数人の仲間が手を広げて待ち受ける中に助走をつけて飛び込み、受けたメンバーがその反動で上に押し出すことで体を起こすという遊びです。若者の間で流行しているようです。

スーパーマンチャレンジの動画

世界中で報告されるケガの実態:日本を含む被害例

 実はこのスーパーマンチャレンジが原因で、世界中で大けがの報告が相次いでいます。

周囲がしっかり補助の態勢を取れずに、そのままコンクリートなどの固い地面に頭や体を打ち付けて頭がい骨骨折や手足の骨折などの大けがを負うケースが世界中で増えているのです。例えば北マケドニアでは、首都スコピエなどで、過去1週間に10-17歳の生徒少なくとも17人が骨折や打撲、あざで病院に運ばれたと報道されています。同様に、ルーマニアでも20人の子どもが、イスラエルでも19人が病院で治療が必要とするほどの重症を負ったとされています。

 これは海外だけで起きている話ではありません。日本でも同様の事故が今月に入ってから増えているようです。

 兵庫県では15歳の男児が2mの高さから墜落して、けいれんや急性硬膜下血腫、頭蓋骨骨折を起こして入院しました。東京では13歳の男児が転落して意識消失と両手の骨折などの大けがを負っています(いずれも担当医を通してご家族に掲載許諾済みです)。

 学校側も危機感を持っているようで、沖縄県浦添市では、ケガを負う児童が増えているとして、学校が12/16に注意喚起を出しました。

 このようにスーパーマンチャレンジはTikTokで流行し、日本を含む世界中の若者に急速に広がるとともに、大きなケガも世界各国で起こっているのが現状のようです。

スーパーマンチャレンジは重大なケガを引き起こす

 このチャレンジの特徴は重いケガが多い点です。多くのケースで骨折や打撲などのケガが報告されています。たとえばアルバニアのメディアによると、前腕や鎖骨、肩などの骨折が目立つとの報道があります。

 ルーマニアのメディアは、ブカレストに搬送された患者が1日20人を超え、そのうち2人が外科的な介入が必要だったと報告しています

 特に着地時に頭を打つことが多く、頭部打撲に伴って頭がい骨骨折や意識障害など重いケガを負う可能性があります。イスラエルの新聞は、実際に頭部打撲で意識障害を起こし、危篤状態となった学生の例を報告しています。

重いケガが多くなる、その理由とは?

 次に、どうしてこのチャレンジではケガが重くなるのでしょうか。まず受け手が2-4人と少人数のため、うまく受け止められず、そのまま地面に衝突するケースが少なくないようです。スーパーマン役は勢いをつけて助走して飛び込んでくるため、受け手にかかる力は相当大きなものになり、それを受け止めきれない状況が容易に起こります。その結果、うつぶせの状態でそのまま地面に衝突することになります。また放課後に校庭などでチャレンジする子どもたちも多く、コンクリートなどの固い地面の上で行うことでケガもより重くなるようです。また、この流行がTikTokから始まっていることからも分かる通り、若者はその様子を動画で撮ってシェアしようとするケースが少なくありません。結果的により注目を浴びるために無謀なチャレンジをしがちで、また撮影などに注意が向くため、安全対策が後手に回りがちです。また、集団で行う行為は時として一種の興奮状態を引き起こすため、正常な判断が難しかったり、断り切れなかったりして、ケガに巻き込まれてしまうケースもあります。いずれにせよ、このチャレンジはケガに繋がりやすく危険であると認識する必要があります。

過去の危険なSNSチャレンジ:学ぶべき教訓

 このようなリスクを伴うチャレンジがSNSを通じて流行するのは、スーパーマンチャレンジに限ったことではありません。これまでもいくつか流行したものがあります。

1.ブラックアウトチャレンジ

気絶するまで日用品で自分の首を絞め、意識を取り戻した様子を撮影し、動画をアップするチャレンジです。このチャレンジの結果、12歳未満の少なくとも15人の子どもが亡くなっています

2.スカルブレーカーチャレンジ

2人の子どもが3人目の子どもの足を蹴って転ばせるチャレンジで、結果的に脊椎損傷や入院に至ったり、訴訟に発展したりした報告もあります

3.タイドポッド(洗濯洗剤)チャレンジ

洗濯用洗剤のポッドを噛むように勧めるチャレンジです。洗濯用洗剤ポッドは見た目が派手で、思春期の子どもの興味を引いた一方、ポッドを摂取した結果重度の中毒や呼吸困難、入院に繋がったと報告されています

若者が危険な行動に走る理由とその背景

 大人からすれば無謀にしか映らないこのようなチャレンジですが、どうして思春期を中心とする子どもたちに流行してしまうのでしょうか。

 その背景として、思春期の若者は無謀な行動をしやすいことが挙げられます。

 思春期の無謀な行動に関連する要素として、4要素が知られています。若者ならではの衝動性、仲間から認められたいという気持ち、その行動から得られる利益(刺激など)、リスクの認識が低い(危ないと認識していない)ことです(1)。

 これらの要素が絡み合った結果、若者の無謀な行動に繋がると考えられます。一方で、若者は「敢えてリスクを好む」のではなく、むしろ何が起きるかわからない状況に対して、大人より気にしない傾向が強いためではないかという研究もあります(2)。いずれにせよ、こうした理由から思春期では集団で何となくリスクの高い行動に走ってしまう傾向があるため、その行動にリスクがあることを認識させるために強く働きかけることが非常に重要です。

危険なチャレンジを防ぐための対策と教育の重要性

 SNSを介した流行は今や一瞬にして世界中に広がる時代です。ダンスなど楽しいものであればよいのですが、こうした危険なチャレンジも一気に広がるため、対策を速やかに考える必要があります。まずはこうしたチャレンジが非常に危険を伴うものであることを多くの学校関係者や保護者や生徒が認識することが第一歩です。SNSプラットフォーム側も、危ない行為と認識された動画などを速やかに削除したり規制するなどの対策も求められます。

 オーストラリアでは、2024年11月に16歳未満のSNS利用を禁止する法案を可決しました。メンタルヘルスやオンライン上の危険からの保護が主な目的ですが、こうした危険なチャレンジから子どもたちを保護するために何ができるか、我々も考える必要があります。

参考文献

1. Teese R, Bradley G. Predicting recklessness in emerging adults: a test of a psychosocial model. J Soc Psychol. 2008;148(1):105-26.

2. Tymula A, Rosenberg Belmaker LA, et al. Adolescents' risk-taking behavior is driven by tolerance to ambiguity. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012;109(42):17135-40.

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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