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シリアで米露による敵対行為停止合意が発効:シリア、ロシアの停戦違反に米国が「沈黙」を続けるかがカギ

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

米とロシアによるシリアでの敵対行為停止に関する合意は、26日に国連安保理決議第2268号として国際承認され、シリア時間の27日0時に発効した。

この合意は、ダーイシュ(イスラーム国)とアル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線が除外されるとともに、米・ロシア両国を含むシリア国内外の紛争当事者の間で、シリア政府との戦闘停止の対象となる「合法的な反体制派」の認識が異なるために、当初からその実効性に疑問が投げかけられていた。事実、合意発効後も、主にシリア軍、ロシア軍が、ヌスラ戦線と共闘する(とみなす)反体制武装集団への攻撃を継続し、支配地域を拡大するという違反行為が散見される。

しかし、こうした違反行為を厳しく指弾するはずの欧米諸国、とりわけ米国は今のところ、明確な態度を示していない。米・ロシア両国が合意にいたる段階でいかなる駆け引きをしたのかは知る由もないが、こうした「沈黙」が続けば、シリア、ロシア両軍による違反行為は既成事実化し、武力での政権転覆をめざそうとしてきた「反体制派」はこれまで以上に不利な状態に追い込まれることになろう。

2016年2月下旬のシリア情勢をめぐる主な動きは以下の通り。

1.米・ロシアによる敵対行為停止合意が発効

ドイツのミュンヘンでのISSG(国際シリア支援グループ)外相会合での合意を受け、シリア国内での戦闘停止について協議してきた米・ロシアは同国での敵対行為停止の条件を合意した。この合意の内容は以下4点にまとめることができる。

(1)シリア時間で2月27日0時にシリア国内での敵対行為を停止する。

(2)敵対行為停止は、シリアのすべての紛争当事者を対象とし、国連安保理決議第2254号およびISSGの諸合意に従い、ダーイシュ、ヌスラ戦線、そして国連安保理が指定するその他のテロ組織を除外、シリア軍、ロシア軍、有志連合はこれらの組織に対する軍事行動を継続する。

(3)対象となるすべての当事者は、シリア時間で2月26日12時までに、ロシアないしは米国に敵対行為の停止の諸条件を受諾した旨を通告する。

(4)米国とロシアは、戦闘行為停止の対象となる地域(「グリーン・ゾーン」)と対象外となる地域を画定するとともに、停戦監視のメカニズムを構築、「ホット・ライン」を設置するなどして停戦状況などについての情報交換を行う。

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米・ロシアはこの合意を国際承認するため、国連安保理に決議案を提出、決議案は26日に国連安保理決議第2268号として全会一致で承認された。

国連安保理決議第2268号は、米・ロシアによる敵対行為停止を承認し、すべての当事者にその遵守を求めるとともに、すべての加盟国に対し、シリア政府と反体制派の双方に影響力を行使し、和平プロセス、信頼醸成を進展させるよう求めており、シリア紛争解決に向けたいわゆる「ジュネーブ・プロセス」や「ウィーン・プロセス」の延長線上に位置づけることができる。

しかし、この決議は採択段階における「若干の修正」に着目すると、「反体制派」の処遇をめぐって、米国が、同盟国のトルコやサウジアラビアを阻害するかたちでロシアに歩み寄ったことが読み取れる。

決議案では当初、「リヤド最高交渉委員会は戦闘停止の実施において連絡情勢の役割を果たす」との文言があったが、米・ロシアは採決に先立ってこれを削除した。

リヤド最高交渉委員会は、2015年12月にサウジアラビアの肝入りで同国の首都リヤドで開催された反体制派の合同会合において、シリア政府との交渉に臨む反体制派の統一代表団を選出することを目的に設置された組織で、2015年12月に採択された国連安保理決議第2254号においては、こうした動きを尊重する旨明記されていた。

だが、リヤド最高交渉委員会は、統一代表団選出の過程で、トルコやサウジアラビアに同調するかたちで西クルディスタン移行期民政局(ロジャヴァ)を主導する民主連合党(PYD)を排除し、PYDやロジャヴァの武装部隊である人民防衛部隊(YPG)、さらにはこのYPGを軸とするシリア民主軍を後援する米・ロシア両国との間に軋轢が生じていた。

リヤド最高交渉委員会に関する文言の削除はそれゆえ、同委員会の相対化、そしてそれを後押しするトルコやサウジアラビアの影響力の低下という意味すると解釈できる。

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決議採択と合わせて、ロシアはシリア駐留軍の本拠地であるフマイミーム軍事飛行場(ラタキア県)に、米国はヨルダンの首都アンマンに停戦監視を目的とした当事者和解調整センターを設置し、両国はシリアの当事者に対して敵対行為停止合意を受諾するよう求めていった。

両国の合意を受け、シリア政府、YPG、シリア民主軍は早々に受諾を表明した。一方、リヤド最高交渉委員会は消極的な態度を示したが、米国の要請を受けるかたちで、傘下の97武装組織が「2週間だけ暫定的に停戦する」との条件付きで合意を受諾したと発表した。

ロシア国防省が発表したところによると、最終的には、シリア政府のほか、シリア民主軍や砂漠の鷹旅団(ハサカ県南部でダーイシュと戦うアラブ人部族の民兵)など17の反体制武装組織がロシア側に、リヤド最高交渉委員会傘下の組織を含む65組織が米国側に合意受諾を通告したという。

しかし、米・ロシア双方とも合意を受諾した組織の名称を開示しておらず、実際にどの組織(そして誰)が停戦に応じているのは不透明なままである。加えて「グリーン・ゾーン」についても、米・ロシアがコンセンサスに達したのかが判然としていない。

それゆえ、停戦違反を客観的に判定することは不可能で、違反の有無は停戦を監視する米・ロシアの政治判断に事実上委ねられている。

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なお、ダーイシュとともに停戦対象から除外されたヌスラ戦線は、合意発効に先立って、最高指導者のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー氏が音声声明を発表、合意の受諾が「革命を終わらせ、アサドの軍事治安組織を維持」につながると非難、シリア国民に対して「政権の腕のなか」に戻らせようとする欧米諸国の「策略」に騙されないよう警鐘を鳴らした。

複数のメディアによると、ヌスラ戦線は合意発効に先立って、連携する武装集団に対して停戦に応じないよう脅迫するなどといった態度をとったが、その一方で、共闘組織が合意発効後にシリア軍やロシア軍の空爆大将となることを回避するべく、イドリブ県サルマダー市などから撤退した。

またヌスラ戦線と並んで合意に疑義を呈した唯一の紛争当事者として、トルコをあげることができるが、同国政府の動静については後述する。

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米・ロシアが敵対行為停止に合意する過程で、ヌスラ戦線と共闘してきた武装集団において組織再編の動きも健在化した。

アレッポ県では、「穏健な反体制派」と目されるシャーム戦線、第46師団、第312師団、第9旅団、第314ハック連隊が組織を解体、「解放軍」として完全統合する一方、ファトフ軍はシャーム自由人イスラーム運動からの離反を宣言し、アレッポ県郊外統合軍事評議会への合流を決定した。

一方、アレッポ県、イドリブ県、ラタキア県などシリア北部を中心活動するスンナ軍はイーマーン旅団とともに「イーマーン軍」を新設、シャーム自由人イスラーム運動の指揮下に入った。

このほか、クナイトラ県では、ラフマーンの兵中隊、ラフマーンの獅子、バニー・ハーリド、ハムザト・アッラーの獅子、ヒッティーン旅団が「タウヒード軍」の名で完全統合した。

こうした再編は、ヌスラ戦線と距離を置くことで、敵対行為停止合意発効後にシリア軍やロシア軍の空爆を受けることを回避する一方で、合意を受諾した組織のなかで最有力のシャーム自由人イスラーム運動との関係を強化すること、戦闘継続と生き残りを狙った動きと見ることができる。

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敵対行為停止合意が発効したシリア時間の27日0時以降も、シリア軍、ロシア軍、反体制派による停戦違反は散発した(その詳細については後述)。

これに関して、ロシア国防省は27日に9件、28日に7件の停戦違反を確認したと発表した。またリヤド最高交渉委員会は、2月27日にシリア軍側による停戦違反が15件発生したと主張、国連に対しては26回の空爆は行われたと報告した。

しかし、停戦違反に対して厳しい非難の姿勢を行ったのは、3月1日の段階でサウジアラビアのアーディル・ジュバイル外務大臣だけであり、米国をはじめとする欧米諸国は、停戦違反が発生したという事実について言及はするものの、従来のようなアサド・バッシング、ロシア・バッシングは今のところ行っていない。

米国などによるこうした「沈黙」は、「停戦が保たれれば、3月7日にジュネーブ3会議を再開する」とのスタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表の発表を受けた静観姿勢と理解できる。

2.敵対行為停止合意発効後も、ダマスカス郊外県東グータ地方、イドリブ県、アレッポ県などで散発的な停戦違反が続く

シリア軍、そしてこれを支援するロシア軍は、敵対行為停止合意発効を受け、攻撃の範囲・規模を大幅に縮小したが、各地でヌスラ戦線と共闘関係にある(とみなす)武装集団への攻撃を継続した。

合意発効日の前日にあたる2月26日、ロシア軍と思われる戦闘機がダマスカス郊外県東グータ地方のドゥーマー市、マルジュ・スルターン村一帯、ダイル・アサーフィール市、ザマルカー町一帯に対して「過去最大規模」(シリア人権監視団)の空爆を実施し、子供1人と女性3人を含む8人が死亡、20人以上が負傷した。同地は、マルジュ・スルターン村での戦闘で合同司令部を設置するイスラーム軍、アジュナード・シャーム・イスラーム連合、シャーム自由人イスラーム運動、シャームの民のヌスラ戦線などの支配地域である。

また、シリア軍もダマスカス郊外県(ダーライヤー市など)、ラタキア県北西部、ハマー県(ラターミナ町など)、ヒムス県(ティールマアッラ村など)、アレッポ県(カフルハムラ村など)での攻撃を激化、ラタキア県北東部では、ヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動、アンサール・シャーム、トルコマン・イスラーム党、第1海岸師団、第2海岸師団などからなる武装集団と交戦し、アイン・ガザール村、ワター農場、マズガリー村、下バルザ村を奪還した。

敵対行為停止合意発効後も、シリア軍とロシア軍は、アレッポ県のフライターン市、アンダーン市、カフルハムラ村、ダーラ・イッザ市など、ハマー県のハルブナフサ村、イドリブ県ジスル・シュグール市西部近郊、ヒムス県ティールマアッラ村で、ヌスラ戦線と共闘してきた武装集団に対する空爆、砲撃を続けた。

またダマスカス郊外県では、マルジュ・スルターン村一帯で、サウジアラビアが後援するイスラーム軍などからなるジハード主義武装集団と交戦し、ファルザート丘に近い農業研究所を制圧し、支配地域を拡大した。

これに対して、SANAによると、イスラーム軍やヌスラ戦線などの支配下にあるダマスカス県ジャウバル地区、ダマスカス郊外県東グータ地方から、ダマスカス県アッバースィーイーン地区に迫撃砲弾が飛来した。

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一方、ロジャヴァの支配下にあるアレッポ市シャイフ・マクスード地区では、対行為停止合意発効後も、スラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動、スルターン・ムラード師団が攻撃を加えた。これらの武装集団の攻撃はアレッポ市アシュラフィーヤ地区などにも拡大、YPGがこれに応戦した。

3.トルコのエルドーアン大統領はシリアでの敵対行為停止合意を「義務でない」と拒否、合意を受諾したYPGへの戦いを継続する意思を表明

トルコ軍は、ロジャヴァの支配下にあるアレッポ県北西部のアフリーン市一帯(ディクマーディシュ村、カスタル・ジュンドゥー村、シャーディヤー村など)への越境砲撃を継続した。

これに対して、マーク・トナー米国務省報道官は記者会見で、YPGにアレッポ市での進軍を停止するよう求める一方、トルコに対しても米・ロシアによる敵対行為停止合意を遵守するかたちで、シリア領内のクルド人部隊への砲撃停止を求めた。

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敵対行為停止合意が発効した27日以降、トルコ軍によるアレッポ県北西部のロジャヴァへの越境砲撃は(3月1日現在)確認されておらず、トルコ軍は、米軍主導の有志連合との連携のもと「安全保障地帯」のダーイシュの拠点への越境砲撃を行っているのみである。

しかし、トルコ政府、とりわけレジェップ・タイイプ・エルドーアン大統領は、YPG、PYDを「テロ組織」と断じ、その排除を強く主張、敵対行為停止合意を拒否・批判する発言を繰り返している。

合意発効前、エルドーアン大統領は「ダーイシュやヌスラ戦線と同様、PYD、YPGは停戦から排除されねばならない。これらの組織はテロ組織だ」と述べるとともに、合意に対しては歓迎の意を表しつつも「米国、EU、国連、ロシア、イランが恥ずべきかたちで、アサド政権軍による民間人殺害を直接、間接に許している」と批判した。

エルドーアン大統領はまた合意遵守を「義務ではない」としたうえで、「クルド人戦闘員によるトルコへの攻撃を完全に阻止」すべきだと述べた。

合意発効後も、エルドーアン大統領は合意を「シリアを三つの地域に分割しようとするこの計画を皆が懸念している」と批判、その理由として「一部の者が、シリア北部に回廊を作り、YPG、PDYの手に渡そうとしていることを支援しているからだ…。我々はこうした回廊の設置を許さない。我々はこの点に関して自分たちに課せられた義務を遂行する。テロ組織のためのこうした回廊が存在することは、我々にとって問題であり脅威だ」と強調した。

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こうしたトルコ政府の姿勢に対して、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣は、モスクワでの記者会見で、米・ロシアによるシリアでの敵対行為停止合意の実施状況に関して「残念ながら、トルコは越境攻撃を行い、対シリア国境に(安全保障)地帯を設置するという考えをあきらめていない。トルコ政府が今後とるであろう行動を踏まえると、そこに危険な状況がある」と述べた。

その一方、シリアの将来の政治体制に関して、「連邦制のモデルに基づく体制は、シリアを統一的で世俗的な独立主権国家として維持することに資するだろう」と述べ、米国とともに支援を強化している西クルディスタン移行期民政局の存在に理解を示した。

4.敵対行為停止合意が発効するなか、ダーイシュは反体制派と連携して、シリア軍、シリア軍、「穏健な反体制派」への反転攻勢を激化

2月21日、シリア政府支配下のダマスカス郊外県サイイダ・ザイナブ町とヒムス市ザフラー地区で連続自爆テロが発生し、約130人以上が死亡、約300人が負傷、ダーイシュが犯行声明を出した。

サイイダ・ザイナブ町、ヒムス市ザフラー地区がダーイシュによって狙われるのはこれが初めてではなく、シリア治安当局の治安対策の不備が浮き彫りとなった。

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ダーイシュの支配下にあるアレッポ県東部および南東部、ハサカ県、ラッカ県では、2015年9月末のロシアによる空爆開始以降、シリア軍、YPGの攻勢が続いていたが、敵対行為停止合意発効と前後して、ダーイシュによる反転攻勢がにわかに強まった。

シリア軍との戦闘において、ダーイシュはアレッポ県東部のサフィール市郊外の25カ村から撤退し、同地はシリア政府の支配下に入った。だが、その直後、ハマー県に近い南東部のハナースィル市・アスライヤー村街道に侵攻し、ハナースィル市などを掌握、アレッポ市とハマー市を結ぶシリア政府の兵站路を寸断した。

ハナースィル市・アスライヤー村街道の攻略に関して、反体制メディアは、アレッポ県南部でシリア軍との戦闘を続けてきた反体制武装集団との連携のもとに行われたと報道した。すなわち、ダーイシュの侵攻と同時に、ファトフ軍にも名を連ねてきたアル=カーイダ系組織のジュンド・アクサー旅団やコーカサス大隊を名乗る武装集団が、アレッポ市・ハナースィル市街道に侵攻し、同地を制圧したのである。

ハナースィル市・アスライヤー村街道、アレッポ市・ハナースィル市街道をめぐる攻防戦は、シリア軍が劣勢を挽回、ハナースィル市を含む一帯を奪還することに成功し、アレッポ市・ハナースィル市街道は再開された。しかし、ハナースィル市・アスライヤー村街道一帯には依然としてダーイシュが残留している。

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一方、シリア民主軍との戦闘において、ダーイシュはハサカ県シャッダーディー市一帯、ハサカ市南部アブドゥルアズィーズ山一帯で一進一退の攻防を続ける一方、ラッカ県のタッル・アブヤド市一帯に侵攻し、同市北部一帯、スルーク町、ハマーム・トゥルクマーン村、アイン・アルース村などを掌握した。

ラッカ県北部へのダーイシュの侵攻を受け、有志連合が空爆支援し、シリア民主軍は同地からダーイシュを放逐することに成功した。

なお、ラッカ市北部でのダーイシュの侵入に関して、ロシア外務省は、トルコ領からの戦闘員潜入、越境支援があったとの情報を米国の当事者和解調整センターから受けたと発表した。

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このほか、アレッポ県北西部にあるマーリア市一帯の「穏健な反体制派」支配地域(「安全保障地帯」)では、ダーイシュがカッラ・クーバリー村、カッラ・マズラア村に攻勢をかけ、シリア・ムスリム同胞団系のシャーム軍団やトルコマン人(トルコ系住民)からなるスルターン・ムラード旅団との戦闘の末、同地を制圧した。

ダーイシュはまた、ジャーリズ村でも「穏健な反体制派」を掃討し、支配下に置いた。

なお、前述の通り、敵対行為停止合意発効後、トルコは有志連合と連携し、「安全保障地帯」のダーイシュ拠点に対する越境砲撃を行った。

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国連は、ダーイシュの包囲下にあるシリア政府支配下のダイル・ザウル市の住民に対する人道支援の一環として、物資21トンをパラシュートで投下、シリア軍がこれを受け取った。

5.紛争での死者総数が27万人を越えるも、停戦発効後の1日平均の死者数は半減

シリア人権監視団は「アラブの春」波及により、ダルアー県で最初の死者が出た2011年3月18日から2016年2月22日までの間の死者総数が27万人を越えたと発表した。

同監視団によると、2月22日時点の死者総数は27万1,138人で、その内訳は以下の通り:

(1)民間人:12万2,997人(うち18歳未満の子供1万3,597人、18歳以上の女性8,760人、戦闘部隊およびイスラーム主義部隊の戦闘員4万3,891人)

(2)離反兵:2,561人

(3)シリア政府軍:5万5,042人

(4)国防隊、バアス大隊、人民諸委員会、シリア民族社会党、アレキサンドレッタ地方解放人民戦線、シャッビーハ、パレスチナ解放軍、体制への内通者:3万7,966人

(5)レバノンのヒズブッラー:1,025人

(6)イラン、アフガニスタン、その他のアジア諸国、アラブ諸国籍のシーア派の親体制民兵、パレスチナ人の句ドゥ旅団、アラブ人諸国籍の親体制民兵:3,809人

(7)ダーイシュ、ヌスラ戦線、ジュヌード・シャーム、ジュンド・アクサー機構、ジュンド・シャーム機構、ハドラー大隊、トルコマン・イスラーム党、チェチェン・ジュヌード・シャームなどのイスラーム主義運動に参加していたアラブ湾岸諸国、北アフリカ、エジプト、イエメン、イラク、レバノン、パレスチナ、ヨルダン、スーダン、そのほかのアラブ諸国、欧州諸国、ロシア、中国、インド、アフガニスタン、チェチェン、米国、オーストラリア国籍の戦闘員:4万4,254人

(8)身元不明:3,484人

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またシリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表はAFP(2月29日付)に対し、米・ロシアによるシリアでの敵対行為停止合意が発効した27日以降の戦闘での死者数が144人に抑えられていると述べた。

アブドゥッラフマーン代表によると、27、28日の戦闘での死者の内訳は、(シリア軍)兵士70人、民間人36人、反体制武装集団戦闘員38人で、ヌスラ戦線とダーイシュの戦闘員の死者は含まれていないという。

敵対行為停止合意発効以前(2月)の1日平均の死者数は約120人(ダーイシュの支配地域を除く)と発効後の約倍であった。

6.国連安保理決議第2254号が定める移行プロセスを事実上無視するかたちでシリア政府は第2期人民議会選挙を始動

アサド大統領は2月22日、2016年法令第63号を施行し、現行憲法と現行の選挙制度のもとで第2期(第11期)人民議会選挙の投票を4月13日に実施することを決定した。

これを受け、最大与党のバアス党やその傘下にある人民諸組織、職業諸組織が準備を開始した。

また27日から立候補者の受付が開始され、29日時点での立候補者数は5,578人に達した。

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本稿は、2016年2月下旬のシリア情勢を踏まえて執筆したものです。 主な記事はhttp://syriaarabspring.info/?page_id=26816を参照ください。

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東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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