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東京メトロ、ミサイル報道で地下鉄ストップの勇み足認める-不安煽るメディアにも自制が必要

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
東京メトロは1日あたり707万人もの人々が利用する。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

東京メトロが先月29日早朝、北朝鮮のミサイル実験をうけて、全線で地下鉄を停止させた件が、波紋を呼んでいる。ネット上でも「安全確認は必要」と評価する声がある一方で、「過剰反応」との意見も多い。東京メトロはなぜ地下鉄を止めたのか、今後、また同じような状況になった場合の対応はどうするのか。東京メトロ広報に聞いた。

◯「報道を受けて停止」「今後はJアラートを判断基準に」

先月29日朝5時半頃、北朝鮮はミサイル実験を行ったが、ミサイルは発射後、すぐに北朝鮮領内の上空で爆発。実験は失敗に終わった。そのため、政府の全国瞬時警報システム「Jアラート」は発せられなかった。一方、東京メトロでは、同日6時7分頃、地下鉄全線を緊急停止。駅構内や地下鉄車内に「ミサイル発射の情報が入ったため、運転を見合わせ、安全を確認しております」といったアナウンスが流れた。10分後、安全が確認されたとして、東京メトロは地下鉄の運行を再開したが、この対応で、約1万3000人が影響を受けたと観られている。

Jアラートが発せられていなかったのに、なぜ東京メトロは地下鉄を止めたのか。東京メトロ広報に問い合わせると、「今年4月はじめ、北朝鮮情勢についての報道を受けて、社内で緊急時の対応を検討。Jアラートが発せられていなくても、報道などで北朝鮮のミサイル情報があれば、地下鉄を緊急停止するということを決定した」という。ただ、北朝鮮の弾道ミサイルは日本に向けられて発射された場合10分程で着弾する。東京メトロが地下鉄を停止させたのは、発射後40分もたってからで、これでは遅すぎる。しかも、29日の早朝、報道を受けて停止したとのことだが、その報道で既に実験が失敗したことは報じられていた。社内決定とは言え、あまりに機械的な対応ではないか。そう、筆者が質問したところ、「29日に地下鉄を停止した件については様々なご意見をいただいており、今後はJアラートが発せられた時にのみ、緊急停止と安全確認を行うことになった」と回答。勇み足を東京メトロ側も認めたようだ。

◯危機感を煽る日本のメディアの愚

東京メトロ広報によると、今回の一連の対応は「あくまで社内の論議によるもの」だとして、政府による介入ではないとしている。だが、その一方で「北朝鮮情勢をめぐる報道を受けて社内で論議した」とも答えている。確かに連日、情報番組や報道番組は、トップニュースであたかもすぐにも戦争が始まるかのような煽りぶりだ。今回の東京メトロの対応は、勇み足ではあるが、危機を煽るメディア側も、今回のような過剰な反応を引き起こしかねないことを自覚するべきだろう。冷静に状況を見れば、在韓・在日米軍の家族やその他の米国籍を持つ人々への米国大使館による避難勧告は発令されていない。いざ、戦争になれば、特に韓国は短距離ミサイルや長距離砲による攻撃にさらされると観られ、同国に20万人いるとされる在韓米国人にも危険が及ぶ。いかにトランプ政権とは言え、20万人もの在韓米国人に何の警告も無く、北朝鮮に先制攻撃を行うことは考えづらい。北朝鮮は米国に到達する核弾頭を搭載可能な長距離弾道ミサイルを未だ開発できておらず、米国としても今日明日に先制攻撃をしかけないといけない危機的な状況ではない。一連の米国側の動きも、まだ外交上の威圧の段階だと観るべきだろう。日本政府側を観ても、ゴールデンウィーク中には安倍晋三首相のみならず、岸田文雄外務大臣、稲田朋美防衛大臣など主だった政府閣僚が皆、外遊に出かけるなど、危機感が全く感じられない状況だ。日本のメディアも北朝鮮危機を煽れば、視聴率や販売部数が稼げるのであろうが、実際の情勢を過剰評価して社会的な不安を広げるようなことは慎むべきであろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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