北朝鮮“姫”が上から目線でヘルプ! ミサイルと親書の「曲球」
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の実妹、金与正党第1副部長が22日に談話を発表し、トランプ米大統領が金委員長に親書を寄せたことを明らかにした。トランプ氏は親書で「米朝関係を前進させるための構想」を説明する一方で「新型コロナウイルスの深刻な脅威から自国民を保護するために尽力している金委員長の努力に対する感動を伝える」と記したという。そのうえで、トランプ氏は感染拡大防止に向けて関係機関が協力する意向を表明し、「金委員長と今後、緊密に連携していく」と伝えたという。
北朝鮮としては、米国から支援を申し出るならば拒否しない姿勢を示しつつ、米朝関係改善に向けて秋波を送った形だ。北朝鮮国営の朝鮮中央通信が同日未明に報じた。
金与正氏は、北朝鮮が21日早朝に短距離弾道ミサイルを試射した際、金委員長とともに現地を視察している。それから1日もたたないうちに今度はトランプ氏の親書を公開して友好ムードを演出した形でもあり、硬軟両面の立場を使い分け、関係国に揺さぶりをかけている。
親書を受け取った日付は明らかにされていない。ロイター通信によると、米ホワイトハウス高官もトランプ氏が親書を送ったことを認めたものの、具体的な内容には言及していない。「前進させるための構想」の中身も明らかにされていない。
米国はこれまで、北朝鮮を経済制裁で圧迫することで交渉の場に引っ張り出す政策を続けてきた。ただ新型コロナウイルスの感染が世界各国に拡大するなか、北朝鮮での感染拡大への懸念から、積極的に人道支援をする態度を取ってきた。
米国務省は2月13日、新型コロナウイルスに関連して北朝鮮に人道的支援物資を送る場合、制裁の対象外として処理すると表明。ポンペオ国務長官も同日のツイッターで「米国は新型コロナウイルスに関連して北朝鮮住民の脆弱性を非常に憂慮している」「北朝鮮が感染拡大防止に対応するための、米国や国際援助、保健機関の活動を支援する」との意向を明らかにした。これを受け、国連安全保障理事会は2月下旬、国際的な支援団体が求める医療関連物資の持ち込みを、北朝鮮制裁の例外措置として認めることにした。
今回のトランプ氏の親書もこの延長線上にあるとみられ、北朝鮮を積極的に支援する意向があることを自ら伝えたものとみられる。
北朝鮮は「新型コロナウイルスの感染者はゼロ」と主張しているが、国際社会はこれを疑問視する。北朝鮮ではそもそもウイルス検査態勢が不十分なため感染状況の掌握は困難だ。そのうえ、仮に感染が確認されても現場は処分を恐れて報告しない可能性もある。
一方で、トランプ氏には別の思惑もあるようだ。北朝鮮が最近、ミサイル試射を繰り返しているにもかかわらず、これを問題視しない立場を続けている。トランプ氏としては米朝関係や核問題の進展より、大統領選の最中に北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)試射などを強行して再選の妨げにならないよう北朝鮮側を導きたいという考えがあるとみられる。トランプ氏は今年1月にも、金委員長の誕生日(1月8日)を祝う親書を送り、個人的関係の維持に努めている。
両首脳の親密な関係を重視しているのは北朝鮮側も同じだ。談話の中で、金与正氏は、今回の親書を「特別で強固な個人的親交をよく示す実例」と表現した。金委員長も特別な関係を改めて確信し、トランプ氏の親書に謝意を表したことも明らかにした。
そのうえで談話は「幸いにも両首脳の個人的関係は、依然として両国の対立関係のようにそれほど遠くなく、非常に立派である」と強調した。トランプ氏個人を称賛しつつ米政府を批判するという両面戦術を改めて使い、米国側に譲歩を促した。