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「債務返済しても次々と…もう手に負えない」“韓国女子ゴルフ界の伝説”朴セリが涙流し父親を告訴した理由

金明昱スポーツライター
記者会見する朴セリ(「中央日報」YouTubeの会見動画キャプチャー)

 “韓国女子ゴルフ界のレジェンド”の朴(パク)セリが、涙を流しながら語った記者会見での発言はかなり衝撃的なものだった。

 18日、ソウル市内で「朴セリ希望財団の私文書偽造、および偽造私文書行使の告訴に関する記者会見」が行われた。同財団は昨年9月、朴セリの父親のパク・ジュンチョル氏を私文書偽造の疑いで告訴。理事長でもある朴セリが、自身の言葉でその事実関係の説明と様々な憶測を整理するために会見は開かれた。

 朴セリといえば米ツアーデビューした1998年に20歳の若さで「全米女子オープン」と「全米女子プロゴルフ選手権」のメジャー制覇で一躍、“英雄”や“伝説”と呼ばれた選手。申ジエ、イ・ボミ、キム・ハヌル、アン・ソンジュなど「朴セリキッズ」と呼ばれる世代にも多大な影響を与え、2016年の引退表明後もリオ五輪や東京五輪で監督を務めるなど、韓国女子ゴルフ界における影響力は今も大きい。

 なぜ韓国ゴルフ界の功労者でもある朴セリが、これまで支えてくれた父親を告訴するに至ったのか――。

父親が財団の印鑑を偽造して意向書提出

 それは父のジュンチョル氏が、ある業者から国際ゴルフ学校とアカデミーを設立する事業に参加することを提案されたのだが、その際に財団の印鑑などを偽造して事業参加の意向書を提出していた。ほかにも朴セリの名を無断で使用して広告を出したことも確認されている。

 財団の理事長である娘の父親だからと許される行為ではないだろう。文書や印章を偽造して事業を勝手に進めてしまったわけだが、これに対して財団は正式に捜査を依頼。

 会見では朴セリと共に同席した弁護士が「朴セリ希望財団は(父親の)パク・ジュンチョル氏と関係がない。 いかなる職責や業務を遂行したことがなく、今後も一緒に進行する計画がない」ときっぱりと一線を引いていた。

「父との確執があったのは事実」

 朴セリは父親との間で、長きにわたり金銭問題を抱えていたことも告白した。

「これまで父の債務を何度も返済してきたが、もう手に負えない状況になった。これ以上、いかなる債務も責任を持たない。長い間、父との間に確執があったのは事実で、2016年度に引退して本格的に韓国生活を始めた時から、このような問題がたくさん表に出てきた。家族なので私が静かに解決しようと努力したが、一度解決したら、また違う問題が出てきて、それの繰り返しだった。問題が少しずつ大きくなり、現在の状況に至った」

 ちなみに朴セリは父を告訴してからは、一度も連絡を取っていないという。

 そもそも同財団は営利を目的としない“非営利財団法人”で、定款上では学校の設立や運営はできない。それに「全国のどの場所にも国際ゴルフスクールや朴セリ国際学校を誘致したり、設立する計画もない」とも説明した。

 朴セリの引退試合となった2016年LPGA KEB・ハナバンク選手権
朴セリの引退試合となった2016年LPGA KEB・ハナバンク選手権写真:ロイター/アフロ

「ジュニアゴルファーの夢を支えながら生きたい」

 会見途中で「とても腹が立ったし、涙が出ないと思っていた。父の意見に同意したことも賛成したこともない。私は私の道を歩み、父は父の道を歩んだ」と涙ながらに語っていた。

 やるせない気持ちがにじみ出るのは、同財団がジュニアゴルファーの夢を支え、叶えるために設立されたからだ。

「朴セリ希望財団は、様々なジュニア大会を開催しながら夢を見る将来有望な選手たちを後援する財団です。韓国を輝かせるジュニアたちの夢をかなえるための過程を支えながら生きていくのが私の夢。それを明確にするため、この場に来た」

 大切に育ててきた財団を父親の行動や金銭問題一つでイメージが悪くなるのは避けたかったはずだ。ただ、寂しいのは育ての親でもあり、ゴルフをはじめるきっかけをくれた父親と“告訴”という形で決別したこと。朴セリもこんなことになるとは想像していなかったに違いない。

 勇気のいる決断だったはずだが、それ以上にジュニア育成に対する生きがいと本気度を強く感じた会見内容だった。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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