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なぜ週刊ポスト「名古屋ぎらい」特集は組まれたのか?

大竹敏之名古屋ネタライター
週刊ポストの「名古屋ぎらい」特集。ドアラも金鯱も嫌われ者?

週刊ポストの「名古屋ぎらい」3連発

週刊ポストの「名古屋ぎらい」特集が話題となっています(名古屋だけでかもしれませんが)。同誌2016年8月19・26日号の巻頭カラー8ページにわたって組まれたこの特集。名古屋独特の文化・風習の紹介や関係者の証言などで構成され、「せこい、見栄っ張り、ダサい、パクる。全国から不満噴出」と、名古屋を徹底的にコキおろしました。翌号の続編「名古屋人から猛反論が殺到 あぁ、やっぱり名古屋ぎらい」では“愛を込めて紹介したつもりなのに抗議してくることが名古屋らしい、だから嫌われるのだろうか”と火に油を注ぎ、さらに翌々号では「名古屋ぎらい 食い物編」と、第2、第3の矢が次々と放たれました。

表紙にも堂々「名古屋ぎらい」が謳われた週刊ポスト
表紙にも堂々「名古屋ぎらい」が謳われた週刊ポスト

“猛反論が殺到”した理由は、「日本一の嫌われ都市」「なぜ全国から目の敵にされてしまうのか」「日本中から散々な言われようの名古屋人」と決めつける執拗なバッシングにあります。しかも、ここまで言い切っておきながらソースが不明で、一体どこで、誰が、どれくらい嫌っているのか肝心の論拠が見えません。おかげで当事者としては言いがかりとしか受け止めようがなく、ひと言物申したくなるのは、名古屋人気質とは関係なくごく当たり前の反応だったと言えるでしょう。

「名古屋=魅力のない都市ワースト1」の調査が発端?

発端はおそらく6月末に発表された「都市の魅力やイメージ」アンケート調査の結果ではないかと思われます。名古屋市が全国8都市(他は札幌市、東京23区、横浜市、京都市、大阪市、神戸市、福岡市)を対象に行ったこの調査で、名古屋は軒並み低評価の憂き目にあい、「名古屋=魅力がない」との結果が全国に喧伝されてしまいました。

そもそもこの調査は、名古屋市が自らの魅力向上・ブランディングを図っていくための基礎情報として、現状の評価やイメージを把握しようと行ったものでした。結果として皮肉にも本来の目的とは真逆のマイナスイメージが広まってしまい、名古屋の永年の課題である“アピール下手”も図らずも証明されてしまいました。ポスト誌の「名古屋ぎらい」がこの結果を元に「魅力がない→不人気→嫌われている」とする論法から生まれたものだとしたら、まさに究極の逆効果としか言いようがありません。

名古屋を評価していないのは名古屋人(!?)

ポスト記事の中身については、地元民としてはツッコミどころ満載なのですが、事細かに検証・抗議・反論することは控えておきます。河村たかし市長が「イジメだがや」と憤慨している通りのメディアハラスメントであることは明白ですが、イジメっ子の小学生が「遊んでるつもりでした~」としらばっくれるのと同じレベルで「愛を込めてました~」と言い逃れする相手に何を言っても徒労を重ねるばかりです。

当事者としてはそれよりも、このような報道が生まれる背景、そして、マイナスイメージ払しょくの方策を考えることが先決です。

そこであらためて先のアンケート調査について、詳しくチェックしていくことにします。調査の中で一番の基本となるのが、8都市の住民の街に対する自己評価です。自分が住む都市に「愛着」「誇り」「推奨度」がありますか? この質問に対し、名古屋市民の答えはこうです。

「愛着」8都市中7位、「誇り」同6位、「推奨度」同8位とことごとく下位。とりわけ「推奨度」についてはトップの札幌市の1/4以下。ポスト誌は名古屋人は「上から目線」だと書いていますが、実態はその逆で、名古屋人はとにかく自分の街に自信がないのです。あるいは、もともと製造業で盤石の地位を築いてきた街なので観光で人に来てもらおうという意識に乏しいのです。ちなみに大阪市は「愛着」「誇り」では最下位ですが、「推奨度」では名古屋を2倍以上引き離しています。大阪人の心情は「あかんあかん大阪なんて。でもオモロイで、来てや」といったところでしょうか。この図太さ、名古屋市民としては大いに見習いたいものです。

自分が住む街に対する「愛着」「誇り」「推奨度」。名古屋は「推奨度」がとりわけ低い
自分が住む街に対する「愛着」「誇り」「推奨度」。名古屋は「推奨度」がとりわけ低い

他の7都市からの評価も含めると名古屋の不人気はさらに顕著になります。「訪問意向」(=行ってみたい)はダントツの最下位。というよりもほとんどポイントなし。つまり、嫌われている、というよりもとにかく人気がないのです。

この不人気の原因も元をただせば自己評価の低さにあると感じます。だって、当の地元民がお薦めしてくれない街に“行ってみたい”と思ってもらえるわけがありません。自分に自信がない、アピールする気がないといった気質が不人気につながり、ひいては面白半分のヘイト報道をも誘発してしまったと言えるのかもしれません。

「各都市へ買い物や遊びに行きたいと思いますか?」の設問で名古屋はダントツの最下位
「各都市へ買い物や遊びに行きたいと思いますか?」の設問で名古屋はダントツの最下位

名誉挽回のカギは“名古屋メシ”

かんばしくない評価が並ぶ中、光明となるのが他都市からの訪問経験の少なさ、そして名古屋メシです。

アンケート回答者は約5000名に上りますが、全体のおよそ半数が「名古屋に今まで一度も行ったことがない」と答えています。これは不人気を証明するものでもありますが、行ったことがないのだから魅力があるのかないのかも知らない、もっと言えば少なくとも嫌われてはいない、これから好きになってくれる可能性がある、そんな潜在人口がたくさんいるとポジティブにとらえることもできます。

そして「名古屋メシ」。名古屋に対する「魅力を感じる理由」として最も票を集めているのが「食べ物がおいしい」、そして「訪れたい・体験したい」でも全体の評価では「名古屋城」38・6%に次いで「なごやめし」が26・5%で2位、名古屋市民の評価では「なごやめし」1位(29・7%)、「名古屋城」2位(26・3%)と逆転します。つまり、名古屋メシは名古屋市民にとっても一番のセールスポイントであり、貴重な観光資源と言えるのです。

他都市の人には名古屋城が一番人気だが、名古屋市民のイチ推しは名古屋メシ
他都市の人には名古屋城が一番人気だが、名古屋市民のイチ推しは名古屋メシ

名古屋人が「名古屋好き」であることが第一歩

アンケート調査の残念な結果や、さらに残念すぎる「名古屋ぎらい」記事は、全国の人々の名古屋に対する無理解が招いたものと考えられます。その大きな要因として、当の名古屋人の地元コンプレックスがあることも間違いありません。名古屋ライターである私自身の力不足も痛感させられます。名古屋の魅力を全国に発信したい、地元の人にももっと名古屋を好きになってもらいたい。そう思って活動してきたことが、時の人・春風亭昇太師匠風にいえば「それじゃダメじゃん!」だったわけです。

しかし、これは残念ではありますが、むしろまだまだやるべきことが山のようにあるのだとファイトをかきたてられるものでもあります。そのためにはまず名古屋の人が名古屋の魅力をきちんと把握し、自信を持って他都市の人にお薦めすることが不可欠です。日々、おいしい郷土の味を食し、身近な歴史・伝統文化や街の景色に目を向ける。そうして見つけた街の魅力を外に向けてアピールする。そうやって自分たちの意識を「名古屋好き」に変えていくことから始めなければなりません。

目標は、何年後かの「名古屋好き」特集です。

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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