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激動の1週間 新型コロナウイルスをめぐる学童保育の対応

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

 首相からの要請により、日本全国の98%超の小中学校が3月2日より休校になりました。かつてない状況が訪れました。その中で学童保育(正式名称:放課後児童クラブ)がにわかに注目を集めています。実際にこの1週間現場ではどんなことが起きたのか、見聞きしたものをまとめました。

○首相からの要請の日

 「日本全国の小中学校休校要請」のニュースは木曜の夜に一斉に伝わりました。その時点では、3月2日より学童保育をどうするのかはどこからも何の連絡もありませんでした。しかしこの木曜の夜から、翌週月曜日に朝から開けるための準備を自律的に始める団体もありました。このような急な休校・災害による登校時間の繰り下げなどの際には、多くの学童では自分たちがセーフティネットとして機能するために、朝から開けねば!という思考回路になっています。

しかし、一方で「開けるべきではない」という意見も学童保育の中ではありました。学校が休校になって家庭に留めるようにしているのに学童に来るのは本末転倒では?学童は人が密集するのでリスクが高いのでは?万が一にも学童で感染を広げたら大きな批判が寄せられるのでは?スタッフが感染するとかえって長期的に開けられなくなるのでは?そんな意見でした。翌週に朝から開けるための準備を迷いながら進める木曜日の夜でした。

○厚労省の通知

 その後厚労省から、保育所と学童保育について原則として開所してもらいたい、という通知が出たニュースが流れました。そのニュースで一気に意思が固まりました。本当に開けてもいいのか?という迷いは消え、「月曜日、朝から開ける」そのためにどうするか、に話が集中しました。時間がありません、結果的には土日もつぎ込んで、月曜日からの準備にあたります。主には人の手配です。通常は、放課後の時間に合わせて出勤するスタッフに連絡を取り、朝からの勤務が出来ないかを依頼します。スタッフの中にも子どもがいる方も多いです。また高齢のスタッフもいますし、出勤する気持ちになれないスタッフもいます。それでも何とか、人を集めていきました。人を集めると当然人件費が追加でかかります。3月の1カ月間、朝から開けるとなると相応の人件費負担になります。この時点では、その負担が保証されるのかは未定でしたが、「そんなの後で考えよう」と見切り発車をしていました。結果的にはその後政府から「午前中から学童保育を運営する場合は、1日あたり1万200円を加算する」という通知が出ました。「1万200円?」と全国の学童保育がずっこける音が聞こえた気がします。通常の放課後は14:30くらいから子どもが来ます。それを朝8時から開けるとなると、6時間30分拡大します。1万200円を6.5時間で割ると1時間あたり1,570円の加算。東京都の最低賃金は1,013円ですので、概ねアルバイトスタッフ人件費1.5人分相当しかありません。くじけそうな気持になりますが、とにかく必要な人員を揃えるべく準備を進めます。実際に何人子どもが来るのか分からないのも不安要素でした。その後、都道府県や市区町村が追加で費用を補助してくれることが報道されましたが、まだ具体的な額などは確定していない自治体も多いと思います。

○感染予防対策はどうする?

 準備段階において、明確な感染予防対策のガイドラインがないことにも頭を悩ませました。それまでも当然手洗いの徹底や定期的な換気などはやっていましたが、リスクのレベルが格段に上がったと感じる対策が国をあげて行われる中で、どこまでやればいいのか?ということが分からず不安になりました。結果的には3月2日に厚労省より子どもを預かる場合の感染防止策が提示されました。「子ども同士の不要な接触を避けるため、1メートル以上間隔を空けて活動することを推奨」というものには「それは無理でしょ」とみんなまたずっこけました。とはいえ、ガイドライン全体としては参考にしながら準備を進めました。

○3月2日を迎えて

 週末も含めて準備を行い、朝から多くの学童保育で受け入れを行いました。保護者からはあたたかい感謝の言葉をいただくこともできました。利用者は通常時の2~5割減くらいのようです。通常時は利用していても、ご家庭でテレワーク対応が出来ていたり、心理的に密集空間である学童保育に行かせたくない心理であったりが利用者減少の理由です。公務員やお医者様などのお子さんは通常通り来るケースが多いです。一方、通常は利用していない子もこの機会に開放した自治体もあり、そのような場合は減少と新たな利用増で通常時と同じくらいの人数になるケースもあるようです。

 各自治体から保育所等への登園を可能な限り控える自粛要請もあるので、今後も利用者数は少し減る予測が大半です。

○過ごし方はどうする?

 急遽、朝から学童保育を開けて悩ましいのが1日の過ごし方です。まず外で遊んで良いのかが迷う点でした。学校を閉鎖したのに校庭で遊んで良いのか?あるいは公園に行って良いのか?これについてはいまだに明確な指針はありませんが、1日中部屋の中にいるよりは、屋外で過ごす方が良いのでは、という考え方が多いです。そもそも子どもは1日中限られた部屋の中にいるとストレスもたまって、トラブルなどが起きがちです。

 このまま新学期までいくと5週間の終日開室になり夏休みと同じ長さになります。夏休みはキャンプがあったり、イベントがあったり過ごし方に工夫をしていますが、今回はそれを企画する時間はなかったので、そこも厳しいところではあります。

○学校活用

 厚労省と文科省からは、学童保育が小学校の空き教室を居場所として活用する要請、また休校した学校の教員が運営に携わることも可能という通知が出ました。しかしながらこの通知が大きく寄与した事例はほとんど聞きません。図書室を午前中の学習時に使用できるようになった、小学校の先生が時々見回りで来てくれる、などの話がわずかに聞こえる程度です。学童保育の学校活用、教員参加に明確に反対する人はいないのですが、普段やっていないことは非常時に急にはできないのです。そしてそもそも学校内にある学童保育は概ね半分程度です。学校外の学童保育は活動場所拡大の余地は薄いです。

○給食の提供

 休校に伴い、給食はほとんどの自治体でストップしました。食材は発注済ですので、だいぶ食品ロスも出たでしょうし、一部食材を売りに出すケースもありました。いくつかの自治体では、給食を提供しようとされていますが、通常より大幅に少量の発注だと事業者の動きが鈍い、また食べるにあたってはアレルギー対応が必要で教員が立ち会う必要がある、などの課題が出ています。そのような課題もありながら、給食提供にトライされている自治体に敬意を表したいです。

〇これからどうなる?

 今の不安はこれに尽きると思います。先週木曜日の夜からジェットコースターに乗り続けているように過ぎたこの1週間、月曜日なんとか朝から開校し、毎日が過ぎています。スタッフの確保には苦労しながら、少ない人員で工夫して過ごしています。

 一方で、スタッフに疲れも出てきました。8時から19時まで開室しているような学童保育が多いですが、準備・片付けも入れると12時間以上の勤務時間になります。早番・遅番の2交代制などで勤務するのが通常ですが、おそらくその手配ができずに12時間労働で働いてしまっている方もいると思われます。学童保育を支えるスタッフからはこんな声が実際に聞こえました。

「今日が何曜日か忘れました」

「全然事務をやる時間がない。来年度のことも今は考えられない」

「絶対体調崩せない、自分が休んだら開けられない」

 現場にはこのような緊張感が強いです。どんなに対策をしても、子どもですので接触したり、手を口に入れたりもします。遊具や本などたくさんの子が触れるものがありますし、マスクも消毒薬も底を尽きつつあります。4月に入ってもこの状況が続くのでは?という懸念も強いです。ただでさえ、4月は1年生が入ってくる1年で最も落ち着かない時期でもあります。先の見えない不安と緊張が疲労を加速させている状態です。その中で長期戦を覚悟しなければならないのです。

〇励ましの声

 このような状況で、「何かできることは?」と声をかけていただくことも多く、大変励まされる思いです。一方で、人や物の受け入れもなかなか難しいものがあり、実際にお願いできることは意外に少ないです。あえて言えば、マスクや消毒薬の支援が大変ありがたい状態ですが、医療現場にも足りてないと聞くとなかなか自分たちだけが提供を受けるのも申し訳ないと感じています。工作の材料寄付などもきっとありがたいと思います。

 色々と厳しい状況はありますが、とはいえ最も伝えたいのは、学童保育の現場はこんな時こそ!と使命感に燃えて頑張っていることです。自身の健康管理に最大限気をつけながら頑張るスタッフの皆さんの姿には本当に頭が下がります。

 今回は緊急事態ですので、何とかこのまま現場の頑張りでカバーするのだと思っていますが、今後は学童保育が社会の重要なセーフティネットになっていることの理解が広がり、日ごろから人・物・場所・金の支援が恒常的に広がることが願いです。保育士さん以上に厳しい学童保育の労働環境があります。

 また学童保育側も環境をなるべく閉じないで、様々な人や物の支援を受けやすいように日ごろからしておくことも大切だと感じています。

今後も緊張感が強い状態が続きますが、早く収束することを心から願っています。

来てくれる子どもたちの明るい笑顔が、スタッフにとって何よりの励みです。

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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