トランプ政権下で新たなシェア争い勃発か。ナイキVSアンダーアーマー。
2月12日付けのニューヨークタイムズ紙のスポーツページに、とても目を引く広告が掲載されていた。
ナイキの意見広告だ。
「この地は歴史によって約束されていたのではないだろうか?」という書き出しで始まる。
「公平さの夢と相互の尊敬が生き続ける場所。外見や信条ではなく、行動によって評価される場所」
「平等に国境があってはならない。選手間の結びつきは、人々の間にも存在しなければいけないものだ。機会に差別があってはいけない」
スウッシュマークの上にEQUALITY.(平等)という文言で締めくくられている。
次のページには見開きで、女子テニスのセリーナ・ウィリアムズとNBAのスター、レブロン・ジェームズの大きな顔写真。次のページをめくるとNBAのスター、ケビン・デュラントの顔。いずれも下にはスウッシュマークとEQUALITYの文字が入っている。ナイキは、4ページにも渡る広告に強いメッセージを込めていた。
2月は黒人歴史月間であり、これと関連付けての広告だったようだ。そして、この広告は差別的な発言を繰り返し、難民・移民の入国制限を打ち出したトランプ大統領への姿勢を示したものとも読み取ることができる。
ユーチューブでは広告動画が公開されていて、グラミー賞の中継でも、CMとして流されたそうだ。
スポーツ産業アナリストのマット・パウエル氏によれば、米国ではスポーツメーカーとしてトップを走っているのがナイキで、これを新興のアンダーアーマーと、アディダスが追っている。
ナイキのライバル、アンダーアーマー社は、ケビン・プランクCEOがトランプ米大統領を支持する内容の発言をした。これに対し、今月10日に同社の広告塔、NBAのスター、ステファン・カリーが反発。同じく同社の商品を広告しているバレエダンサーのミスティ・コープランドもインスタグラムを通じて反論した。
アンダーアーマー社は、これまで生産拠点を海外に置いていたが、昨年夏にメリーランド州ボルチモアに、工場をオープンさせたばかり。今年1月には、同社初の「メード・イン・USA・コレクション」として、米国製の女性アパレルを売り出したところだった。同社はトランプ大統領から米国製造業委員会への参加を求められていたという。
広告に起用しているスターに反発されたアンダーアーマーは、すぐに火消しを試みた。2月10日にプレスリリースで「我が社は政治ではなく、政策にたずさわっている。公正な取引、包括的な移民政策、ボルチモアをはじめとする全米、グローバルな規模での雇用の創出を促進する税制改革を提唱している。我々には異なる宗教、人種、国籍、性、年齢、人生経験、意見を持つチームメートがいて、これは会社の根幹をなすものだ」と述べた。
しかし、会社のトップが、トランプ大統領を支持する発言をしたという事実とイメージはついてまわる。
ナイキの意見広告には大きなインパクトがあった。ナイキのほうがアンダーアーマーより、スポーツメーカーとしてトランプ政権下で何をするべきか知っていたのかもしれない。
しかし、ナイキの広告について報じたワシントンポスト紙電子版に寄せられた読者からの書き込みには、辛辣な意見も並んだ。
「ナイキは米国で靴を製造していない」
「彼らは発展途上国に工場を作り、そこで労働者を搾取しているのではないか」
米国では、分断がトランプ米大統領誕生を後押しし、新大統領の下、さらに分断が進んでいる。スポーツメーカーも、分断の溝に落ちぬようにビジネスを展開する難しさを迫られているようだ。