[高校野球]2022年の私的回顧(3) 延長=タイブレーク、というのは味気ないよなぁ
それにしてもすんなりと決まったものだ。なにがって、「タイブレークは10回から」である。同じ次元で論じられるものではないだろうけど、知らぬ間に防衛費がGDP比2パーセントになり、「反撃能力を保有」することになったのと「すんなり度」では似ている。
タイブレークは2018年春から導入され、延長13回から無死一、二塁で攻撃を始めるかたちで運用されてきた。それが来年3月18日開幕の第95回記念選抜大会からは、延長に入ると即、無死一、二塁である。12月2日に開かれた日本高校野球連盟の理事会で決まったのだ。どんな背景があったのかは知らない。だが導入されるまでの経緯を思うと、「そんなに性急に決めていいの?」というのが正直なところだ。
選手の体調への考慮や、大会運営の観点から、タイブレークが導入されたのがまず11年の神宮大会だ。さらに13年には国体、14年からは春季各都道府県や地区大会にも拡大したが、春夏の甲子園、またそれにつながる大会では、採用について慎重だった。
高校生が3年間積み重ねてきた鍛錬を、人為的に得点の入りやすい状況を設定する方式で結末させるのは酷、という抵抗が予想されたからだ。そのかわりといってはなんだが、甲子園では、13年夏から準々決勝翌日に休養日を設定するなどで選手の体調管理への配慮を示している。だが翌14年のセンバツでは、雨天順延が続いたうえ、広島新庄と桐生第一(群馬)が引き分け再試合となって休養日が消滅。体調管理のためのはずだったのに、かたちとして運営を優先させることになった。
休養日が形骸化した事態を受け、日本高野連はその年7月、甲子園でのタイブレーク制の導入について全加盟校にアンケートを実施。集計のさなかには、全国高校軟式野球の決勝が3日連続のサスペンデッドを経て延長50回で決着したこともあり、将来的にタイブレークを導入するという方向になる。
さらに17年のセンバツでは、2試合続けて延長15回引き分け再試合という史上初の事態が発生し、タイブレーク制導入やむなしという機運に。この年の再度のアンケートでは、40都道府県の回答中38が導入に賛成し、6月には、翌18年センバツと選手権を含むすべての大会でのタイブレーク採用が固まった。今回は……「10回からタイブレーク」について、アンケートをとったのかなぁ。
チャンスにいたるプロセスが妙味なのに
導入から4年。日本高野連の小倉好正事務局長は、「反対の声はだんだんなくなってきていると感じる。今回の変更にも最終的に(会議のなかで)ほぼ全員が賛同してくれた」と語るが、現場の指導者からは、
「9回までの流れがリセットされてしまう。10回では早すぎる」
という声も聞かれるし、僕も延長という野球の妙味が著しく低減してしまうのはどうかと思う。私事ながら、1969年夏の松山商(愛媛)と三沢(青森)の延長18回引き分け再試合にまつわる本を上梓したから、なおさらだ。
技術の進歩や戦術の洗練で、高校野球の試合時間は長くなっている。追い込まれても、打者はファウルで粘るから、投球数が増える。かつてより格段に選手層が厚くなったから、代打や継投の選手交代でも時間がかかる。
一方で甲子園では、1試合の所要時間を2時間と想定してそれ以降の開始時間を設定しているようだ。8時開始の第1試合が10時に終われば、30分でグランド整備とシートノックを終え、第2試合は10時30分開始、という目安。だがこの夏の48試合中、2時間以下で終わった試合は8試合に過ぎない。逆に、2時間半以上を要したのが12試合。3時間越えも1試合あった。
となると、1試合2時間の想定はいかにも無理だし、21年の夏のように突然の雨に泣かされることもある。そこから邪推すれば、10回からのタイブレーク導入は、試合時間の短縮化を図り、大会運営を少しでも円滑にしたいがため……?
いずれにしても、だ。サッカーのPK戦と同様、タイブレークという決着のつけ方は味気ないよなぁ。