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パリーグ頂点への道~2016~

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

セリーグに続いてパリーグ編。得点の2乗÷(得点の2乗+失点の2乗)で計算されるピタゴラス勝率で、昨季の得失点をもとに優勝ラインとなる80勝に到達するためには各球団何が必要だろうか。

ソフトバンク

オープン戦の優勝から始まった昨季、交流戦でも優勝、ペナントレースは2位の日本ハムに12ゲーム差をつけて独走。CSファイナルステージは3連勝でロッテを寄せ付けず、ヤクルトとの日本シリーズは4勝1敗で完勝。シーズン通して2勝1敗ペースに迫る勝率.647で優勝の目安となる80勝を大きく上回る90勝を積み上げた。

打線はチーム打率.267、141本塁打、651得点が全て12球団トップと相手投手を粉砕。7年連続打率3割の内川が不振に苦しみ、本多、長谷川らの故障離脱があってこの数字である。そんな分厚い打線の中でも一際目立ったのが2015年NPB最強打者・柳田。トリプルスリーはもちろん出塁率は驚異の.469。複数出塁が当たり前の看板打者は1人で142.63点を稼ぎ出した。松田、李大浩も90得点以上を生み出した計算になり柳田を抑えたからといって安心出来ない。李大浩の去就は未定だが、昨季のウエスタンリーグ首位打者と盗塁王の上林、本塁打と打点王のカニザレスでさえ1軍出場が限られる布陣だったのだから今季も層の厚さは変わらない。ちなみにウエスタンリーグの打率上位5人中4人がソフトバンク勢。他球団ならとっくに1軍でレギュラーになっていてもおかしくない選手がゴロゴロいる。

投手陣も失点をリーグ最少の491点に抑えた他、1129奪三振は12球団最多、それでいて与四死球はリーグ最少。防御率1点台の大エースこそいなかったものの、武田を中心とした先発陣にサファテ、森、五十嵐らのリリーフ陣も分厚く隙が無い。さらにファームでも野手と同様に岩嵜が最優秀防御率と最多勝、千賀が最多奪三振などタイトルホルダーになっている。充実し過ぎる戦力のため得点が45点減り失点が45点増えても80勝圏内。3年連続の日本一へ不安は無い。

日本ハム

79勝を挙げながら首位・ソフトバンク、3位・ロッテとは大きく離れたダントツの2位となった昨季、得点ではリーグ平均を42点上回ったが、失点もリーグ平均より20点多かった。

投手陣では開幕7連勝を飾るなどした大谷が30.67点を防いだことになるが、先発陣で主だったアドバンテージは大谷だけ。規定投球回に到達したメンドーサが2.40点防ぎ、吉川は1.91点平均的な投手より失点が多かった。抑えの増井も15.39点を防ぐという優秀な成績を残したが、大谷以外にも防御率2点台の先発の柱がいないとソフトバンクを追い抜くことは難しい。吉川、メンドーサ以外にも中村、上沢、浦野、有原ら成長の見込める候補はいる。

打線では中田が87.56点、近藤が83.18点を生み出す活躍ぶり。レアードの生み出した得点は70.01点だから打率.326の近藤は34本塁打を放ったレアードよりも得点に貢献していることになる。打順別OPSではほとんどの打順でリーグ平均と同じか上回る成績を残した。唯一劣るのは3番の打順だが、それは強打者ではなく巧打者の田中をを置いたため。故障で2014年には85.71点の得点を生み出していた陽を欠いたが復帰すれば心強い。また、134盗塁、成功率77.9%はどちらも12球団トップ。OPSには表れない強みだ。

大谷に次ぐ先発の柱を確立し失点を20点減らす、陽の復帰で得点を20点増やす、この2つが出来ればソフトバンクの背中が見えてくる。

ロッテ

5年周期で訪れるゴールデンイヤーは終盤の猛スパートでCS進出を果たし、ファーストステージを突破。下克上を予感させたが王者・ソフトバンクの牙城は崩せなかった。レギュラーシーズンの成績を見てみると561得点で563失点。リーグ平均の573得点、561失点とほぼ同じで順位も3位だった。

何度も組み替えられた打線も打順別OPSで6番の高さが目立つ程度で他はリーグ平均とだいたい同じ。ポジション別OPSではライトがかなり、ショートがそれなりに高いがその他全てのポジションでリーグ平均に及ばない。特にファーストとサードというスラッガーが守るポジションのOPSがどちらも.650台では苦しい。チーム本塁打85本はリーグ最少。大砲が求められるチーム事情の中、韓国の2年間で79本塁打を放ちOPS.979を記録したナバーロを獲得。セカンドでゴールデングラブ賞を受賞しており、巨人に移籍したクルーズの穴は埋まりそうだ。

投手陣も涌井が最多勝に輝いたが防御率は3.39、防いだ失点は3.99点と決して圧倒的にねじ伏せたというわけではなかった。実は先発陣なら石川や大嶺、リリーフ陣なら大谷や西野の方が失点を防いでいる。ソフトバンクから移籍するスタンリッジもしっかり長いイニングをそれなりの失点でまとめられるタイプ。

投打共に”平均的”という表現がピッタリなロッテが80勝到達するためには増やす得点も減らす失点も35点。誰か1人の突然のブレイクよりはチーム全体の底上げで達成したい。

西武

得失点差で58点ものプラスを作りながら成績は69勝69敗5分で勝率は5割ジャスト。4位に終わりCS進出さえも逃した。

ただ631得点を叩き出した打線は12球団屈指。特にシーズン最多安打記録を更新した秋山と本塁打&打点の二冠王に輝いた中村の貢献は大きく2人でチーム得点の1/3以上を挙げた計算になる。ポジション別OPSでは指名打者を含む9ポジションの内、キャッチャーとショート以外の全てでリーグ平均を上回り唯一ソフトバンクに対抗出来る陣容が揃う。秋山、中村に昨季と同じ活躍を求めるのは酷かもしれないが、栗山、浅村、森らが本来の力を発揮すればこの強力打線の威力を保つことは十分に可能。仮に今季の得点を昨季と同じとするなら失点を35点減らせば80勝が現実味を帯びてくる。

その投手陣は十亀がチームで唯一規定投球回に到達しているが、2度抹消があり年間通して完全にローテーションを守れたわけではない。エースの岸も左脇腹を痛め16試合の先発にとどまり防いだ失点は8.53点。23試合に登板した2014年は23.14点だったからその差は大きい。ただ長年の課題だったリリーフ陣を武隈、増田、高橋朋を支え年齢的にも先は明るい。他にも高橋光や相内ら潜在能力の高い若手が控え、今季はC.C.リーとバンヘッケンの投手2枚が新加入。投打に充実のチームとなればBクラスから一気に巻き返す。

オリックス

2014年は首位・ソフトバンクとゲーム差無し、わずか2厘差の2位という好成績を残しオフに小谷野、中島、ブランコ、バリントンを獲得。大型補強で臨んだ昨季は優勝候補に挙げられていた。が、開幕からつまずき借金19の5位に終わった。

新加入の打者3人が生み出した得点は小谷野が24.74点、中島が52.29点、ブランコが17.81点。平均的な打者が同じ打席数に立った場合よりも1.89点低いという残念な結果に。キャプテンの重責を背負った糸井は得点換算で2014年と比べて37点成績を落とし、チーム得点519点もリーグ平均より54点少ない。昨季と比べて65得点減らした。しかし、増えた失点は減った得点以上。

特に2.49だった救援防御率が3.85まで悪化。平野、佐藤、比嘉、岸田、馬原のリリーフ陣が2014年は45.14点の失点を防いでいたが、昨季は1.51点多いとマイナス評価に転落。チームとしても失点は80点増えた。エース・金子が復帰すると今度はディクソンやバリントンが離脱するなど投打の主力に故障者が相次ぎほとんどベストメンバーが揃うことがなかった。

巻き返しを図る今季は失点を2014年と昨季の中間に抑えられるとするなら増やすべき得点は53点。若手から中堅になりつつ駿太、大砲・T-岡田ら生え抜き組と移籍2年目の実力者達がかみ合えば分厚い打線で今度こそ2年前の悔しさを晴らせる。

楽天

シーズン途中に打撃コーチが退団するなど1つになれなかったチームは2年連続で最下位に沈み、2年連続で監督が交代する事態に陥った。そんな状況では当然得失点も良いはずがなく463得点、612失点はどちらも12球団ワースト。共に100点改善しても80勝にはまだ届かない。33.5ゲーム差の最下位から優勝を目指すには大幅な改革が必要だ。

打順別OPSは7番を除いて全てリーグ平均以下。ポジション別でもリーグ平均以下でないのはキャッチャーと指名打者だけ。しかも上回っていると言ってもキャッチャーは.013、指名打者は.001だけだから他球団に勝るストロングポイントというわけではない。リーグ2位の118盗塁を決めたが盗塁死60は12球団最多。トータルではマイナスの方が大きく選手層の薄さをカバー出来なかった。今季は貧打解消のため41本塁打、117打点の好成績でメキシカンリーグMVPに輝いた体重135kgの巨漢・アマダーを獲得。打点こそ少なかったがチームに21.22点のアドバンテージをもたらしたペーニャ以上の活躍に期待。また、今江、栗原らにも新天地で奮起してもらわなければならない。キャリアハイの成績ならば今江は87.81点、栗原は103.91点の得点を生み出す。新戦力が爆発し、銀次ら主力にも1年間フルに活躍してもらうことが求められる。

12球団唯一の600点台の失点を喫した投手陣で大きなアドバンテージをもたらしているのは則本と松井だけ。その他の投手ではマイナスの数字がズラリと並ぶ。ただ福山、青山、クルーズはリーグ平均以上の数値を残しており、これにミコライオが加わればブルペン陣はかなり豪華になる。80勝のためには得点も失点も110点近くの成績向上が必要だが、勝ちパターンの継投さえしっかりしていれば得失点以上の成績が残せるのは特に近年の歴史が証明している。打線がリーグ平均並みの得点を挙げてリリーフ陣が凌ぎ切る、今季楽天が前評判を覆すにはこの戦い方しかない。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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