「無許可チャーシュー」から見える飲食店の食に対する安全意識
千葉市のホテルのチャーシューに金属片
千葉県教育委員会は7月18日、公立学校共済組合が運営する「ホテルポートプラザちば(公立学校共済組合千葉宿泊所)」(千葉市中央区)が販売したチャーシューに金属片が混入していたため、ホテルが自主回収すると発表した。また、同ホテルが食品衛生法上の許可を得ずに製造及び販売をしていたとして、市保健所は製品の自主回収と、チャーシューの製造販売の中止を指導した(参考記事:毎日新聞 7月19日)。
同ホテルでは昨年9月頃よりチャーシューの通信販売を始め、これまでに1万本あまりを販売していた。チャーシューの製造及び販売に必要な許可は「食肉製品製造業許可」となるが、「ハム、ソーセージ、ベーコンその他これらに類するもの」という許可対象にチャーシューが表記されていなかったため、ホテル側はチャーシューに許可は不要と判断していたという。今回の異物混入によって無許可状態での製造販売が明らかになった形だ。
飲食店にはハードルが高い「食肉製品製造業」許可
異物混入と食肉製品製造業許可との因果関係はまた別の話になるので今回は置いておくが、チャーシューが食肉製品製造業許可の対象になっていることを、ホテル側が考えなかったという説明には疑問を禁じ得ない。万が一ホテル側が主張する通りだったとすれば、当該保健所などへの確認を怠っている時点で、食を扱う立場としてあまりにも杜撰だ。しかし実際問題として、このホテルが食肉製品製造業の許可を取れたかというと、現実的にはなかなか厳しかったのではないかと考える。
今回のようなレストランやラーメン店などの飲食店が食肉製品製造業許可を取る場合には、原則として通常営業時の厨房の他に該当製品専用の製造室や包装室の設置が必要となり、さらには国家資格である「食品衛生管理者」を置くことが義務づけられる。食品の安全確保上問題がなければ、施設や設備の一部省略、または他の食品営業許可施設等との施設設備の共用が認められる場合もあるが、いずれにしても管轄の保健所への確認は必須となる。
つまり通常の飲食店が本格的にチャーシューの製造販売を手掛けるには、現実問題としてかなりハードルが高いということだ。例えば個人経営のラーメン店などでチャーシューを売るだけのために、チャーシュー製造室や包装室を作ることはコスト的にもスペース的にも不可能なのは自明だろう。しかし、実際には多くのラーメン店や飲食店がチャーシューを作って売っている。これはすべて違法なのだろうか。
「飲食店営業許可」だけでチャーシューを製造販売出来るケースとは
実は「飲食店営業許可」だけでチャーシューを製造販売出来る場合がある。製造された場所での「対面販売」であれば、原則として飲食店営業の許可で販売が可能だ。しかしその場合も、チャーシューを作っている厨房がある店舗で販売するには問題ないが、その店の支店や別の場所へ納品して販売をする場合には食肉製品製造業許可が必要となる。
今回のホテルの場合も、ホテルのレストランで持ち帰りによる販売だったとしたら飲食店営業許可の範囲内だった。しかしインターネットによる販売という販売形態が抵触した。当然ながらインターネットによる販売をする場合は、製造場所での対面販売ではないので食肉製品製造業許可を受けるか、食肉製品製造業許可を得ている外部業者に製造を委託する必要がある。
高いコンプライアンス意識が消費者と飲食店自身を守る
しかし、インターネット上では多くの個人経営の飲食店がチャーシューなどを販売している。今の時代、インターネット販売のルートを作りたいという飲食店の気持ちも理解出来るが、実際に販売している飲食店経営者数名に確認をしてみると、今回のホテルと同様に食肉製品製造業許可は不要と思っていたケースや、そもそも食肉製品製造業を知らないケースもあった。
今回のケースは不幸中の幸いで大事にはいたらなかったが、もし無許可で販売したチャーシューで食中毒などのトラブルが出た場合どうなるか。もちろん許可があろうがなかろうが食中毒を出さないというのは大前提だ。もし保健所の指導下に置かれた環境や状況で許可を得た上で製造販売していれば、飲食店側のダメージは少なく済むかもしれないが、ルール違反した環境下で食中毒でも起こそうものなら申し開きが出来ない。
インターネットを介した販売など今までにない販路が増えたこともあって、法整備はもちろん飲食店側の理解も追いついていないのが現状ではある。そして保健所側からの周知や指導も徹底しているとは言い難い。もちろん実態に応じた法改正や規制緩和などは必要だろうが、現状のルール内でどうしたら製造販売が出来るのかは、飲食店側から保健所に相談をすることが第一だ。食品衛生法などの法律や条例は、消費者を守ると同時に飲食店側も守るルールでもある。法を守るということは法に守られるということでもあるのだ。